五匹目・第二章
「────ねぇ、ねぇってば!」
ざわざわと意識に広がる喧騒に、目の前にある少女の顔。
「どうしたの?さっきからずぅーっとぼんやりしてるよ?」
『ごめん、ごめん。ちょっと寝てたかな?』
「寝ないでよぉー!」
彼女は奈美。
学校わらしと呼ばれている妖怪で、座敷童子の一種だ。
私と椎名の同級生でもある。
「##NAME4##ちゃん気付いてないみたいだけど、もう昼休みだよ?」
『……………………っ!!?』
ガタン、と大きな音を立てて思わず立ち上がって時計を見ると、針が指していた時刻は、12時を少し過ぎたところだった。
『……嘘だろう』
「嘘じゃないよー、だから##NAME4##ちゃん所に給食おいてあるじゃん」
『……あっ』
何時の間にか、机には給食が並んでいた。
少し息を吐いて、すとん、と席に腰を下ろす。
「給食食べないのかな、って呼んでたら意識が“どっか行っちゃってる”んだもん」
『あー、うん、ごめんよ』
苦笑して給食に口を付ける。
咀嚼しつつ、隣の席を横目で見ると空席だった。
「椎名君が気になるの?」
『まあね。心配はしてないけど』
ひどいよー、と奈美は笑った。
談笑している最中ふと思って、こう聞いた。
『奈美。もしも私が自らを代償にしてまで誰かを救ったとするよ。
……………………それが、誰かの運命を変える事になっても。君は』
「しぃーっ」
それを言いかけた##NAME1##の口に、奈美は人差し指を当てて制止を促す。
「ねぇ、##NAME4##ちゃん。
##NAME4##ちゃんは自分の価値を知らないからそんなこと言えるんだよ。
“私たち”は##NAME4##ちゃんが大好きだから、そんなことがあったら何としてでも止めるよ。
原因も、それを作った奴らも。
それが例え、##NAME4##ちゃんの大事なお友達でも」
じい、と##NAME1##を見つめる奈美の目の光は、酷く酷薄な色をしていた。
奈美も、一応は妖であるということなのか。
『……そうだね、ごめん。
つい、余計なことを聞いてしまった』
思わず伏せた視界に写るのは、水鏡に写された自分の表情だけだった。
『それでも、私は変えるだろうな』
本当に心から望むのであれば。
それは、どれだけ幸せな事だろうか。
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