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五匹目・第一章




社務所の奥座敷。
そこで、私はぼんやりと掛け軸を眺めていた。



日本画特有の繊細で生々しい絵。
床に渦を巻く黒髪、白い肌、赤い唇、こちらをじぃと見つめている虚ろな目───




「───##NAME3##……?」



パチン、とシャボン玉が弾けるような音が聞こえた。



「大丈夫か?」



『───大丈夫…』



吸い込まれそうな、あの虚空。
確かに、あの絵は相当念が込められてる。




───血でも混ぜたか。




『……ちょっと外の空気を吸ってくる』



「俺も行く?」



『…いや、椎名は来ない方がいい』



何かを察したのだろう、不承不承といった様子で椎名は「わかったよ」と頷いた。







不入の森の騒めき。
それに交わる、誰かの笑い声。



『───小夜子、』



風の音に紛れて、響いている声。





みつけた、みつけた、ようやく。



わたしの、わたしの。






『“彼”は君の探している人じゃ無いのにね』



───可哀想に。



珍しい事に、何時もは優しげなその群青色の瞳の奥には冷え切った光が宿っていた。





「##NAME3##!」



半泣きでリョーチンが駆け出してきたその後から、てっちゃん、椎名も来た。



『リョーチン、てっちゃん、椎名。どうしたの?』



ぱちくり、と目を瞬かせる私に、椎名は「掛け軸が落ちたのにビックリしたんだ」と言ってくれた。



『掛け軸───って、あの?
小夜子の首が描かれている?』



「そうだよ。それが突然落ちたんだ。
ちゃんと掛かってた筈なのにね」



不思議そうに、そう椎名は話した。



『そうなんだ。
………可哀想に、ねぇ』



珍しく冷ややかな口調で、##NAME1##は語る。



「誰が?」



『……その、小夜子って女の人がね』



嘲笑するような、そんな響き。
それでいて、自嘲的な響きも含んでいた。



『三田村さんも、大変だねぇ』



そして、愉快そうな話しぶり。



「ミッタンが?」



『モテ男は大変だねぇ、って事さ』



##NAME1##にしては珍しく要領を得ない返答をして喉の奥で嗤う。
愉快そうに、嘲るように。


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