四匹目・第二章
『……ごめん、椎名。ハンカチ無い?』
ぷらん、と数珠をつけていた方の腕を見せる。
「どうし───ってどうしたのそれ!」
『さっきうっかりと破片で切っちゃったっぽいんだ。あ、数珠は後で燃やしてもらうから問題ないけど…問題はこれなんだよ。私のはさっき簡易封印の為の包みに使っちゃったし』
だらり、と粘着質などす黒い液体が傷口から溢れでている。
あの穢れと、血の混ざった液体だ。
「ちょっと待って…はい、どうぞ」
『……ごめん。ハンカチ、駄目にしちゃうかもしれない』
ぎゅ、と傷口の少し上を縛る。
『よし。これであとは心臓より少し上に…』
ぶつぶつと呟いているのを不審に思ったのか、椎名が声を掛けてきた。
「##NAME3##って、どうしてそういう応急措置の方法知ってるの?」
『え…まぁ、便利だったからかな?良かったら教えるけど…』
「本当?」
『時間のある時だけで良ければ、だけど』
「いいよ。あ、なんかデートみたいだね」
『………デート、か』
暫く笑みを浮かべたが、ぎゅう、と締め上げる。
『このおませさんが』
「痛い痛い、プロレス技は反則だよ」
そういう椎名を見て、思った。
私はまだ、このままでいいと。
この幸せな時間を壊したくないから私は、ひたすら嘘を吐く。
“その時”がやってくるまで。
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