四匹目・第一章




雨が夜半から降りだした、翌日。
地獄堂の店内は、一個しかない裸電球の下で、じっと雨音に聞き入っているようだった。



「……死神かもしれんな……」



『やっぱりか…』



額に手を当てて、嘆息する。



死神とはこれまた質の悪い。
妖くらいならまだどうにかなったけれど、死神は一応神様だ。
幾ら凄い霊力を持っていても、私は半人前だ。
たとえ、私が狐の最上位である「天狐」の子供でも。



「でも死神が、なんで可愛い女の子なんだ?絵にかかれている死神ってみんな、ガイコツだろ」



絵に詳しい椎名が質問した。



『人を魅入るのが生業の存在が恐ろしい姿をしていてどうするんだよ、椎名。彼らは何にでも化けられるんだ。愛らしい子供や美しい女性、動物や宝石にも。一番の傾国は狐だけど……
あ、ここだけは私譲れないから』



美形揃いの狐の中でも、私の父さんは傾国といってもおかしくなかった。



男だけどね。



私の膝で丸まっていたガラコが、「ひひひ」と笑った。
そういえばガラコは化け猫だったね。
しかも美人の。



でも…“上等な人形みたいな”容姿になる死神ってEU地獄の特徴だった気がするけど…
“こっち”の地獄は…あれだ。渡し守。和装の、確かに美人だけど…人形っぽくはないな。生き生きしてて。



優美な紫苑色の眼を持つ友人の狗神を、ふと思い浮かべた。



「竜也兄……死んじゃうのか!?」



「そんな事があるもんか!」



そう叫んだてっちゃんに、じいちゃんが宥めるように言った。



「いくら死神と言ってもな、なんの関わりもない人間を、強引に刈ったりせんよ。お前たちの話だと、どうやら、その死神らしきもんは、人ではなく、その部屋に憑いとるかもしれんのう……」



「部屋……」



「死に部屋!」



三人は顔を見合わせた。
そうして私は、頭を抱えていた。



『あーあ、予想ドンピシャ。大当たりも良いところだよ…
よし、決めた』



パン、と手を叩いて立ち上がった私を三人が見た。



『私の本業、忘れてないよね。って訳で、ちょっと調査に病院まで行ってくるからよろしく』



「は!?」



私はニヤリ、と笑って何時ものポシェットを持ち、雨の中へ飛び出していった。



 *



『───おいコラ、そこの。私の問いに正直に答えろ、さもないと祓う』



《ヒィイ~!!》



そこらへんの(病院内の)浮遊霊(バイクの事故で亡くなったという若い男性、16、7位)を取っ捕まえて凄味を聞かせた声で、脅s…ゴホン、質問した。
ちょっと呪札をちらつかせて。



『ねぇ、言うの?言わないの?ちなみに後者なら速攻祓う』



《言います、言いますぅぅう~》



そう言って、その霊が半べそかいて語りだした事に、私は僅かに眉を潜めた。



『……そっか、なら上へどうぞ』



すぺん、と札を張り付けて(念の為に言っておくが、今出した札は浄霊用の札で、先程出した退魔の札とは別物だ)、ふわふわとその霊が昇っていくのを見て溜め息を吐いた。



さっきからずっと、こんな調子なのだ。
いい加減疲れてきた。



『一回帰るか…』



かなり情報も集まった事だしね。



 *



夕食を終えて、てっちゃんの家へリョーチンと椎名と行く。



「あの部屋に入ってた人に話を聞けたよ!」



リョーチンからは、交通事故で、手足を折ってあの部屋に入院していた人の話で、夜になると聞こえる呻き声。夜に呻く患者はいない筈なのに…



「これは看護婦さんの内緒話だけどな……」



今度は椎名だ。


どうやら、白衣の天使こと看護婦さんに取り入ったらしい。
………想像するのが物凄く簡単だけど、ある意味複雑だ。



椎名が聞いた話は、あの部屋の患者さんの中で、時々同じことを言う人がいるから、やっぱり、何かあるらしい、と言うこと。
まぁ、そういう話は他の所にもあるから、今まで気にしたことはなかったそうだ。



『今度は私だね。……まず、これを出した方が良いかな』



そう言って、私はポシェットからバインダーを取り出した。
(あえて言うが、ポシェットよりもバインダーの方が大きい)



『私が聞いたのは…まぁ、椎名やリョーチンのようなのが大半……バインダーの四分の三程度か。
あと私の予想』



私は病院の浮遊霊に聞いたことと、私の予想を話した。
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