三匹目
また更にその翌日、てっちゃん達の体育の授業での事件を椎名から聞いて私が思ったのは、
ま た 吉 本 か 。
という事だけだった。
それにしても……ボールを顔面キャッチとは。傷が残らないのかな。
(勿論自分の事は棚にあげている)
もしリトがそんな事したらお姉ちゃん心労で倒れそうだよ。
(既にその弟が不安で倒れそうになっているのは知らないらしい)
「##NAME3##は少しその病的なまでのブラコンっぷりを治したら?」
『残念ながら手遅れだよ』
「そう、自覚はあったんだ」
シャララなんて某バスケ漫画のデルモ(笑)の効果音が聞こえそうなほどの爽やかな笑顔だが、言っていることはかなり酷い。
ちくしょうこのサディストめ!
『……爽やかに言うなよ一応は気にしてるんだからさぁぁあ!』
仕方ないじゃん弟守らなくちゃって思ってたらいつの間にかこういう性格になってたんだから!
「………大丈夫か?」
『ほっといてくれ…』
(確かにこれは椎名が弄りたくなるのも分かるけど…嫌われないよう程々にね)
『……散歩に行ってくる』
少々乱暴に戸を閉めて##NAME1##は地獄堂を出ていった。
「……ほら怒っちゃったじゃん」
「……ついシンヤの反応が可愛くて」
「だからって苛めちゃダメでしょ」
「反省はしてるけど後悔はしてない(キリッ」
「もうだめだこいつ」
*
『何やってんだよオレ…』
絶賛赤面中です、##NAME1##です。
一人称違うって?気にすんな。
やだもう。顔真っ赤になったの誤魔化す為に出てきたのはいいんだけど絶対誤解されてるよな…
しかも照れた所為でうっかり変化しちまったし。
人の時よりも遥かに発達した五感や直感は、何と無く色々と察していた。
ヤッチマッタナーと乾いた笑いを木の上であげていたら、眼下にてっちゃんと吉本が見えた。
『…ん?てっちゃんと吉本?何やってんだよあいつら』
やや身を乗り出して(器用にバランスを取りつつ)私はてっちゃんと吉本の会話を眺めた。
『───あーあ。ありゃ、取り込まれかけてるなぁ………』
吉本の身体にドロッドロに纏わりついている真っ黒い靄みたいなモノ。
あの図書室のが膨らんでこうなった───って感じに見える。
祓いきれていなかった、という訳でもなさそうだ。
寧ろ、図書室のはアレから分離したモノだと考えた方が良いだろう。
『うぇー…“オレ”が祓うのかよ…』
悪意と怨念の集合体───『アヤカシ』。
それは幽霊よりも曖昧で、思念よりも存在感のあるモノ。
“アレ”を例えるのならば“翳”というところだろうか。
但し、大きさは熊程もあり、形は煙のような流動状だが。
『ゆきもオレも耐性はねーからな…どうするか』
ゆきは純粋だからこそ染まり易い。
そして、それを有する“オレ”も狙われやすい。更にそれが“この血”と相乗している状態でどれだけアイツに気付かれないか…だよな。
っていうか気持ち悪い。
人の負の感情は、心の古傷の瘡蓋を、力任せに引き裂いたようにジクジクとする痛みを持たせるから質が悪い。
いざという時には助けることにして、静観を決め込んだ。
《ひひひひ……。心地よいな……人の憎悪は心地よいな、ひひひひ》
……気色悪ぅっ!
物凄くクリアに聴こえるからか、嫌悪とかそういうのが出やすいのか。
鳥肌が酷いしリタイアしたい。ってか帰りたい。
「これが…妖怪!」
てっちゃん。悪いけどそれ、妖怪やないよ。アヤカシやでー
尚も成長し続けているらしい翳(直視したくないのでもう明後日の方向を向いている)の声は喜色が滲んでいて、嬉しげだった。
人の思いを糧にして、そうして更に闇へ引き摺り込む───そんなアヤカシが、##NAME1##は大嫌いだった。