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二匹目



基本的に私は、物を買ってもらうのは苦手だ。
あの人がいた頃はよく物を買ってもらっていたが。

何故か、あの人が死んでから、物を買ってもらうのが苦手になった。
多分、あの人に重ねてしまうからだと思う。
二度と会えない、あの人に。

等と私は御手洗(ミタラシ)団子を食べながら考えていた。うん、美味しい。
傍らの三田村巡査は、深くため息をついて、苦々しく笑っていた(恐らくは三人の所為だろう)。


「……!?」


そんなほのぼのとした空間に、突然嫌な予感よりも強い───何と言うか、悪意やその類いの物を感じて、私はそこから立ち上がって後ろの草むらを見詰めた。
それは、まるも同じで、警報を発した。
リョーチンの顔を見上げ、リョーチンが飛び上がった。


「しゃ…しゃべった!
まるがしゃべったっっ!!」

「なにい!」


てっちゃんも椎名も、飛び上がった。


「ちっくしょお───っ!リョーチンにしか聞こえないのかよ!」

「なんて言った?なんて言ったんだっ!?」

「野犬がいるって!そこに!」


やっぱり。
あの嫌な気配は、あの黒犬の物だったのか。でも…気になるのは、さっきからの、噎せ返るほどの血の匂い。
あの時遭った犬よりも強い、血の匂い。


「また、何を言い出すやら…」

「───いや、今回は本当らしいですよ」


三田村巡査の言葉を遮って、私が三人を肯定した瞬間、ガサッと草むらが揺れ、黒い三角形の耳が見えた時。
椎名が叫んだ。


「あっ、あれだ!俺が見たの、あの犬だよ!」

「らしいね」


あの犬は私も見た。

怒りに身を震わせながら、あくまでも冷静に振る舞う。


「静かにしろ、騒ぐな!」

「いや三田村さんも黙ろうよ」


私が呟いた一言は、殺気だった犬の唸りに掻き消された。

犬の気配に集中していて、気を張っていたその瞬間、悍ましい叫び声が響いた。
そのキーンとする叫びの所為から一瞬平衡感覚を失なって、私がよろけ、叫びに刺激されたのか野犬が弾丸のように飛び出してきた。
狙うのは、一番手前にいた───リョーチン。


「良次!!」

「リョーチン!」


私が札を取り出すより先に、狼のような黒い犬の、喉笛に牙を食い込ませたのはまる。
よろけた私を支えたのは、椎名だった。


「まる……!?」

「ありがと、椎名」


ちくしょう、カッコいいな。
顔が熱いのは、あれだ、驚いたからだ。
決してときめいたからではない。

まるは、野犬を紙のように倒した。
その姿は、かのバスカヴィルの魔犬を彷彿とさせるようだった。


「……まる…」


リョーチンが、声をかけた。
野犬の死体の上、勝ち誇るように立っていたまるは、飴玉を吐き出して、元に戻っていた。
その飴玉は、地面に落ちるとまるで、砂のように崩れた。
私の目が行ったのはそれよりも、野犬の口についている血だった。


「……三田村さん、これ見てください」

「そ…そうだ。悲鳴が聞こえなかったか?野犬が飛び出す前に…」


悲鳴、野犬の口についている血。
それから…あの声は…


「まさか……」


パズルのピースが嵌まるように、脳内で絡み合った謎が解けるような感覚。
驚く程に、私の脳内は冷静だった。


「裕介…あの女の家どこ?」

「そういやすぐそこだった」


私達は、裕介を先頭にして、富田さんの家へ急いだ。


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