始まりの陽(真島夢)
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真島がグランドの外でタバコを吸いながら名無しが来るのを待っていると「お待たせしました」と走り寄って来た。
「そない急がんでええ。何が食いたい?遠慮なく言えや」
「じゃあ、金龍でお願いします」
「ラーメン?そんなんでええんか?」
「うん。早く行こう!」
急く様な名無しの態度に違和感を覚えながら真島はグランドのすぐ近くにある金龍ラーメンへ向かった。
食券を買い席に着き、真島は名無しに問いかける。
「なんや急いどるんか?」
「……あの…真島さん、オデッセイに行くんでしょ?早く食べて行かなきゃでしょ?」
「…は?何の話や」
「私、店長と話してたの聞いちゃったんです。佐川さんがNo.1のノリコさんを別の店に行かせた事」
先程、佐川に5億稼ぐまでは極道に戻せないと言われ、その5億を稼がせない為にNo.1のホステスを引き抜いて別の店へ行かせる様に手を回された。
佐川は真島に稼げるだけ稼がせ奴隷の様に扱うつもりなのだ。
ある程度の事情を知っている名無しには佐川の考えている事は充分に分かっていた。
「グランドの売上が上がれば真島さんが組に戻っちゃうのを阻止する為に佐川さんが嫌がらせしたって私、分かってます。真島さんがいなくなるのは寂しいけどそれが真島さんの望む事だったら私は全力で力になりたいです」
「すまんな、いらん心配かけて。お前は何も考えんと楽しく働いとれば良い」
真島は向かいに座る名無しに長い腕を伸ばし頭を撫でた。
「ほれ、麺伸びるで」
真面目な話をしている内に運ばれて来たラーメンに2人でいただきますをして手を付けた。
「そういや最近はどうや?皆と仲良くやっとんのか?」
経験者の多いグランドでお水の仕事初心者の名無しはまだ新米の部類だった。
慣れない夜の世界の雰囲気に圧倒され縮こまっていた彼女だったが最近は先輩ホステスに可愛がられ、仕事終わりに誘われる姿も真島はよく見ていた。
「サクラコさんが私の事よく面倒見てくれるんです。飲みに連れて行ってくれたり一緒にディスコにも行きました」
派手な女性が多い中、名無しは割と地味な方だったが面倒見の良い先輩のお陰で色々と学んでいる様だ。
「それなら俺も安心や」
そんな話をしている内にお互い食事は終わり、早々に店を出る。
「真島さん、ご馳走様でした」
「せっかくやのにすまんかったなぁ…」
久々に名無しと食事をしたのにラーメン一杯を高速で食べ終えると言う展開に真島は申し訳なく思った。
「いいえ。久しぶりに真島さんとご飯出来て嬉しかったです」
本当に嬉しそうに言うものだから余計に申し訳なくなる。
「今度また良い店行こ!な!」
「じゃあ、デートですね!宜しくお願いします」
やったーなんて言いながら万歳してぴょんぴょん跳ねる名無しを見て真島は素直で可愛い奴だと思った。
「ほな、もう行くわ。気ぃ付けて帰れや」
「はい。頑張って来て下さい!お疲れ様でした。」
本来なら送ってあげたいと思いながら名無しに背を向けて小走りでオデッセイに向かった。
そんな真島の後ろ姿が人混みで見えなくなるまで名無しは手を振った。
翌日
昼過ぎ頃、目覚めた真島はゆっくり準備をして出勤に備えた。
昨夜はNo.1のノゾミを引き抜きにオデッセイへ訪れた。
一応、サングラスをかけ少しの変装を加えて入店したが支配人の山形にあっさり見つかる。
そもそもノゾミと言うよりは山形に用があった真島には都合が良かった。
山形と話し合った結果、グランドの若いホステス数名と交換と言う条件を付けてノゾミを引き抜く事に成功した。
5億を稼ぐ為、新しいキャストを加えての営業に向けて真島は今日もグランドへ向かった。
「支配人、お電話です。あの、オーナーだって言ってるんですけど…」
グランドに着いてすぐボーイに電話を継がれる。
明らかに嫌悪の表情で電話を取った。言わずと知れた佐川からだ。
お前と飲みたくなったから店を抜けて来いとの事だった。
あしたば公園に来いと言われ強制的に電話を切られた。
舌打ちをしながら佐川には逆らう事は出来ず、傍にいたボーイに一声かけてから店を出た。
あしたば公園に着くと隣接する屋台に座る佐川の姿を見つける。
暖簾を上げて中を覗いた。
「こんなトコに呼び出して何の用や」
「そう構えるなって。お前と飲みたいだけって言ったじゃねぇか。何にせよまずは一杯やってからだ」
話が進まないと判断した真島は無言でとりあえず佐川の隣に座った。
その気の無い真島を気にも止めず佐川は真島の分のおでんを屋台の大将に注文する。
佐川から無理矢理、熱燗を注がれる。
佐川が乾杯しようとグラスを差し出すが真島はそれを無視して湯気の出るグラスに口をつけた。
寒空の中、暖かい酒が身に染み入る。
それを見た佐川もどこか満足そうに酒を飲んだ。
暫く佐川の話を聞いていた。
真島が会話に加わる事はほぼ無く、一方的に話しをされる。
「…じゃあ、お望みの本題に入ろうか。……お前、人をひとり殺せるか」
ようやく話が進むと思った真島だったが佐川の言葉に驚く。
「……殺し!?何で俺がそないな事…」
佐川は人を殺せば極道に戻れるかの様な口ぶりで話す。
極道に戻る為なら何でもやると覚悟していたが真島はそんな事をしなくても5億を稼いで極道に戻ってやると言い切った。
ところが佐川はオデッセイのノゾミの引き抜きを無かった事にできると脅しをかけて来た。
「まぁつまりお前の未来は俺の手の中にあるって事だ」
「……誰をやればええんや」
佐川に運命を握られ、生かすも殺すも思いのままだと言う事を改めて突き付けられ真島は従うしか無い様に感じた。
ターゲットはマキムラマコトと言う人物。
蒼天堀で荒稼ぎしている売春組織の元締めだと言う。
女子大生や若い女を使ってテレクラで男を釣らせそのアガリを吸い上げ、逃げ出そうものなら見せしめに悲惨な目に遭わせる。
「相手がクズで良かったな、殺りやすくなっただろ」
仕事の期限は2日。それを超えると真島が狙われる事になる。
「後は好きに飲んでくれ。じゃ、頼んだよ」
佐川はそう言って金を置いて去って行った。
…これはチャンスなんや。俺が極道に返り咲く為の、な……
先程佐川に言われた "てめぇの目的の為に見ず知らずの誰かを殺せるか?" その言葉が頭の中をグルグルと回った。
翌日、真島はテレクラにいた。
マキムラマコトの息がかかった女を探す為だ。女子大生を利用していると言う事だった。
女子大生に的を絞っていく途中数回電話があったが主婦等の女子大生又は独身の若い女では無い事が分かると電話を切るを繰り返していた。
ーー90分後ーー
女子大生を捕まえた。
慎重に会話してマキムラマコトの事を聞き出す。
当たりだった様でその名前を聞いた瞬間に電話を切られそうになったが何とか繋いで会う約束ができた。
アッコと名乗る女子大生。
機嫌を取る為に彼女が希望する寿司を食べに行き、ゲームセンター、ディスコ(しかもVIPルームに)と連れ回された。
アッコちゃん、いい子やったけどラーメン一杯で済む女もおれば何万も使わす女もおるもんや…
そんな風に思いながら名無しの事を考えて次は良い所に連れて行ってやらなくてはと尚更思うのであった。
とは言えマキムラマコトの有力な情報を手に入れたのだからこの程度の出費は安い物だ。
「マコトさんに救われたって子めっちゃ多いんやから!ウチらにとってホンマ神様みたいな人やねん」
アッコはそう言っていた。佐川の話とは大きく違った。
アッコの話によればマキムラはほぐし快館と言う店で整体師をしているとの事だった。
教えられた通り招福町南にあるほぐし快館の入口を入り、真島はドスを握り締め階段を上った。