始まりの陽(真島夢)
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どれくらいの時間が経っただろうか…
西谷が普通の人間ではない事は分かっていた。
狂気に満ちたあの男と激闘を繰り広げる真島の姿を名無しは憂いながら見つめていたが、真島の最後の一撃で西谷が豪快に床へ倒れる光景を目の当たりにし胸を撫で下ろす。
「ああ…たまらんでぇ…ワシ、こんなん初めてやぁ…」
「…しぶとい男やな」
歓喜にも似た声で話す西谷に息を荒げて真島は返した。
「真島さん!!」
西谷にこれ以上危険が無いと理解した名無しは堪らず真島の元へ駆け寄る。
「名無し、何もされへんかったか?」
心配する真島に名無しは大きく頷いて応える。
西谷は起き上がり胡座をかきながら2人を見て言う。
「その子、金ばら撒いてキャーキャー喜ぶ女達と違ってずーっとわしを観察する様な目で見て来る子やったわ。おもろい女やなぁ真島君」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら見る西谷から真島は名無しを守る様に自分の後ろへ隠した。
「警察や!そこを動くな!!」
そこへ真島と殴り合う為に西谷がわざと呼んだ警察が到着する。
「なんやぁ…もう時間切れかいな」
そう言って西谷は大人しく警察官の方へ歩き出した。
「待てや、西谷。お前らが女狙う理由はなんや?」
去り行く西谷に真島は問う。
「それは次会うた時のお楽しみや。お前はもうワシの獲物やでぇ…真島君」
振り向き様に不適な笑みを向け西谷は警察官と共に去って行った。
名無しはぎゅっと真島の腕を掴む。
西谷に「ワシの獲物」と言われた真島がまたあの男によって危険な目に遭う事を危惧し怯える名無しを視界に入れた真島は彼女の頭に手を置いた。
「安心せえ。それよりほんまに何とも無いか?俺の為に西谷から目、離さん様にしてくれたんやな」
名無しは眉を下げ、今にも泣きそうな表情で真島を見つめたかと思うと背の高い真島の胸に抱き付いた。
怖かったのだ。
西谷の存在も勿論だが、真島はマキムラマコトを助けた事によって常に命の危機に面していると言う事実を目の当たりにした事が。
名無しに不安な思いをさせてしまっている事に罪悪感を抱きながら真島は名無しが落ち着くまで彼女の頭を優しく撫で続けた。
*******
「妙なんだよなぁ。例の女の死体…俺ぁなんか腑に落ちねんだよ。
この前からお前の動きが妙でさ。なぁんか、俺に隠してるんじゃねぇかと思ってね」
真島は先程の佐川との会話を頭の中で巡らせながらオデッセイの倉庫へ向かっていた。
西谷が警察に連れて行かれた直後、佐川がグランドに来ていた事に気付く。
幸い西谷とのやり取りは聞かれておらず胸を撫で下ろしたのも束の間、マキムラマコトの死体が怪しいと言い出す佐川は恐らくあの死体が偽物だと言う事を勘付いているはずだ。
すぐにほぐし快館の店長、李と話をしなくては。
彼はオデッセイの倉庫でマコトと一緒にいるだろうと真島は足早に向かった。
一方グランドで名無しは呼び出され、佐川と一緒にいた。
ここはグランドのバルコニー。真島がよく休憩に煙草を吸いに来る。
「お前、真島に協力してんだろ?」
佐川は手摺に凭れ掛かり夜空に紫煙を燻らしながら静かに口を開いた。
その声色は冷静な様でもあり怒気を帯びた様にも感じ、読めない。
佐川の金で暮らして来た名無し。
特別彼から愛情を受けて育てられた訳では無いが何不自由無い暮らしを与えてくれた。
冷酷無情な彼の姿は勿論知っているが自分には冷たいながらも優しかった気がする。
だが、今目の前にいる佐川は名無しの前では見せた事の無い空気を纏っている気がした。
「まぁ、黙ってても良いけどよ。もう女の居場所は分かってんだ」
どういう経緯かは不明だが佐川は既にマコトの居所を掴んでいるらしい。
「真島の命を救いたきゃ俺に頼む方法が一番良いってお前なら分かるだろ?」
佐川の言う事は嘘か誠かわからない。
自分が口を割れば真島の命が助かる保証もない。
ここまで真島と共に進んでしまった自分には今更引き返す事は出来ない。
「私は……私は真島さんが何をしているかなんて知りません」
嘘を決め込む事を決意した。
「ほぉ、そうか…。お前をそう言う風に育てた覚えはねぇけどよ…」
佐川は煙草をひと吸いしてふーっとゆっくり吐き出す。
「さっきさぁ…俺の優秀な手駒達から連絡があったんだよな。女の居場所は招福町にある古い倉庫だろ」
佐川はニヤリとしながら名無しの顔色を伺うが彼女は表情を変えない様に努めた。
マコトの居場所を知っていると言うのは本当の様だ。
「嘘つくの上手くなりやがって……今頃、真島は死んでるかもしれねーけどな」
佐川の言葉を聞いた直後、名無しは佐川に背を向け走り出した。
佐川はニヤけたままの表情を変えず消えゆく彼女の後ろ姿を見送った。
育ててくれた佐川を裏切る形となった事は悪いとは思っている。
だが、それ以上に真島が大切だった。
佐川は自分の事も真島と一緒に始末するだろうか……
もう、きっと佐川さんと一緒には暮らせない…そう頭を過ぎると罰を与えられるかもしれない恐怖より少し寂しい気持ちが勝る。
控え室に飛び込みコートを引ったくるとそれを着てグランドを飛び出した。
*******
「……ハァ…ハァ……」
全速力で走りオデッセイの倉庫前に来た名無しは扉が僅かに開いている事に気付き心臓が大きく脈打った。
遅かった……そう思いながら扉をそっと開けると人が数人倒れている。
「名無しか!?」
聞き覚えのある愛しい声に名前を呼ばれた。
「…良かった…無事だったんですね…佐川さんにここの場所を突き止めたって言われて…」
真島にマコト、そしてほぐし快館の店長も無事な様で胸を撫で下ろす。
その店長の傍に胸から血を流し今にも死にそうな、先程接客した中国人の客がいるのが目に入ったが状況はすぐに理解できた。
「そのお客さん…大丈夫ですか……」
「こいつは今から李が安全な場所に運ぶから大丈夫や。俺らはほぐし快館に向かう!お前もサポートしてくれ」
真島に言われ名無しは頷いた。
「全部、私のせい…?ごめんなさい…私のせいで、ごめんなさい」
マコトは下を向き苦しそうに涙を流し何度も謝った。
「泣く事あらへんがな。…お前は何も悪ない」
「……大丈夫。この人が守ってくれますよ」
慰める真島の隣で名無しはマコトの手を取ってぎゅっと握った。
「マコトを…頼むで」
そう李より託され真島と名無しはマコトの手を引いて倉庫の扉を開けた。
また数人の人間が集まって来た。佐川の手下だ。
名無しはマコトの手を引き一歩下がる。
「どないした?…早うかかって来たらどや?…俺を止めてみろやあ!!」
真島は声を張り上げ、目の前の敵に向かって行った。
真島の戦闘能力は非常に高い。
次々と敵を薙ぎ倒す姿を名無しはマコトの手を握り締めながら見守った。
決着はすぐに着き、真島を先頭にネオン煌く蒼天堀の街を走り出す。
至る所に佐川の手下達が彷徨き、なかなか思う様には進めなかった。
「あかん…どっちの道も待ち構えとる」
目的地まではあと少しと言うところで八方塞がりとなってしまった。
迂回するにも追手が張っており、3人は建物の影に隠れて様子を窺っていた。
「しゃあない…やるか……」
「待って!!マコトさん、これを」
正面突破以外の方法が見つからず待ち構える佐川組へ向かおうとする真島の腕を掴み、名無しは自分の着ているコートを脱ぎマコトに差し出した。
マコトは白いふわふわしたそれを受け取る。
「……これは?」
「コートを交換しましょう。私が囮になります」
「お前っ何言っとるんや!?」
「大丈夫。相手は佐川組の人です。捕まっても殺されはしないと思います」
真島と一緒に散々佐川を裏切った名無しなのだから、もし捕まりでもしたら何か罰が与えられても不思議では無い。
「でもっそんな事したら名無しさんが……っ」
「マコトさん!早く!」
渋るマコトから名無しは失礼しますと無理矢理朱色のコートを脱がし、自分のコートをマコトに掛けた。
「このコート、大切にして下さいね」
名無しはマコトの不安を消し去る様にニッコリと笑って明るく言った。
名無しがグランドで初めて指名客がついた時、お祝いにと真島が買ってくれたコートだった。
本当に大切にし、とても気に入っていた。
この先どんな展開が待ち受けているかわからない自分とマコトの身を考えるともう手元には戻らないかもしれない。
マコトは涙を流しその高級そうなコートを握りしめる。
ここまで正反対な格好をしていればこのコートを着ている人物がマコトとはバレないだろう。
「行くなや!!」
敵の方へ向かおうと意を決する彼女の腕を真島は掴んだ。
掴まれた腕から伝わる真島の熱が愛しくて名無しの決意を迷わせる。
それを振り切る様に真剣な眼差しで真島の眼を見つめた。
「どの道も塞がれてしまったここで闘ったら一気に追手が集まってきます。大切な人が危険に晒されるなら私は囮でも何にでもなります」
真島の為なら何だってできた。
自分を信じて欲しいと強く訴えかける様な名無しの眼差しに真島は負けた。
「絶対迎えに行くからな!!待っとれよ!」
名無しは眉を下げて微笑むとゆっくり頷いた。
彼女の手は擦り抜け、名残惜しそうにそれを掴んでいた真島の手は空を切った。
真っ直ぐに敵の方へ向かい、わざと姿を見せてほぐし快館の反対へ走る。
「いたぞ!女だ!!」
男達は次々と集まり名無しを追った。
捕まってもいい。2人が目的地まで辿り着く時間さえ確保できれば…。
ただひたすらに真島とマコトの身の安全を祈り必死で逃げた。
ヒールで走るにも限界があり足の痛みで派手に躓く。
スピードが落ちたら最後、すぐ様追手に捕まった。
激しく抵抗した為、顔を殴られた。
痛みで一瞬頭が真っ白になり無抵抗になった隙に車へ押し込まれる。
数人の男達の手が伸び突き飛ばされたかと思うと車の後部座席に倒れ込んだ。
後部座席のドアがバタンと大きな音をたてて閉まったと同時にどこかで激しい爆発音が鳴った。