第六十話

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 重く濃い暗闇を突き抜けるが如く、更に深い暗闇が落ちた巨大樹の森から、外套を纏った三人の兵士が、気配も無く飛び出してきた。

 燕が枝から飛び立つような素早さで、ガスが吹かされる音と、バタバタと外套の裾が風に靡く音が、やにわに近づいてくる。


『(速いッ…!)』

 やや波打つ長い黒髪の少女は、眦を強張らせ、下唇を噛んだ。


 調査兵団という組織は、腰に携えたブレードと立体機動装置を使って、巨人の急所を的確に削ぎ落とす高い技術を持った兵士達で構成されており、その組織へ潜伏していたライナー達から、事前に必要な情報を得ては居た。実際にその動きを目にするのは初めてだったが、不用意に距離を詰められるのは危険だと判断し、地につけた手足の関節を折り曲げ、大きく後方に飛び退いた。


『(彼等は、障害物のない場所では機動力が格段に下がる。森の中で戦闘を挑むより、開けた平地で交戦したほうが、有利に事を運べる筈っ…!)』
 
 
 冷静な行動をとって見せたピークに対して、三人の兵士は、ほぼ同時に腰元に手をやった。恐らくブレードを抜いて、森から離れられてしまう前に、本格的に頸を狙った攻撃を仕掛けようとしているのだろう。

 そう予想したピークは、胸を地面に押し付けるようにして伏せ、真正面から飛びかかってくる金髪の兵士を目掛けて、鼻から口の先までが嘴のように伸びた縦長の口を、ぐぱりと開いて身を乗り出した。


 しかし、彼等が抜いたのは、腰に携えたブレードではなく、小型の拳銃のようなものだった。


 彼等は銃口をピークへ向け、引き金を引くと、乾いた銃声と共に飛び出してきたのは銃弾…ではなく、渦を巻く濃い黒煙だった。


『(なっ…!これは…煙幕?!拙い、視界が遮断されてしまう!)』


 暗闇に目を慣らしてあるとはいえ、新月の夜の下、俊敏に宙を飛び回る兵士の動きを逐一目で追い続けるのは困難だった。そのうえ、銃口から放たれた黒い煙はあっという間に周囲を取り囲み、視界を完全に奪われてしまう。何かが焦げたような、きな臭い匂いに、鼻の奥が痺れて、ピークは眉間に皺を寄せた。

 煙に紛れながら移動をしているのか、ガスを吹かす音が、彼方此方から聞こえてくる。先ずはこの状況から逃れなくては、碌に戦えないと、ピークは大きく後方に飛び退くように地面から跳ね上がった。


 体がぐんと宙に舞い、煙の渦から逃れると、飛び上がった体が地上へ落ちていく間に、ブレードを引き抜いた状態で身構えた、三人の兵士が、地上からこちらを見上げているのが見えた。


 ピークは地上に着地するや、その兵士達に向かって飛びかかろうと身を屈める。


 しかし、ふと疑問が頭を過ぎった。


 巨大樹の森から襲いかかってきたのは、今、視界に捉えている兵士の三人で間違いは無い。

 だが、兵士は四人居た筈だ。彼等の他に、道行く人を呼び止めるような軽さで、腰元のブレードをちらつかせながら声を掛けて来た、兵士の姿が何処にも見当たらなかった。


『(まだ森の中に居るの…?それとも…っ、まさか…!)』


 嫌な予感が胸を劈き、今まさに抜け出してきた黒煙が充満している場所へ顔を向けた刹那、二本のアンカーが、限界まで引き絞られ、放たれた矢の如く黒煙の中から飛び出してきた。


『(っ!?)』

 
 避けようと四肢に力を込めた時にはもう遅かった。

 二つのアンカーは巨人の体の両肩に深々と突き刺さり、繋がったワイヤーがギュルギュルと唸り振動し始めると、煙の中から、一人の兵士が黒煙の尾を引きながら飛び出してきた。

 
 不意を突かれてしまったとはいえ、無謀にも真正面から飛びかかってくる兵士に、ピークは上下に口を大きく割り開いて、食い掛かる。


 しかし、その瞬間、両肩からアンカーを器用に引き抜き、兵士は握り締めている操作装置を扱って、軌道を大きく変えた。

 腰元からガスを激しく噴射し、体をぐるりと翻すと、ピークの口先を擦れ擦れに攻撃を避け、頭上へと垂直に飛び上がったのだ。


『(っなんて動きを…!?生身の人間が出来る動きとは、とても思えないっ…!)』


 重力というものを完全に無視した、三次元の動きをして見せる兵士に、ピークは苦虫を噛んだ。二本のワイヤーが、耳の横を蛇のように波打ちながら、暗い夜空へ這い上がって行くのが見えた。


 頭上で、ギラリと鈍い光が瞬く。


 月光など無い虚空で、兵士は鞘から二刀のブレードを引き抜くと、掌の内でくるりと逆手に持ち替える。一縷の風のように無駄が無い、洗練された動きだった。


 ピークは、重石のような威圧の塊が、体に伸し掛かってくるのを感じ、反射的に右方へと飛び退こうとした。あの兵士の真下に突っ立っているのは至極危険だと、警鐘を鳴らした第六感に突き動かされた。


 しかし、予想よりも遥かに早く、そして鋭く身体を回転させながら直下に落ちてきた兵士は、分厚い肉で形成された左肩からその先を、二刀の刃で抉り、あろう事か斬り落としたのだ。…まるで、出刃包丁で魚の首を落とすように、恐ろしく呆気なく、ゴロリと地面に左腕が転がる。


『(嘘…でしょ?腕を、斬り落とすなんて…!?)』


 あり得ない事が身に起こり、唖然として、左腕の支えを失った体が傾がっていく中、ピークは吹き上がり燃える血飛沫の隙間で、蒼黒の瞳を見つけた。

 曇りの無い研ぎ澄まされた刃のような意志が、丸い燐光となって、目に刺さるほど煌々と輝いている。

 その瞳と視線が絡んだ瞬間、ピークは、左胸の奥を、直接手で握られたような感覚に陥り、息を大きく呑んだ。


 心臓が悶えるように、ドクドクと重く、激しく、鼓動する。息苦しさに目頭が震えて、顳顬に汗が滲む。


 初めて見た顔である筈なのに、酷く懐かしい追慕の念のような衝動が、胸の底から這い上がってくる。


『(何…なの…?この、感じ…っ)』


 ピークは身に覚えのない感情の波に困惑しながらも、不気味な存在を振り払うように、左足で蹴り飛ばそうとする。

 しかし、攻撃を軽々と飛び上がって避けた兵士は、ピークの腰元に着地すると、背中を颯爽と駆け上がる。その足は頸を目指していて、咄嗟に背中を床に叩きつけるように転がると、縄で巻き付け背負っていた重厚な箱が、ゴロゴロと地上に転がったが、兵士は巧く受け身を取って、すぐさま上体を起こした。


 仰向けの状態を元に戻そうと、ピークが身体を捩った瞬間、足の先で、二人の兵士が左右から舞い上がったのが見えた。


 彼等は四本のブレードを振り落として、両足の付け根に、深い切り込みを入れる。ピークはズシリと、下半身が重くなるのを感じた。足の腱が、切断されてしまったのだ。
 

『(拙いっ!)』


 焦ったピークは、動かせる右腕を精一杯に踏ん張って、体を転がし、上半身を起こそうと地に掌をつく。

 その際、ザリッと粗く、固い砂の感触がした。

 ただの乾いた土ではない。今まで踏み歩いてきた大地とは、全く違う感触だった。

 ふとして視線を地に落とすと、戦場で嗅ぎ慣れてしまっていた、火薬の匂いが、鼻口を衝いた。


「ケニー!!」

 
 焦燥した男の声が、暗闇の中に響く。


 顎髭を生やした兵士の視線の先には、平地に取り残されたようにぽつりと立っている、一本の広葉樹があった。そして、その樹上には、黒いハット帽を被った男が、ライフル銃を構え、潜んでいた。


「言われなくてもやるっての」


 男は小言を言いながら、容易に引き金を引いた。


 乾いた銃声と共に放たれた銃弾は、ピークの足元に散布されていた火薬に触れ、激しい爆発を起こす。

 
 ドォォォォオオンッ–––!!


『(ッ!!!?)』


 激しい爆風と衝撃に襲われ、巨人の体が、宙に弾み上がった。

 腹の半分と右腕が吹き飛ぶ感触がした次の瞬間には、地上に叩きつけられていた。

 爆音で鼓膜がキリキリと痛み、衝撃波で軽い脳震盪が起こる。

 巨人の眼球も焼け爛れたてしまったのか、視界が真っ暗になっていて、自分が今、目を開けているのか閉じているのかさえも分からなくなっていた。

 せめて、身体の状態を確かめようと、散り散りになった思考を掻き集めて、動かそうと試みたものの、四肢の感覚が無く、どうすることも出来ない。


 まるで、此方の動きを全て読んでいたかのような、完璧な戦略に為す術なく翻弄され、ピークは頸の中で悔しさに下唇を噛んだ。これが、パラディ島に潜む悪魔の末裔。調査兵団の、力なのか。


「…手荒くしてしまって、すみません。逃げられてしまうと困るので」


 背中で、一人の兵士の声がした。高くもなく低くもない、中性的な声音だが、言葉尻に名残る柔らかな響きで、女のものだと察したと同時に、彼女が自分の左腕を兵士であるということも理解した。

 彼女は頸の上で足を止め、ゆっくりと屈んだ気配を、巨人の頸越しに、自身の頸で感じる。


ハル…この巨人だけど、やはり知性を持つ巨人で間違いない?」


 頸の上にいる兵士よりも大人びた声が発した、目標人物の一人である名前に、ピークは息を呑む。 


「はい。間違いありません。無垢の巨人であれば、私達を見つけた途端、森の中へ飛び込んできたでしょう。ですがこの巨人は、敢えて私たちの不利になる平地へと誘導するように後退しました。火薬の匂いにも、気づいていたようですしね…」

 知的で引っ掛かりのない口調で話す、ハルと呼ばれた兵士。ライナーとベルトルトが、要注意人物だと釘を打ち、ジークがマーレに連れ帰ろうとしている『ユミルの愛し子』と同じ名前だった。


『(…あなたが…ハルグランバルドなのね?)』

「!」


 辛うじて動かせる口で、そう問いかけると、周りを取り囲むように、ブレードを手にしたまま控えていた兵士達が、息を呑んだ気配がした。無垢の巨人とは違い言葉を発した事に驚いたのだろう。…しかし、頸の上にいるハルだけは、少し違った様子だった。


「コイツ、喋ったぞ!?」

「お、落ち着けよトーマ。獣の巨人も話が出来たって、事前に話を聞いてるだろ?」

「ぁ、ああ…そう、だけど。実際に聞くと、驚きだな…」


 トーマはゲルガーに嗜められながらも、顎髭を触りながら、じっと蒸気が噴き上がる巨人の顔を見つめていると、隣に立っていたナナバが、その背中をばしりと叩いた。


「トーマ。驚いている暇はないよ?森から馬を、連れて来てくれ」

「すっ、すまんナナバ。馬を連れてくるよ」


 ピークの接近を察知したハル達は、移動用の愛馬達を、戦闘に巻き込まれないようにする為、巨大樹の森の中に繋いだままにしていた。一先ずだが戦闘が落ち着き、ナナバに言われて、トーマが巨大樹の森へ向かって駆け出して行く中、広葉樹の上でライフル銃を構えていたケニーも、念の為銃は腕に抱えたまま、ハル達の元へと気怠げに歩み寄ってくる。


「…だが、どーしてコイツは、お前のことを知ってやがるんだ?」

「ライナー達から事前に情報を聞いていたんでしょう。…でも、」


 ケニーから見上げられたハルは、鞘に納めていたブレードを、再び右の操作装置に装着すると、ゆっくりと腰元から引き抜きながら、頸に片膝をついた。

 それから、静かに囁くような声で、頸越しのピークに問いかけた。


「さっきは、まるで私を探していたような口振りでしたが…。もしかして、私に御用でも、ありましたか…」


 言葉の最後に残る吐息に、僅かだが威圧的な響きが滲んでいて、ピークは顳顬から汗が流れ落ちるのを感じながらも、荒立つ呼吸を抑えながら言った。


『(この姿だと、とても喋り難いの。だから…、直接お話しがしたいんだけど…いいかな?)』

「それは是非。…でも、少しだけ待ってください」


 引き抜かれたブレードの刃先が、僅かに頸の肉に沈んだ感触がして、ピークは小さく息を詰める。


「…私も、直接顔を見て話がしたいところですけど、その前に……聞いておきたいことがあります」

『(それは、何?)』


 固い声音で問い返すと、ハルは妙に落ち着いた、一文字一文字を彫りつけるような口調で答えた。


「獣の巨人は、今、何処に居ますか?」

『(……そんなこと重大な事を、私が答えると思ってる?)』


 問いを手で払うように言って除けるピークに対して、ハルは特段苛立つことも無く、変わらず理性的な声で言葉を連ねた。ご丁寧にも、ブレードは頸に突き付けられたままだったが。


「いえ、思っていません。…思っていませんが、戦わず穏便に事を済ませられるなら、そうしたい」

『(穏便に、ね……)』


 悪魔のような、圧倒的戦闘能力を見せつけておきながら、口では随分と甘い考えを言うものだと、ピークは口元に酷薄な笑みを浮かべた。


『(…勿論、私もそのつもりだよ)』

「!?」


 ピークは、蒸気を激しく頸から噴き上げた。

 ハルは皮膚を焼く熱さに僅かに後退り、顔を腕で覆う。ブレードの刃先が頸から離れると同時に、ピークは巨人の身体から、ハルに背を打つけるようにして、ドンッと飛び出した。


「っ」


 首の後ろでハルが息を呑む気配がした。


 ピークは身体を捻り、驚いているハルの、兵服の襟を両手で掴んだ。


「私の巨人は、そんなに戦闘力はないけれど、持久力には自身があるんだ」


 他の巨人は、体力を消耗したり、身体を酷く損傷すると、直ぐに巨人化することは出来ないし、巨人化出来る回数も限られている。しかし、車力の巨人は違う。

 巨人の身体が損傷していても、頸から一度出てしまえば直ぐにでも巨人化が可能だ。そして、何度も繰り返し連続して、巨人化することも出来る。

 ピークはそのまま、自身の手の甲に噛みつこうとした。

 それを見たハルは、僅かに片眉の先を震わせると、ピークの右肩を掴み、足払いをして、身体を反転させるように引き倒した。
 

「なっ!?」

 ピークは自分の体が驚くほど呆気なく翻って、気づいた時には、背中に左膝を乗せ、右手で後頭部を鷲掴まれて、宿主を失い蒸気を上げて崩れ始めた、巨人の体の上に押しつけられていた。

 立体機動術や機知に富んでいるだけでなく、体術にも長けているとなれば、戦場の駒として全く隙も非の打ちどころもない。ピークは小さく打った舌を、そのまま噛もうとしたが、口の端からぐいと左手を押し込まれて、自分の舌ではなくハルの手を盛大に噛む形となった。


「むぐっ…!」

「い゛っ…たぁっ……」


 歯が柔い親指の付け根辺りを噛み抜いて、骨にぎしりと当たる感覚がした。じわじわと熱い血が、歯を伝って舌に触れる。そのまま骨ごと手を噛み砕いてやりたいところだったが、不本意に喉に触れた血を、ごくりと飲み込んでしまう。


 すると、その瞬間、一度心臓が大きく鼓動した。


 刹那に全身の血が熱く燃え上がるように迸った。体が、熱い。


「(何…?!)」
 

 先程の動悸といい、再び訪れた体の異変に困惑しながら、ピークは目だけを動かして、自身の背中に乗り上げているハルを見上げた。
 

 黒く柔らかそうな短髪の先が、生温い蒸気に、凪いでいる。


 目元が隠れてしまいそうな前髪の下に、光る宵闇の瞳が、ピークと目が合うと、緩く眦を下げた。


 酷く優しい顔をして、ハルはそっと、ピークの左の耳元に口元を寄せて、囁く。

 
「随分思い切り噛んだね……」

「っ!?」


 鼓膜を撫でるように響いた声に、ピークはぶるりと身震いをした。


 見開いた瞳で、間近にあるその顔を凝視する。

 暗がりで朧げだった顔立ちが、呼吸を感じる距離まで近づいて、漸くはっきりと見えた。血飛沫の中でハルの瞳を見た時に感じた、朧げな追慕の念が、純度を増した気がした。

 ピークの動揺を、揺れる瞳から感じ取ったのか、ハルはすっと目を細め、眉尻を下げて言った。


「…どうしてそんなに、悲しい顔をしてるんだ」


 悲しい顔なんて、していない。寧ろ、そんな顔をしているのはそっちのほうだと、ピークが言おうとして、手に噛み付いている顎から力を、抜こうとした時だった。
 

ハル!大丈夫かっ…?」


 心配したゲルガーが、皮膚と肉が溶け、骨が見え始めた巨人の身体を這い上がりながら、ハルの背中に呼びかける。


「大丈夫です。舌を噛んで巨人化しようとしたので、止めようと……」

「だからって手ぇ突っ込まなくてもいいだろうがっ!今代わりの布を…」


 ゲルガーはピークに馬乗りになっているハルの傍で片膝をつき、兵服の上着の内ポケットを探り始める。「ありがとうございます」と、礼を言ったハルは、ふと、ゲルガーの肩越しに、地面に転がっている重厚な四角い箱のようなものを、視界に捉えた。


 ピークが背中に背負っていたそれは、爆発に巻き込まれても、全く壊れていなかった。


「……あの箱…一体何を入れて……?」


 ハルは、拳を唇に軽く押し当て、口の中で呟いた。


 何かを入れるつもりだったのか、あるいは何かが入っていたのか。しかし、転がっている箱の蓋は開いていたが、中身が地面に散乱している様子はなかった。それに、何かを運ぶ為だけに、動きに支障を来しそうな程、重量のある箱を、態々背負う必要があるだろうか?


 疑問が頭を巡り、ハルはその慧眼で、箱の周りを注視する。…と、その箱のすぐ傍、先程の爆発の名残で草が燃えて、僅かだが明るくなっている地面に、人の足跡のようなものが見えて、ハルは大きく息を呑んだ。


「まさかっ…!」


 切羽詰まった声を漏らした瞬間、箱の裏側からぬっと人影が現れた。


 外套を深く頭から被った人物は、右手を、口元に運ぶ仕草を見せる。


「っ!?」


 その行動を見るや否や、ハルは咄嗟に立ち上がって、仲間達に向かって叫んだ。


「皆下がってください!!」


 あの箱の重厚さは、中の音を遮断する為のもので、中にはが……


 フードの下で迷いなく手の甲に噛み付いた彼は、その身体に黄金の輝きを纏い、激しい稲光を散らしながら、大地を激しく揺さぶった。


 熱い烈風がハル達を襲い、皆身体を前のめりにして飛ばされないよう耐える中、ハルに向かって、固い仮面のようなものを身につけ、鋭く尖った歯をギラギラと光らせた巨人が、飛び掛かってくる。


 ハルは咄嗟に、傍に居たゲルガーの肩口を足で蹴って、ピークの纏っていた巨人の残骸の上から突き落とした。


「っ、ハル!?」


 ゲルガーは、背中から地面に向かって落ちて行く中で、初めて見る金髪を靡かせた巨人が、ピークごとハルに頭から食いかかっていく映像を、スローモーションに見ていることしか出来なかった。



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