2021年御礼企画小説
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『もしも童話パロ(シンデレラ)をしたら?』
「舞踏会…ですか?」
ある城下町の少し外れにある、大きな屋敷の中のだだっ広い庭園の石畳を、大きな箒で掃きまわっていたハルを、屋敷の主人の娘であるクリスタとユミルが呼び止め、突然そんな話題を切り出してきた。
クリスタは大きな水色の瞳をキラキラと輝かせながら、身に纏った淡い桃色のワンピースの裾を踊らせるように、くるくると軽快にステップを踏み、声を弾ませる。
「そうなのっ、ハル!お城に住む王子が明日、花嫁を選ぶために舞踏会を開くことにしたみたいで、その招待状がうちのお屋敷にも届いたの!ふふっ、お城の中に入れるなんて…凄く楽しみ!一体あの中は、どうなっているのかなぁ?」
クリスタは屋敷の庭からも窺える、高台に聳える立派な城を見上げながら言うのに、ユミルはお城に想いを馳せるクリスタを見つめながら、腰に手を当てあまり面白くなさそうな顔をして言った。
「っち、余計なもん送りつけてきやがって…!…なぁクリスタ。あの城の王子なんて、滅多に民衆の前に姿を表さないから、どんな形してるのかも分からないんだぜ?それなのに、小躍りする程舞踏会に行くのが楽しみなのかよ…?」
ユミルが眉間に皺を寄せて言うのに、クリスタは「もう」と両頬をぷっくりと膨らませてユミルを見上げると、胸の前に両腕を組んだ。
「もうユミル!お城の中に入れる機会なんて、もうこの先無いかもしれないんだよ?それに、お城の舞踏会と言ったらきっと、美味しいお料理も沢山出るでしょう?」
「ああ…そっちか」
クリスタの言葉を聞いて、ユミルは何故か少しホッとした様子で息を吐き出すようにして言うのに、クリスタは怪訝そうに小首を傾げながらも、踵をくるりと返しハルを振り返って言った。
「ねぇハル。ハルも一緒に来てくれるでしょう?」
そう問われて、ハルはこくりと頷きを返すと、手にしていた箒を脇に挟んで姿勢を正し、クリスタとユミルに向かって生真面目に頭を下げようとする。
「もちろんですよ、クリスタお嬢様、ユミルお嬢様。身の回りのお世話は、私にお任せを…」
しかし、ハルが頭を下げ切る前に、ユミルはハルに歩み寄ると、ズイと身を乗り出して、ハルの鼻先を指でビシッと弾いた。
「ちげぇよバーカッ」
「いてっ」
「お前もちゃんと、ドレスを着て舞踏会に参加するんだ。私達の身の回りの世話なんてのはどうでもいいから、お前も庭いじりばかりしてないでたまには羽伸ばせよ」
鼻先を手で押さえるハルに、ユミルが肩を竦めてニッと白い歯を見せて笑う。この屋敷の使用人であるハルには、ユミルが何を言っているのか理解するのに時間が掛かり、やや静寂があった後、ハルは漸く言葉の意味を理解して、ギョッと目を見開き慌てふためいた。
「っい、いえ!そんなことは出来ませんよ!?私はこの屋敷の使用人で、お嬢様達の世話役なのですから!…そっ、それに、そもそも私はドレスがありませんし…」
「それは私に任せて!お父様に言って、ハルの分のドレスも準備してもらうから!」
「いえ!結構です!」
クリスタがウキウキとした気分を溢れ出すように瞳を輝かせて、ハルに向かって親指を立てて見せるのに、ハルは半ば青褪めながら首を激しく左右に振るのを横目に、ユミルはクリスタの肩に手を置いて、得意げに言った。
「大丈夫だクリスタ。それはもう私がお父様に言っておいたよ」
それにハルが思わず「え!?」と驚愕の声を上げる中、クリスタはその場にぴょんと兎のように飛び上がると、ユミルに向かって親指を立てて見せた。
「流石ユミル!仕事が早いね!」
「あっ、あの!お二人ともっ!?」
ハルは話がクリスタとユミルによって強引に進められて行くのに焦燥し止めようとしていたが、二人はすっかりハルも舞踏会に参加させる気になってしまっているようで、ハルの意思は二の次と、もう何を言っても参加せざるを得ない状況になってしまっていた。
「ハル!明日の17時にお城だから、16時までには支度を済ませてね!絶対にドレスを着て一緒に行ってくれないと、私…とっても怒るからね!」
「私がわざわざお父様に言ってやったんだ。着てこねぇのも行かねぇのも、あり得ねぇからな!?」
「ちょっ、お嬢様!?まっ、待ってくださいっ!」
「約束だよーっ!」
「…そ、そんなぁ……っ」
ユミルとクリスタはハルに手を振りながら、ハルが呼び止める声を無視して、そそくさと屋敷の中へ上機嫌に戻って行ってしまう。
ハルはひとり、だだっ広い庭園に残されると、額を片手で押さえ、これはとんでもないことになってしまったと項垂れて、深い溜息を自身の足元に吐き出したのであった。
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