2021年御礼企画小説
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『もしもライナーとジャンが入れ替わったら!?』
「あー眠ぃ…昨日は夜間訓練だったってのに、何でいつも通りの起床時間なんだよっ…クソっ」
ジャンは男子寮の二階の廊下にある洗面所で、無理矢理眠気を吹き飛ばそうとヤケになって顔を洗いながら、使い古され傷だらけのシンクに、ボンヤリと映る自身の顔を睨みつけて愚痴ると、隣で顔を洗っていた居たマルコが、首に掛けていたタオルで顔の水気を拭いながら苦笑いを浮かべる。
「うーん、流石に体がキツイよね…?少しは起床時間遅らせてくれてもいいのに。まあ、まだ今日の午前が座学だっていうのが救いだけど…」
そう言うマルコの目元には、珍しく黒々とした隈が浮かび上がっている。
「絶対に寝る奴続出するだろうな…」
「僕も起きてられる自信、ないよ」
「だよなぁ~…っ怠ぃな…」
二人は顔を洗うのを終えると、使ったタオルをひょいと肩に掛け、一度部屋に戻ろうと階段を降りた時、事件は起こった––––
「うおっ!?」
ジャンが階段を数段降りたところで片足を踏み外してしまい、派手に階段から転がり落ちてしまったのである。
そして運良くも悪くも落ちた先にはベルトルトと肩を並べて食堂へと向かっていたライナーがおり、ジャンはライナーと思い切り階段下で衝突して、二人は蛙の潰れたような声を上げて廊下に重なって倒れた。
それにマルコは慌てて階段を駆け降り、ベルトルトも青褪めながらライナーとジャンに声を掛ける。
「ちょっ、ライナー?!ジャン!?大丈夫か!?」
「二人とも、派手に頭ぶつけてたけどっ、怪我はないのかい!?」
二人が心配気に二人を見つめ声を掛ける中、ライナーとジャンはぶつけた頭を摩りながらヨロヨロと立ち上がった。
「っ…おいジャンっ、一体何なんだ!?」
と、『ジャン』が左のこめかみの辺りを抑えて、『ライナー』に抗議するよう睨みつける。
「わっ、悪ぃ!階段踏み外しちまってよ…ワザとじゃねぇんだ…!?」
それに、『ライナー』が右の側頭部を押さえながら苛立つ『ジャン』を見て申し訳ないと謝罪し、そして互いに目を合わせた時、一瞬二人の間に妙な沈黙が出来上がった。
そして…、
「「俺?」」
二人はお互いを指差し合い、唖然とした顔を付き合わせて、同時に同じ言葉を発したのだった。
※
「はぁ!?ライナーとジャンが入れ替わっただって!?」
講義室で信じられないと声を上げたエレンの口を、ジャンが慌てて塞ぎに掛かる。とはいえ、体はライナーなわけだが。
「おい馬鹿声がでけぇよっ!!」
「もがっ…!わ、悪ぃ…っしかし、そんなことあるわけがないだろ…?まるで御伽噺だぞ…。二人とも、頭打っておかしくなっちまってるんじゃねぇのか?」
エレンは困惑しながらジャンとライナーの顔を見て、訝し気に表情を曇らせると、近くにあった机の上に腰を落とす。
それにジャンも近くの椅子にどかりと腰を落とすと、机に突っ伏し、はぁと重たい溜息を吐いた。
「その方がまだ幾らかマシだってんだよ…」
「ああ…、何でこんなことになっちまったんだかな…。皆目見当も付かんぞ」
ライナーもジャンの姿で腕を組み、眉間に深々と皺を刻んで唸る。
二人の異変にいち早く気づいたアルミンは、エレンの傍の机の椅子に座ったまま、顎に手を当てて全く不可解な出来事に考え込んだ様子で言った。
「本当に魔法みたいな話だけど、あんまり周りに明け透けにするのは良くないかもね。変に揶揄われたりするのも、面倒だろうし。ちょっと今日は様子を見て、明日も治らないようなら医者に行ってみた方がいいよ。…医者で良いのか分からないけど」
それにライナーは眉間に寄せていた皺を少し浅くして、組んでいた腕を解きアルミンとエレンに視線を向ける。
「…だな。悪いが、この件のことは今いる仲間内だけで留めておいてくれ」
分かったとエレンとアルミンが頷く中、ジャンは机に突っ伏したままくぐもった声で心中を吐露する。
「サシャやコニーにだけは絶対に知られたくねぇな…」
そんな時、ガラガラと音を立てて講義室の扉が開いた。現れたのは如何にも眠そうな顔をしたハルであり、エレン達の姿を見て片手を上げると、間延びした挨拶をする。
「あ、皆、おはよー」
「おう、おはよう」
「おはようハル」
エレンとアルミンが、それに応えるよう同じく片手を上げて挨拶を交わしていると、ライナーは講義室の壁に掛けられた時計をちらりと見て言った。
「珍しいな。お前がこの時間に講義室に入ってくるなんて」
ハルはいつもなら講義の始まる三十分前には席に着いているが、今はもう講義開始の十五分前だった。
早起きが習慣着いているハルも、流石に夜間訓練後の朝は辛かったようだ。
「うーん…今日は、流石に眠くて…」
ハルは未だ眠気の含んだ言いながら、両目を棒にして、首の後ろを触って笑う。細く柔らかい黒髪は彼方此方寝癖で跳ねていて、まるで寝ぼけた猫のようだなとライナーは僅かに肩を竦めて笑う。
「おいおい目が全然開いてねぇーぞ…?寝癖も立ってるし…」
ジャンも突っ伏していた机から顔を上げて、ハルを見上げ揶揄うようにして言うと、ハルはふわっと口を開いて大きく欠伸をした。
「ん…くぁあ~」
「おいハル、そんなにデカい口を開けて欠伸をするんじゃない」
それにいつもの如くハルに保護者スイッチが入ったライナーの注意を受けて、ハルは欠伸をして浮かんできた涙を兵服の袖で拭いながら謝る。
「ご、ごめんライナー……ん?」
そこで漸く、二人の異変に気がついた。
「あれ、…ジャン?え、今ライナーが言ったんだよね?空耳かな…」
てっきりライナーに注意されたと思った台詞だったが、声はジャンのものだった為、ハルは椅子に座っているライナーを見下ろし、腰に手を当てて立っているジャンを交互に見て、自身の両耳を抓りながら首を傾げる。
「そうだ、俺が言ったんだ」
ライナーは腰に手を当てたままジャンの姿でこくこくと頷きながらそう言うと、ハルの困惑顔は更に色の濃さを増した。
「んんっ?」
ハルは眉を八の字にして喉を唸らせると、頭を両手で抱えた。
一体どういうことなんだとパニックを起こし掛けているハルが気の毒に思えてきて、まあハルになら話しても周りに不用意にひけらかすようなことはしないだろうと、ライナーとジャンは顔を見合わせ、事の次第を話してやることにする。
「ハル…実はな、今俺とライナーは…その、い、入れ替わってんだよ」
ライナーの姿をしたジャンが、自分でもおかしな事を口にしていると思いながらも腕を組んで椅子の背もたれに寄り掛かりながら言うと、ハルは黒い双眸をまん丸にして、顎に手を当てる。
「…む?」
そして、しばらく間を開けてから、頭の中で状況を把握すると、目の前でハエでも叩かれたような顔になる。
「入れ替わっている!?っそれは、本当なの?!」
ハルは傍に居たアルミンとエレンに顔を向けて問いかけると、二人はコクコクと頷きながら、不思議顔で言う。
「うん。ジャンが階段を踏み外して落ちた先にライナーが居て、ぶつかった衝撃で入れ替わっちゃったみたいなんだ」
「驚くよなそりゃ。こんなことが現実に起きるなんて、思いもしなかったぜ俺は…」
アルミンとエレンがそう言うと、ハルは再び頭を抱え、アタフタとして地団駄を踏み始める。
「そ、そそそれは大変じゃないか?!じっ、事件だよ!!」
「ま、待てハル!取り敢えず落ち着いてくれ」
ライナーに両肩をがっしりと掴まれて、ハルは困惑顔のまま、ジャンの姿をしたライナーを見上げる。
「落ち着いてって…」
何で当事者達の方が冷静なんだと怪訝な顔になるハルに、椅子に座っていたジャンが剣呑な表情になって言った。
「他の奴らには知られたくねぇんだよ…」
「どうして?」
「どうしてってそりゃ…面倒臭くなるからだ」
ジャンはそう吐露して、視線を講義室の端で相変わらず二人騒いでいるコニーとサシャへ視線を向けたのに、ハルは「ああ」と察した様子で、こくりと頷いた。
「…なるほど」
そして再び顎に手を当てると、なぜか探偵の真似事を始めたかのような仕草と口調で話し始めた。
「しかし、二人の中身が入れ替わるなんて、一体何が起こったと言うんだろうか…っ、そんな摩訶不思議なことが、この現実で有り得るとでも言うのか…」
そんなハルに、ライナーとジャンは顔を見合わせ、怪訝な顔になって問いかける。
「おいハル、…何だよその喋り方。探偵の真似事でもしてんのか?」
「いや、だって事件だから」
ジャンの問いかけにハルは至極真面目な顔で答える。ハルはどうやら最近104期の訓練兵の中で人気になっている探偵シリーズの小説の真似事をしている様だった。
「いや、それは理由になっていないだろ…」
思わずライナーが小さくツッコミを入れる中、ハルはううんと喉を唸らせて問題解決の為の方法を考え込んでいると、エレンが講義室の端に居たコニーに呼ばれて、座っていた机から立ち上がった。
「おいっ、エレン!ちょっとこっち来てくれよー!」
「あ?ああ、今行く!」
その時、ころりとエレンのポケットからペンが転がり落ちる。
「…あ、エレン!ちょっと待って」
「?何だよ」
エレンはペンを落としたことに気づいていなかった様子で、ハルは床に転がったペンを拾い上げると、それをエレンに手渡した。
「ペン落としたよ」
「おお、サンキュ。気付かなかったよ」
それにエレンはニッと笑ってハルからペンを受け取ると、ハルの頭をポンと叩いた。
それを見たジャンは弾かれるようにして椅子から立ち上がると、ぐっとエレンに詰め寄る。
「おいてめぇっ…エレン!何気安くハルの頭に触ってんだよ!?」
「はあ!?なんだよジャン!?俺は別にっ……」
エレンはジャンが突っかかってくるのに、いつも通り食って返そうとしたのだが、中身はジャンだが外見がライナーな為、その違和感に尻込みしてしまう。
「なんか、ライナーだと調子狂うな…」
「そんなことはどーでもいいんだよこの死に急ぎ野郎!!」
「はあ!?だから何突っかかってて来てんだよこの馬面がよお!?服が破けちゃうだろうが!!」
しかし、エレンがやりにくそうにしているのをジャンはお構いなしといった様子でエレンの胸倉を荒々しく掴み上げるので、エレンはすぐにいつもの調子を取り戻した。
「おいやめないか二人とも!それと俺の顔は馬面じゃないぞっ!」
胸倉を掴み合う二人の間に、ジャンの姿をしたライナーが慌てて割って入る様子は滑稽そのもので、アルミンとハルは苦笑いを浮かべる。
「やっぱり、二人が入れ替わってるのは本当みたいだね」
「そうだね。まるで天と地がひっくり返ったみたいだ」
ハルとアルミンはなるほどと納得しながら頷いていると、ジャンは「あー!」と頭を掻きむしって、どかりと先ほど座っていた椅子に再び腰を落とした。
「くそっ!!ずっとこのままだったら、どうすりゃあいんだよ…!」
「お前も、接し難いだろう?」
ライナーも困り果てた様子でハルにそう問いかけると、ハルは然程気にした様子もなく首を左右に振った。
「そんなことはないよ」
それから二人の顔を見ると、ハルは小首を傾げて微笑み、肩を竦めて言った。
「外見がどうであろうと、二人がライナーとジャンであることは変わらないでしょ?それが変わらないなら、私の中の二人も変わらない。私は二人のこと、変わらず好きなままだもの」
「「!?」」
ハルの言葉は二人の心臓を撃ち抜くには十分過ぎるもので、ジャンとライナーはハルの笑顔に釘付けにされたまま石化したように固まった。
そんな二人の様子を見ていたアルミンは、やれやれと肩を竦めて苦笑する。
「ねぇハルー!ちょっと今日の座学の範囲で聞きたいことがあるんだけどー!」
「あ、うん!今行くよ!じゃあね、皆っ、また後で!」
教室の一角でミーナがハルに向かって手を振るので、ハルはジャン達に軽く手を振ってミーナ達の元へと駆けて行く。
そんなハルの背中を見送りながら、ライナーとジャンは真顔のまま呟いたのだった。
「「結婚したい」」
完
追記→ししまる様、リクエスト頂きありがとうございました‼この二人はきっと、一晩寝たら治っている筈、です‼ww あざらしより。
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