第四話
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その日の朝は、やけに空気が底冷えていて、気怠い目覚めに重たい上半身を起こし、ベット横のカーテンの端を掴んでちらりと窓の外を覗き込めば、夜のうちに降り続いた雪で、だだっ広い開拓地は真っ白に染め上げられていた。
アニは窓の外側で、しんしんと降る小さな雪の粒をぼんやりと眺めながら、憂鬱な重たい溜息を吐いた。
すると、口元の空気が音も無く白い靄を作って消える。
––––冬が来た。
アニは微睡んでいた頭の中で冬の到来を認識すると、ちらりと視線を部屋の壁に掛けられている時計に向ける。
起きて朝支度を始めるには、些か早すぎる時間で、どうやら寒さの所為でいつもよりも早く目が覚めてしまったようだった。
アニは特段やることも思いつかなかったので、薄い粗末な掛け布団を体に巻きつけて、再び二度寝に更けようとしたのだが、ふと窓の向こうに、開拓地を見回っているいつもの憲兵の姿ではなく、一人の少女の姿が目に留まって、空色の瞳を細めた。
少女は支給されたボロボロで色褪せた鼠色の防寒着を纏い、ある一点を見上げるようにして、真っ白な世界の中に一人、案山子のように立ち尽くしている。
彼女の短い黒髪が、まるで白い布に黒いインクでも溢したかのように、やけに目立って見えた。
此処からでは遠すぎて表情を窺うことまでは出来なかったが、その立ち姿が酷く憂いを帯びているように感じて、アニは目を凝らし、少女が見つめている視線の先を追いかけて……息を、呑んだ。
少女はただぼーっと立ち尽くしているだけのようにも思えたが、よく見ると、傍にある広葉樹の木を見上げているようだった。
まだ葉を落とし切っていない太い木の幹から、僅かに人の輪郭がぶら下がっているのが見えた。
正確には、彼女は木を見上げていたのではなく、その木で首を吊って死んでいた、男の遺体を見上げていたのだった。
それが、アニが初めて、ハル・グランバルドという存在を、認識した日だった。
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