皆が紡いだ絆
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そうして迎えたハルの誕生日当日の朝、集合時間前に指定されていた駐屯地の出口に律儀に時間を守り揃っていた男子勢は、女子達が現れるのを待っていた。
まだ時間が過ぎているわけではなかったが、女子が誰一人としてやってこないことに、コニーは不服そうに頬を膨らませると、頭の後ろに腕を組んで口を尖らせた。
「なんだよー、女子達来るのがおそくねーかぁ?」
そんなコニーに、アルミンは肩を竦めて苦笑する。
「女の子は僕たちよりも準備に時間が掛かるものなんだよ、コニー」
「なんだよそれ?ただ着替えて顔洗うくらいだろ?」
「他にもやることがあるんだよ」
アルミンの言葉が府に落ちない様子のコニーに、マルコはアルミンと同様苦笑を浮かべて言うと、女子の宿泊舎の方からサシャ達が現れた。
いつもの訓練終わりの私服とは違って、少しおしゃれをして髪型なども変えている女子勢に、普段見慣れない格好だと男子勢が新鮮さに密かに心踊らせていたのは内緒である。
「お待たせしましたー!」
サシャがそう言って駆けてくるのを、コニーはムッとした様子で「遅いぞ!」と迎えると、「別に遅刻してるわけじゃないんですから、いいじゃないですか!」とサシャが食って掛かる。いつも私服は白シャツ短パンなのに、珍しく白いブラウスに上にシンプルな藍色のエプロンワンピースを着ていたハルが、そんな二人を「落ち着いて」と取り成していた。
いつものボーイッシュな雰囲気とは打って変わって、清楚な年相応の少女らしい姿のハルに、フロックは思わず見惚れてしまっていた。
そんな熱い視線に気がついたハルは、怪訝そうに首を傾げて、フロックの顔を覗き込む。
「フロック…どうかした?」
「いっ、いや、そのっ…よく、にあ、」
「?」
ジッと大きな黒目で自分を見つめてくるハルにドギマギしてしまい、思っていることをなかなか伝えられないでいるフロックを他所にして、フロックの前に現れたのはライナーとジャンの二人だった。
「よく似合ってるな、ハル。いつもと雰囲気が違うから新鮮だ」
「ああ。マジで可愛い。…こういう服も着るんだな?」
ライナーとジャンがフロックとハルの間に割って立ち、ハルへ言おうと四苦八苦していたことをすべて網羅してしまう。二人の言葉にハルは少し照れ臭そうな様子で肩を竦めた。
「ありがとう。この服、サシャが貸してくれたんだ。流石に短パンは駄目だって言われてしまって…」
嬉しそうにしてしているハルを見て、悔しげに眉間に皺を寄せているフロックを、ジャンとライナーはニヤリと口端を上げてしてやったりな視線を送った。それに苦虫を噛み潰したような顔をしていると、そんなフロックの肩に、サシャが後ろからポンと手を置いた。
フロックはそれに振り返ったが、間近にサシャの殺気立った顔があって、思わず顔を引き攣らせてしまう。
「!?」
「フロックの気持ちはよく分かりますよ。っこのピクニック、あの二人を極力ハルから遠ざけなくてはっ…」
「いだだだっ!おいサシャっ、肩の骨が砕けちまう!!」
サシャはライナーとジャンを睨みつけながらギリギリとフロックの叩いた肩を掴むのに、肩の骨が軋み上がってフロックが悲鳴を上げる。
「おーい、お前ら早く市街地に行こうぜー!あんまりモタモタしてると、馬車が来ちまうぞ?」
コニーが口元に手をメガホンのようにして言うのに、ジャンは側に居るハルの肩を掴んで声を掛けた。
「ハル、市街地まで一緒に歩こうぜ?」
しかし、そんなジャンからハルを奪い取るようにして、ライナーの屈強な腕がハルの腰に回された。
「いいや駄目だ。ハルは俺と歩く」
それに「はあ!?」と声を上げたのはジャンだけではなく、先程までフロックの肩を握り潰そうとしていたサシャもハルの側に駆け寄ると、背後から頸に向かって飛びついて言った。
「ちょっと待ってください!ハルは私と一緒に歩くんですよ!?」
すると今度はクリスタが駆け寄ってきて、ハルの両腕を掴んで引っ張りながら、青く大きな瞳をハルの双眼に強請るようにして向けた。
「だった私も一緒に歩きたいっ…!ハル?いいよねっ?」
そうして四方八方から引っ張られ始めたハルは、体が引き千切られそうになって、涙目になりながらもなんとか抗する。
「ちょっ!みっ、みんな引っ張らないでっ…!かっ、体が千切れるーっ!!」
しかしそんなハルはお構いなしといった様子で、サシャ達の戦いは更に白熱してしまう。
「ジャン!狡いですよ!?いつもハルに付き纏って独り占めして…!」
「そうだよ!私だってハルともっと一緒に居たいのに!」
「何がズルぃってんだよ!?お前等なんて寮じゃ朝も夜も一緒に居られるだろーが!こっちわ飯食う時と訓練の班が一緒になった時くらいしかチャンスがねーんだよっ!ライナー、お前だってそーだろ!?」
「まあな。…だが、ジャン。お前には前科がある。ハルに近づけさせると何を仕出かすか分からん」
「なっ…!?そ、そんなのっフロックだってそーだろーが!?」
「それはお前等が邪魔してくるから何時も未遂で終わってるだろ!?」
何故かその輪に参加していなかったフロックまでにも飛び火したその仁義なき戦いを、アルミン達は顔を引き攣らせて見ていたが、いよいよハルが死にかけてきたので、堪らずベルトルトが制止の声を上げた。
「みっ、皆っ…!ハルが死にかけてるから、そろそろ離してあげようか…?」
「「あ」」
サシャ達がしまったと気づいた頃にはハルは青白くなって口から魂が出かかっており、結局見かねたミカサがサシャ達からハルを取り上げると、背中に背負って市街地の馬車乗り場まで向かうことになったのであった。
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