第四十二話
名前変換設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ニック司祭は、エルミハ区の兵舎へ向かったハンジ達と一度別れ、リヴァイと共に街へ出て人々の様子を確かめに向かった。
そして、目の前に広がった光景に愕然として立ち尽くした。
「ああ…」
「おい、止まるな。迷子になっちまうだろうが」
そんなニック司祭の背中を、リヴァイが足で軽く蹴り飛ばす。
ニック司祭は、大勢の人々が絶望と恐怖を表情に滲ませ、街道を進んで避難場所へと向かう光景を見つめながら、「これは…?」と掠れた声でリヴァイに問い掛ける。
「そりゃこうなるに決まってんだろ。壁が破壊されちまってんだからな」
リヴァイはあまりに馬鹿な質問だと、舌を打つようにして答えた。
避難民の中には、幼い子供の姿も見受けられた。どうやら親と逸れてしまったのか、一人「お母さん」と泣きじゃくりながら、人波に押されるようにして歩いている。
「あ、ああっ」
ニック司祭は子供の元へと駆け寄ろうとしたが、リヴァイはその手を掴んで引き止める。
それから、悲壮感に塗れたニック司祭の顔を睨め付けながら、矢継ぎ早に言葉を浴びせた。
「おい、何のつもりだ。ここからが一番、住処を失った人の表情をよく拝めるだろ。あれがお前らが切り捨てようとしている顔だ。お前らの望みが叶って、壁の中を巨人で満たすことに成功すれば、皆巨人の臭ぇ口の中で、人生最悪の気分を味わい、その生涯を終える。人類全員仲良くな」
ニックは奥歯を噛み締め、人々の嘆く声を聞きながら、目蓋を閉じた。
己が口を閉ざすことも、そして口を開くことも、どちらとも罪深い行為だというのなら、自分は自分の意思に従い、行動を起こすべきなのかもしれないと−−−−
リヴァイはその後ニック司祭を連れて、巨人の領域へ出る為に出発準備を整えているハンジ達の居る兵舎へと向かった。
モブリットやハンジ、エレン達が馬に乗り込もうとしている中、ニック司祭が兵舎へ現れたのに気が付いたハンジが、思い悩んだ顔をしている彼の元へと足を運んだ。
「何か気持ちの変化はありましたか」
「…」
ニック司祭は、口を閉ざしたまま、しかし何か言いたげに顔を俯けるのに、ハンジは堪らなくなってその場で地団駄を踏み、声を荒らげた。
「時間がないっ!分かるだろ!?話すか黙るかはっきりしてくださいよ!お願いですから!!」
それに、ニック司祭は漸く口を開いた。
「私には話せない。他の教徒もそれは同じで、変わることはないだろう」
「っそれはどうも!わざわざ教えてくれて助かったよ!」
ハンジは苛立ちながら司祭に背中を向けた。しかし、ニック司祭はハンジを呼び止めるようその背中に言葉を連ねる。
「それは自分で決めるにはあまりにも大きな事だからだ。我々ウォール卿は、大いなる意思に従って居るだけの存在だ」
「…誰の意思?神様ってヤツ?」
ハンジは馬に乗り込もうと踏み出した足を止め、ニック司祭を振り返る。
「我々には話せない。…だが、その大いなる意思により監視することを命じられた人物の名なら、教えることは出来る。その人物は今年、調査兵団に入団したと聞いた。その子の名は…『クリスタ・レンズ』。本名は、『ヒストリア・レイス』だ」
その言葉に、その場にいたエレンとミカサ、そしてアルミンは驚愕して息を呑んだ。
「私が出来る譲歩は、ここまでだ…後はお前達に委ねる」
ニック司祭はそう言って瞳を閉じ、顎を上げて溜息を吐く。
「その子、104期だから、今は最前線にいるんじゃっ」
ハンジは唖然としてしているエレン達の横で、青褪めながら言う。
「急ぎましょう!!」
エレンが焦りを露わにして踵を返し、馬に乗り込もうと兵舎を出ようとした時だった。
兵舎から外に繋がる扉が荒々しく開き、本来エルミハ区に居るはずのないサシャと、サシャに片腕を担ぐようにして体を支えられているミケが現れた。
「ハンジッ!リヴァイ!」
「ミケ…?何でこんなところにいやがる」
「一体何がっ…それに、どうしてこんな所にっ…!?怪我っ、酷い怪我してるじゃないか!?」
リヴァイとハンジは、両脚の太ももに巻かれた包帯に血が滲み、出血の所為かひどく蒼白な顔をしているミケの元へと駆け寄った。
「先程兵団支部に事後報告へ向かったところ、ミケさんと鉢合わせまして…っお二人と団長に直接お伝えしたいことがあるとお聞きして、此方までお連れしました!」
サシャが事の次第をリヴァイとハンジに話すと、続けてミケが珍しく焦燥を露わにした声音で、口早に状況報告をする。
「巨人とっ、交戦した…!104期の新兵を隔離していた施設の南だ……其処で、複数の巨人と、そしてその中に、知性を持つ巨人が一体居たっ」
「なんだって!?」
ハンジが声を上げると、エレン達も同様に驚きミケの元へと駆け寄る。
「知性の持つ巨人って…まさか鎧の巨人、それとも超大型巨人ですか?!」
アルミンの問いに、ミケは傷の痛みで脂汗が滲んだ顔を横に振った。
「いや、そのどちらでも無い…獣のような体毛で覆われた、腕の長い巨人だった。そいつは人の言葉を流暢に話し、アニ・レオンハートとも面識があるようだった」
「アニのことを…知っている…?」
ハンジは頭を抱えた。
「また新たな巨人が現れたってことかっ」
狼狽えるハンジ達に、ミケは状況報告を続けた。
「それだけじゃない。…っハルが、『未知の力』を使った」
「「!?」」
ミケの言葉に、一同は大きく息を呑んだ。
「ハルがっ、漸く力を使えるようになったの!?」
ハンジが興奮しながら、目を丸くしてミケに詰め寄るように問いかけると、ミケは神妙に頷いた。
「あぁ…本当に、凄まじい力だった。背に黒白の翼を生やし、あの時と…同じ…、トロスト区が襲撃を受けた時と同じく、巨人の動きを封じ込めた。知性のある獣の巨人も、同様の効果が見られた」
「ハル…っ、やったんだな」
「そ、そうか…っ、だとすると、人類の未来も明るいぞっ」
エレンとハンジは、ハルが力を使えるようになる為、必死に努力して来たことを知っていた。だからこそ、漸くハルの努力が実を結んだと聞いて、嬉しく思っていたが、しかし、嬉々としているハンジ達と、ミケが浮かべる表情は全く真逆なものだった。
ミケは緊迫した表情で、サシャに支えられていない腕でハンジの肩を掴むと、喉を唸らせるような低い声で言った。
「だがな、ハンジ。ハルの力は、神々しく強大なものだが、それ故にひどく危険な予感がした…」
「え?」
「どういうことだ?」
ハンジとリヴァイが、ミケの言葉に戸惑いの表情を向けると、ミケはハンジの肩から手を離し、その手で汗で額に張り付いた前髪を掻き上げながら、眉を顰めて言った。
「力を使った後のハルだが、明らかに体に異常を来たしていた。僅かな時間でも、体温が極端に低下し、呼吸はひどく苦しげだった。…あの力…恐らくだが、使い過ぎればハル自身の命に関わるのではないだろうか…」
ミケの言葉に、ハルの『未知の力』について知らされていないサシャ以外の全員が、何か不穏な予感が胸を過り、表情を曇らせた。
「ハルの力は強大であるが故に、使うには代償が必要になるっていうこと…?じゃ、じゃあ今、ハル達は何処に、…他の104期生達は?」
ハンジは剣呑な顔でミケに問う。
「巨人に空けられた壁穴の捜索に向かったが、恐らく今は…ウトガルド城で身体を休めて居るはずだ」
ミケの言葉を聞き、ハンジは一刻を争うとすぐさま行動に移した。
「ミケ、報告してくれありがとう。サシャはいろいろ聞きたいことがあるだろうけど、一先ずミケを病院まで連れて行ってやってくれ。ハルのことは、後でちゃんと話をするから」
「は、はい…!」
サシャはハルのことをハンジ達から問いただしたい気持ちを抑え込みながら、こくりと頷く。
第四十二話 『救援』
ハンジの班と他数名の調査兵、そしてエレン達はウトガルド城へ向かい、右足を負傷しているリヴァイと、そしてジャンとサシャはエルヴィンと共にウォール・ローゼ内に侵入した巨人の索敵に回ることとなった。
完