第三十八話
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ドクン ドクン
ドクン ドクン––––
心臓が、私の中で脈打っている––––
胸の中で心音が鳴らなくなってから、未だ一ヶ月と少し程度しか経過していないが、左胸で心臓が規則正しく鼓動する感覚が、やけに懐かしいと感じてしまう。
そして、背中に生えた黒白の翼が、鼓動を始めた心臓と、何か管のようなモノで繋がれているような感覚もあった。
心臓を還した体を巡る血液が、その管を通って背中に流れ込み、翼の羽一つ一つが熱く燃えている。
しかし、それと比例して、水を浸したコップに乾いた布でも押し入れた時のように、体の血液が吸い上げられていくかのようで、細胞が血の気を失って、足や手の指先から、段々と体温が失われて行く……
このままの状態で居続ければ、体がゆっくりと凍りついてしまいそうな、そんな漠然とした恐怖心が胸に這い上がってくる。
だのに、今のハルには、やけに周りの音が鮮明に聞こえて、遠くの景色まで見渡す事が出来ていた。
その上、肉体という概念すら無くなってしまったかのように、身体は軽く、手にしているブレードや、腰に装備している立体機動装置の重みすら感じなくなっている。
今なら何でも出来る。なんて、そんな気にさえさせられる。
不気味な高揚感が胸に漂い初めて、ハルはこのまま此処に長く留まるべきでは無いと、自身の身に起きたことに動揺する思考の中の理性を懸命に掻き集めて、やけに驚いた顔をしている獣の巨人の前から、唖然として自分を見上げているミケの体を横抱きに抱え上げて、いつの間にやら傍に駆け寄って来ていたアグロに騎乗しこの場を離れる。
普段の自分にはミケの屈強な体を持ち上げることは困難だが、今は『未知の力』の所為か、簡単に抱え上げてしまうことが出来た。
エルヴィンやハンジ達から聞かされていた通り、自分の姿を見て平伏し、動けなくなった巨人達を背に、彼等の姿が見えなくなってからしばらくアグロを走らせていると、急に地から湧き出て来たかのように、凄まじい倦怠感が身体に襲いかかってきた。
羽毛のように軽かった身体が、急に鉛を乗せられたかのようにズシンと重くなって、胸の中で震えていた心臓の音が、段々と遠のいて行く中、肺が血液を失って、引き攣り、強張って行く––––
酷く、喉が渇く
胸が苦しい
ああ、水が欲しい
身体が怠い
喉を潤したい
寒い 冷たい
温め たい 体を、 何か 熱くて 赤い水 で
そう、熱くて赤い–––––
血 が 欲 し い
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