第三十二話
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『!?』
そう口にした時、女型の表情が、明らかに変わった。
驚いたような、そして…信じられないと、言いたげな顔になった。
その表情は紛れもなく……アニのものだった。
ハルはそう確信してしまった瞬間、頭が真っ白になって動けなくなってしまった。
全身の感覚が失せて行くようで、ブレードを握りしめている手の感覚も、無くなってしまったかのようだった。
アルミンは馬上からハルの顔がちらりと見え、異変に気が付き、ハルの方へと馬を寄せた。
「ハルっ!?」
すると女型の巨人は、ハルが動揺している隙に顔の横に打ちつけられているワイヤーを治癒した左腕で掴み投げ払う。
「っう!?」
それにハルの体は駆け寄ってきていたアルミンを目掛けて勢いよく吹き飛ばされてしまった。
「っ!?」
しかし、アルミンは飛んで来るハルの体を受け止めようと、避けることなく両腕を前に突き出しているのが視界の端に見えて、ハルははっと我に返り、立体機動装置を取り付けた腰元の金具へと、風圧を受けながらも必死に歯を食い縛って手を伸ばした。
この勢いで立体機動装置を取り付けたままアルミンに衝突してしまうと、打ちどころが悪ければ命を落としてしまう可能性があり、ハルは強引に立体起動装置をベルトの金具から取り外した。
ハルの腰元から離れた立体機動装置は、ギリギリのところでアルミンの体を避けたが、アルミンが乗っていた馬に直撃してしまう。
それに馬が悲鳴を上げて倒れる中、アルミンは必死になってハルの体を抱き止めると、体に強い衝撃を受け吹き飛ばされる中、懸命に地面に向かって背中を下に向けながら落下し、体を強く打ち付けながらハルと共にゴロゴロと転がった。
その際にアルミンが装着していた立体機動装置もベルトから外れ、激しい金属音を上げながら地上で跳ね上がった。
「ハルっ!!アルミンっ!!」
地面に激しく打ち付けられ転がった二人に、ジャンは半狂乱になりがら声を上げ、右足と右腕を引きずりながら二人に覆い被さるように向かっていく女型に馬を走らせた。
「うっ…」
ハルは身体中の骨が軋み上がるような痛みに耐えつつ、懸命に地面に顔を擦り付けながら顔を上げた。
するとダラリと額から熱い血が流れ、左の半面を濡らし、首筋を流れて鎖骨に触れる感覚があったが、視線の先には頭部から血を流して倒れているアルミンの姿があり、ハルはアルミンの元へと必死に腕と足を動かして這い寄った。
「ア…っ、アル、ミンっ…」
ハルの呻くような声で名前を呼ばれて、アルミンは目蓋の裏で瞳を震わせると、緩慢に目を押し開いた。
そこには、左の額部分から蒸気を上げながら血を流し、自分のことを心配げに見つめているハルの顔があり、そしてそんなハルの背後には、じっと自分と、ハルの背中を見下ろす、女型の巨人の顔があった。
アルミンはその光景に、酷く動揺しながら、大きく瞳を見開く。
その時だった。
「そいつらにっ、手ぇ出すんじゃねぇ!!」
ジャンが女型の巨人の背中に向かってアンカーを射出し、馬上から飛び上がった。
しかし、ジャンが飛び上がった瞬間、女型の巨人は瞬時に身体を捻り、背中に突き刺さったアンカーを、完治した右足の膝をワイヤーに押し付けて抜き取ってしまう。
「(っ、コイツ…運動性度が普通の奴の比じゃねぇっ…!分かってはいたがっ、あのままじゃアルミンとハルがやられちまうっ!)」
ジャンは咄嗟に抜き取られたアンカーとは逆のアンカーを女型の太腿に打ち、ジャンを振り払うように繰り出された左腕の攻撃を、何とか身体を捻って避け、女型の巨人の背後に回り頸にアンカーを打ち出す。
しかし、女型はやはり急所である頸を、左手で覆い隠してしまった。
「ジャン!!」
女型の背後で身動きが取れなくなっているジャンに、ライナーが馬を走り寄せながら叫ぶ。
「(くそっ!もう逃げられねぇっ、死んじまう…っ!ワイヤー掴まれて終わりだっ…!)」
ジャンは女型の巨人が青い瞳を細めて自身を視界に捉えると、右腕の拳を固く握り締めたのを見て、恐怖に顔を引き攣らせた時だった。
「ジャン!!『死に急ぎ野郎』仇を取ってくれぇっ!!」
突然、アルミンが身体を地面から起こしながら、喉が張り裂けんばかりの大声で叫んだ。
するとその瞬間、女型の動きがまるで時が止まったかのようにピタリと止まったのだ。
「!?(アルミン…!?)」
ジャンは死を覚悟したが、石のように固まって動かなくなった女型の巨人に、唖然とする。
アルミンは頭部から流れた血で濡れた顔で女型の巨人を睨み上げながら、言葉の釘をその女型の体に打ち付けるような口調で、叫び続ける。
「そいつだっ、そいつに殺されたっ!右翼側で本当に死に急いでしまったっ、『死に急ぎ野郎』の仇だぁっ!!」
ハルはそう叫ぶアルミンの視線を辿るように、自身も懸命に上半身を起こして、女型の巨人の顔を見上げた。
アルミンの言葉に反応を示した女型の巨人の横顔に、ハルは酷い頭痛を覚えながら、震える声で「嘘だ…」と呟く。
ジャンはその隙に地上へ転がるように着地し、ワイヤーを巻き取ると、近くに生えていた広葉樹の木の幹の後ろに手を付き、女型の巨人とアルミンの様子を窺った。
「(何が起こった…!?頭打って混乱しちまったのか!?まずいぞっ、こんな時にっ…!)」
「僕の親友をっ、そいつが踏み潰したんだ!!足の裏にこびりついているのを見たっ!!」
アルミンは女型の巨人に向かってそう叫び続けていると、そのアルミンの言葉に気を取られ動かなくなっている女型に向かって、ライナーが被っていたフードを取りブレードを引き抜くと、頸に直接アンカーを打ち付け馬上から飛び上がった。
「(ライナー!?直接頸を狙うのかっ!?)」
ジャンは女型に攻撃を仕掛けたライナーに固唾を呑んだが、アルミンの言葉に気を取られている今なら、隙を突けると踏んだ。
しかし、ライナーが頸に斬りかかろうとした時、女型の巨人の右手に、その身体を鷲掴まれてしまった。
「「!?」」
ライナーの屈強な体も、巨人からしてみれば簡単に握り潰せてしまう程に脆い。
女型は身体を掴まれ捥がくライナーの顔を押し潰すように親指を動かして、その顔に押し当てる。
すると、女型の右手から、血飛沫が上がった。
「っおい…?ライナー…っ、お前っ…」
ジャンはボタボタと赤い血が女型の巨人の右手から滴り落ちる光景に、信じられないと頭を振りながら後退った。
アルミンもこれは夢だと確かめるように、上瞼を引き攣らせて目を見張る。
しかし、ハルだけは違った。
ハルの耳には、女型の巨人の手の中からブレードがカチカチと音を立てる音と、ライナーの苦しげな息遣いが聞こえていたからだ。
そして、ライナーは次の瞬間、女型の右手の指を二刀のブレードで一気に切り飛ばし手の拘束から逃れて現れた。
「っ!?」
そしてライナーはそのまま地上に着地すると、ブレードを鞘にしまい、地上に座り込んでいたハルとアルミンの体を両脇に抱えて、女型から離れるように駆け出した。
「もう時間稼ぎは十分だろう!?急いでコイツから離れるぞっ!人喰いじゃなけりゃ俺達を追い駆けたりはしな筈だっ!」
それを見たジャンも、ハル達の方へ向かって走り出す。
すると女型の巨人は、ライナーに指を切り落とされた右手をしばらく見つめた後、ゆっくりと立ち上がると、アルミン達とは真反対の方向へと走り出した。
それに、ライナーが女型を嘲笑うようにして言った。
「見ろ!デカ女の野郎め!ビビッちまってお帰りになるご様子だ!」
「え?」
「…そんな、なんで…っ」
しかし、女型が走っていく方向を見て、ライナーに抱えられていたアルミンとハルは愕然とした。
女型が走り向かって行った方向は、エレンが居るであろう場所、陣形の『中央・後方』であったからだった。
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