第二十話
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ハルとフロックは無事街道を抜け本部に到着すると、真っ先に補給棟へと向かった。
しかし、やっとの思いで辿り着いた補給棟の中は薄暗く、灯されている筈の灯台の灯りが殆ど消えてしまっているようで、中の様子を外側の入り口から覗き込んでいた二人は表情を曇らせた。中の状況がどうなっているのかは見えないが、確かな腐敗臭が漂っているのに、巨人が未だ中にいるのは間違いないようだった。
ハルとフロックはアイコンタクトを取ると、足音を極力殺して、入り口のすぐ傍にあるガスが陳列された棚に身を隠しながら、至極慎重に奥へと進んで行く。ややあってハルはピタリと足を止めると、後ろをついてきていたフロックも一息遅れて足を止めた。
ハルはガスボンベの並べられている僅かな隙間から、補給棟の奥の方に視線を向けて、耳を澄まし目を凝らす
。
「…足音が聞こえる…巨人が六体……いや、七体だ。思ったより多いな…。…っ、昇降機が降りてくる音もする…!」
「なっ?!巨人が居るってのになんで昇降機で降りて来るんだよ?そんなの、巨人の餌食になっちまうじゃねぇか…!」
フロックがハルの隣で狼狽え、頭を抱える。ハルも皆がヤケを起こして無謀な行動に出てしまったのではないかと不安になったが、暗闇の中に灯りを灯した昇降機が降りてくるのを視界に捉えて、無計画な行動ではないということを察した。昇降機の中には、ライフルを構えた同期達の姿があった。昇降機に取り付けられた灯りで、ボンヤリと暗闇の中に、ハルが予想した通り七体の巨人の輪郭が浮かび上がって見えた。
「どっ、どうするつもりなんだ…!あのままじゃ食われちまうぞ!」
フロックが焦ってボンベの棚から身を乗り出そうとしたのを、ハルは肩を掴んで引き止める。
「待ってフロック…!多分、敢えて昇降機に巨人を引きつけてるんだよ。中に、ミカサ達の姿がない…きっと、皆が囮になっている間に、ミカサ達が巨人を倒す作戦なんだ。さっき、私とフロックがやっていたのと同じように…!」
「!そ、そうか…そうだよな。向こうにはアルミンもマルコも居るし、無茶なことはしない筈だしな…」
ハルの言葉に、フロックは身を乗り出そうとした体を引きながら、冷静になろうと努めて頷いた。
七体の巨人が、降りてくる昇降機の四方を取り囲むようにして吸い寄せられて行き、昇降機が巨人の目の高さまで降りた時だった。
昇降機の中で銃を構えていた同期達が、「今だ!!」と声を上げたマルコの合図を皮切りに、一斉に引き金を引いた。
ドンドンドン!!
激しい銃声が補給棟内に鳴り響き、薄暗い暗闇が発砲時の閃光でバチバチと瞬く。
ライフルに撃ち抜かれた巨人達が顔面を抑えて踠いている隙に、天井に身を潜めていたミカサ達が巨人の頸を狙って飛び降りてくる。
「おおっ…!」
見事に巨人の急所を削ぎ上げていく仲間達に、フロックが感嘆の声を上げたが、それも束の間に、仕留め切れなかった巨人が二体残っていた。どうやらサシャとコニーが担当していた巨人二体のようだった。
「サシャとコニーだ!!」
ベルトルトの緊迫した声が補給棟に響く。
援護をするようにジャンが声を上げたのが聞こえて、ハルは堪らずガスボンベの棚からサシャ達に向かって走り出した。それに慌ててフロックも後を追うが、心配は杞憂に終わり、サポートに入ったミカサとアニが、コニーとサシャを狙った巨人の頸を見事に削ぎ上げた。
「ミカサァァァァアアア!!」
「怪我はない」
「はいぃっ、助かりましたぁ・・・」
「だったらすぐに立つ!」
「アニ、助かったよ・・・」
「どうも」
「危なかったなアニ・・・怪我が無くて良かったぜ本当に・・・」
サシャが泣きながらミカサの足に縋り付いて礼を言っていたが、ミカサはそんなサシャを直ぐに立つように一喝する。コニーもアニに助けてもらった礼を言うと、アニは少し乱れた髪を直しながら何時もと変わらずぶっきらぼうに返す。そんなアニに、心配したライナーとベルトルトが傍に駆け寄っていた。
フロックとハルは皆が無事だったことにほっと胸を撫で下ろしながら、仲間達の元へと駆け寄った。
「みんなっ…!」
「無事で良かったぜ…っ!」
「「!?」」
ハルとフロックの声と足音に、ミカサ達はハッとして二人の方へと顔を向けるや否や、安堵した様子で駆け寄る。
ただ、ハルの方を向いて立ち尽くしているジャンと、その様子を心配気に見つめるマルコだけは別だった。
「フロック!ハル!無事だったんですね!!本当に…本当に良かったですぅっ!」
「ったく、心配かけんじゃねぇよ!お前らが本部に居ねえって知った時、どれだけ肝が冷えたか…っ」
「本当に。…無事で良かった」
「怪我は無い?取り敢えず二人とも、少し体を休めたほうが……ジャン?」
サシャが涙目になりながらハルに抱きついてそう言うのに、コニーは腰に手を当てながら深々と安堵のため息を吐き出す。
ミカサとアルミンは二人に外傷が見られないか確認していると、早足にこちらに歩み寄ってくる足音に、アルミンは後ろを振り返った。
ジャンは顔を俯けたまま、拳をきつく握り締めた状態でサシャ達の間に割り入ると、ハルの前に立った。
「ジャン…っ!?」
バシ!!
「…っ!」
ハルは顔を俯けたままのジャンに、どうしたのかと問いかけようとして、左頬に走った衝撃にその言葉を飲み込んだ。
ジャンはハルの頬を平手で叩いた手を握り締めると、胸を突き上げてくる激しい感情を抑えられず、悲痛に逼迫した声で叫んだ。
「っお前は…いくら俺たちに心配かけりゃあ気が済むんだよっ…!」
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