第十六話
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俺は5年前の『あの日』、沢山の人がウォール・マリアの領域へと続く外門から雪崩れ混んできて、トロスト区の町が人で溢れ返っている様子を、自室の二階の窓越しに、まるで肉食獣から身を隠す小動物の様に、じっと息を潜めて見下ろしていた。
元々トロスト区は建物が多く所狭しと家々が建ち並んでいるため、歩道は細く普段でも窮屈に感じる。其処に避難民が溢れているので、最早野良猫が歩ける隙間も無くなっていた。彼らは皆、トロスト区の内門を潜った傍に急遽設置された避難場所を目指していた。
ウォール・マリアが巨人に襲撃され、命からがら逃げてきた人々の表情は、遠目でも酷く青ざめ疲弊し、目の下に絶望の影が落ちているのが分かった。
その中には自分と同じくらいの歳の子供の姿も大勢見受けられたが、彼等の目に涙は無い。…それは既に、全て流し尽くし枯れ果てて、在るのは涙痕だけだった。
母はそんな人々に家の玄関前で飲み水を分け与えていたが、そうしているうちに人が我も我もと押し寄せてしまい、危険だからと父が母を家の中へと連れ戻した。その後もしばらくの間、扉を壊さんとする勢いで「水を恵んでくれ」と声を上げながら扉を叩く人々に、俺は自分の日常を根刮ぎ奪われるような恐怖感を抱いて、窓から離れベッドの中に蹲り、布団を頭から被って、両耳を塞いでいたのを今でも…ハッキリと、覚えている。
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