第十五話
名前変換設定
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ハルは未だうっすらと姿を見せている疎らな雲を携え、満月を浮かべている空を仰ぐと、すっと鼻から大きく息を吸い込んだ。
春を間近にした夜の空気は冷たく、肺を爪で引っ掻かれるようだったが、その空気に混じった訓練場の土の匂いは、嗅ぎ慣れた其れであるのに、何故だか今日は特別に思えてしまう。
この日を迎えるまでの道のりは、とても長かったような、短かったような…。どちらとも言えるようで言えない三年間が、もうすぐ終わろうとしていた。
訓練兵として最後に迎える解散式の夜、キース教官が訓練場に104期生全員を集め、憲兵団へ所属する権利を得られる上位10名を発表しようとしている。
入団した頃は300名以上居た104期生だったが、今では218名と、80名程減ってしまっている。その中にはただ訓練兵を脱退した者だけではなく、過酷な訓練中に命を落としてしまった者も含まれていた。
それだけ過酷な三年間、衣食住を共にし、死と隣り合わせの訓練を幾度も乗り越えてきた仲間達と、いつものように集まることが出来るのも明日までなのだと思うと、ハルは寂しさを感じずには居られなかった。
「これから成績優秀者、上位10名を発表する。呼ばれたものは前に出ろ!」
夜の澄み渡った空気を、キース教官は腕を後ろに組み、何時ものように地に足踏みするような抑揚のある声で震わせる。
ハルは冷えた肺から息を絞り出すように吐き出すと、空を見上げていた瞳をゆっくりと一度瞬いて、キース教官を見つめた。
「10番 クリスタ・レンズ」
「9番 サシャ・ブラウス」
「8番 コニー・スプリンガー」
「7番 マルコ・ボット」
「6番 ジャン・キルシュタイン」
「5番 エレン・イェーガー」
「4番 アニ・レオンハート」
「3番 ベルトルト・フーバー」
「2番 ライナー・ブラウン」
「そして主席は、今期は…二名だ」
キース教官の言葉に、今まで口を閉じていた同期達がザワつき始める。訓練兵団が設立されて以来、一度として首席が二名選ばれたことはなく、極めて異例の出来事だったからだ。
しかし、これから名前を呼ばれる二人が誰になるかということは、此処に居る104期の訓練兵は皆容易に予想が出来ていた。
彼等の視線は、二人の訓練兵へと集う。
「…ミカサ・アッカーマン、そしてハル・グランバルド」
名前を呼ばれ、ハルとミカサは足を踏み出し、ライナー達が並ぶ列へと進む。ハルがライナーの隣に肩を並べると、その隣にはミカサが並んだ。
キース教官は教え子達の顔を見渡すと、訓練場の地面を踏み締めるようにして歩き始める。
「以上十一名が、104期成績優秀者となる!…ただし、あくまでこれは訓練上の成績であり、実戦で能力を発揮できるかどうかは別の尺度で測るべきものだ。成績上位者に入らなかった者も、よく考えておけ!自分に何ができるのか、何を為せるのかをな。…後日、配属兵科を問う!これにて、第104期訓練兵団解散式を終える!…以上!」
もうキース教官の良く響く声も、見慣れた訓練場も、仲間達と過ごした食堂や寮にも、明日を迎えればきっと暫くは来ることもなくなるのだと思うと、やはり寂しさを拭うことは出来なくて…ハルは首席に選ばれたことよりも、此処から離れ、また多くの仲間達とも離れなければいけないことが名残惜しくてならず、短く息を吐き出して、夜空に浮かんだ黄金色に輝く満月を見上げた。
第十五話 解散式の夜
私達は明日所属兵科を問われ、2日後の朝には自分が望んだ場所で其々の象徴を背負い、晴れて兵士となるのだ。
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