第八話
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「おーい!ハル!」
「!…コニー?どうかしたの?」
もうすっかり日も落ちて暗くなった仮設の射撃場に、二本の松明だけを焚いてライフル銃を構えていたハルが声を掛けたコニーの方へと振り返る。
二本の松明だけが揺らめく炎の明かりは頼りなく、ハルの表情はよく見えなかったが、驚いているということは何となく雰囲気で感じ取ることができた。
コニーはモニカさんから受け取ったパンとスープを持ってハルの側へと足を運ぶと、額に汗を滲ませているハルの少々驚いた表情がはっきりと見えるようになった。
辺りには火薬の匂いが立ち込めていて、銃を撃つ時の頬付で左頬が擦れてしまったのか、赤くなってしまっているハルに、どれだけ多くの弾を撃ち続けていたのか言葉にされるよりもよく理解できてしまう。
そんなハルの頬を痛々しく思いながらも、コニーは夕食をハルへと差し出した。
「飯、持ってきたぜ?…モニカさんがちゃんと飯は食えってさ」
「すっかり夢中になってしまって…。モニカさんにお礼を…って、もう食堂閉まってるんだね?…ごめん、コニー。わざわざ持ってきてくれて、ありがとう」
ハルは食堂へと視線を向けたが、食堂の明かりが消えていることに今気がついた様子で、またやってしまったなと首の後ろを触り苦笑を浮かべながら、コニーに礼を言った。
ハルはライフルのスリングベルトを肩に掛けて、コニーから夕食を受け取ると、一番最初にスープを飲んでから、パンをもぐもぐと頬張り始める。
そんなハルの手は銃の衝撃であちこち鬱血し、水膨れも出来てしまっている。
コニーはそんなハルに対して、純粋に抱いてしまう疑問を口にした。
「お前さ…なんでそんなに、頑張んだよ」
「?」
ハルはもぐもぐとパンを頬張りながら、コニーへ視線を向けた。
「そんなに頑張る必要、ねぇだろって、俺はいつも思ってる。お前は体力もあるし、頭もいいし…どんな訓練でもミカサに付かず離れずだろ?…そのままだったらお前は絶対上位に入れる。…今回の射撃試験だって、こんな飯も食わずに自主練して臨む必要なんかないだろ?」
コニーの問いかけに、ハルは口にしていたパンをスープで流し込むと、空になったコップの中に視線を落としながら言った。
「…例え憲兵になったとしても、駐屯兵になったとしても…調査兵団に入団したとしても。…学んだ技術が現場で活かせる能力がなければ意味がない。今回の訓練は明るい場所でのものだったけれど、もっと遠い場所に標的があって、それに動くものが対象だったらもっと難しいし…今みたいに日が落ちた時に標的を狙わなきゃいけなくなったら、朝の訓練だけ
じゃ心許ないでしょう?」
ハルの言っていることは最もなことなのだろうが、自分とは観点が根本的に違うとも感じる。
自分にとって今受けている訓練は、兵士になるための足掛かりでしかないが、ハルにとっての訓練は、兵士になった後に力を発揮するための鍛錬なのだ。
「…お前って、俺も含めて此処にいる奴らとは見てる場所が違う感じがするよな?達観してるっていうか…現実主義者っていうか。そういうとこ、ジャンに少し似てるよな?」
「…そうかな?」
コニーはいくもの癖で両腕を頭の後ろに組んで、そうハルに言うと、ハルは小首を傾げて見せる。あまり本人には自覚はないようだ。
「まあ、ジャンの場合はそこに真面目さは無ぇけど、ハルの場合は馬鹿真面目が加わっちまってるから結構重症かもな?」
「重症って…容赦ないなぁ…」
少しハルを揶揄うようにしてそう言うと、ハルは苦笑を浮かべて肩を落とすが、話を本題に戻すようにコニーへと視線を向け、軽く胸の前で腕を組んだ。
「…で、コニーは、此処に何をしにきたの?」
「は?」
「あ、いや。…気に掛けて夜食を運んできてくれたのはとても嬉しいけれど…、コニーが此処に来た目的は、其処じゃあないよね?」
松明の炎が赤く揺れれば、ハルの黒い澄んだ瞳も波打つように輝く。その瞳は既にコニーが此処に来た理由を理解しているようだったが、そんなハルに対して意地が悪いとは不思議と感じなかった。
「あ、ああ。まぁな…」
しかし、此処に何をしに来たのか、実際に口にしようとすると妙に照れ臭くなって尻込みしてしまう。
それでもここでまた自分を誤魔化してしまえば、また胸に抱えているモヤモヤが増えるばかりで、何の解決にもならないだろう。
自分は小柄だと自覚しているが、そういった心の器まで小さい奴だとは絶対に思われたくない。
「教えて…くんねぇか」
コニーは、胸に抱えたモヤを振り払うように声を絞り出した。
「っ教えて欲しいんだ!俺、練習してもお前みてぇに射撃が上手くならねぇだろうけどさっ…、自分が出来ないことから逃げてるようじゃ、強くなれねぇって思うし…っ何より自分が情けねぇって思っちまって…!…上位に入って憲兵になるためっていうよりも、苦手なことから逃げ出したくねぇし、それに…正直サシャに負けたくねぇって気持ちもあるしよ…。お前が折角教官に頼み込んで作ってもらった大事な時間…奪っちまうことになるけど…頼むっ…力を貸してくれ!」
コニーはハルに向かって、深く頭を下げて懇願する。固く握り締められているコニーの両拳から、彼の気持ちの強さが伝わってきて、ハルは特に悩む時間も持たず、すんなりと首を縦に振った。
「うん。構わないよ?」
「っ本当か!?」
「私で良ければ、力になる」
ハルはそう言って、にっと歯並びの良い白い歯を見せて笑う。そうして颯爽と近くに置いてあった未使用の松明を拾うと、コニーに自分のライフルを手渡す。
「じゃあ、まずは明かりを増やすから、コニーはライフルに銃弾を込めておいてよ」
「あ、ああ!」
拍子抜けしてしまうほどすんなりと頼み事を受けてくれたハルから、コニーはライフルを受け取る。そうして何やら楽しげに射撃場の準備をせかせかと始めたハルに、なんだか尻込みしていた自分が馬鹿馬鹿しくも思えてしまったが、コニーのために松明に火をつけ、明かりを増やしてくれている彼女の姿を見ていると、絶対に明日の試験ではサシャに勝って上位に入らなければいけないなと、コニーは心を決め、ぎゅっとライフルを握る手に力を込めたのだった。
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「!…コニー?どうかしたの?」
もうすっかり日も落ちて暗くなった仮設の射撃場に、二本の松明だけを焚いてライフル銃を構えていたハルが声を掛けたコニーの方へと振り返る。
二本の松明だけが揺らめく炎の明かりは頼りなく、ハルの表情はよく見えなかったが、驚いているということは何となく雰囲気で感じ取ることができた。
コニーはモニカさんから受け取ったパンとスープを持ってハルの側へと足を運ぶと、額に汗を滲ませているハルの少々驚いた表情がはっきりと見えるようになった。
辺りには火薬の匂いが立ち込めていて、銃を撃つ時の頬付で左頬が擦れてしまったのか、赤くなってしまっているハルに、どれだけ多くの弾を撃ち続けていたのか言葉にされるよりもよく理解できてしまう。
そんなハルの頬を痛々しく思いながらも、コニーは夕食をハルへと差し出した。
「飯、持ってきたぜ?…モニカさんがちゃんと飯は食えってさ」
「すっかり夢中になってしまって…。モニカさんにお礼を…って、もう食堂閉まってるんだね?…ごめん、コニー。わざわざ持ってきてくれて、ありがとう」
ハルは食堂へと視線を向けたが、食堂の明かりが消えていることに今気がついた様子で、またやってしまったなと首の後ろを触り苦笑を浮かべながら、コニーに礼を言った。
ハルはライフルのスリングベルトを肩に掛けて、コニーから夕食を受け取ると、一番最初にスープを飲んでから、パンをもぐもぐと頬張り始める。
そんなハルの手は銃の衝撃であちこち鬱血し、水膨れも出来てしまっている。
コニーはそんなハルに対して、純粋に抱いてしまう疑問を口にした。
「お前さ…なんでそんなに、頑張んだよ」
「?」
ハルはもぐもぐとパンを頬張りながら、コニーへ視線を向けた。
「そんなに頑張る必要、ねぇだろって、俺はいつも思ってる。お前は体力もあるし、頭もいいし…どんな訓練でもミカサに付かず離れずだろ?…そのままだったらお前は絶対上位に入れる。…今回の射撃試験だって、こんな飯も食わずに自主練して臨む必要なんかないだろ?」
コニーの問いかけに、ハルは口にしていたパンをスープで流し込むと、空になったコップの中に視線を落としながら言った。
「…例え憲兵になったとしても、駐屯兵になったとしても…調査兵団に入団したとしても。…学んだ技術が現場で活かせる能力がなければ意味がない。今回の訓練は明るい場所でのものだったけれど、もっと遠い場所に標的があって、それに動くものが対象だったらもっと難しいし…今みたいに日が落ちた時に標的を狙わなきゃいけなくなったら、朝の訓練だけ
じゃ心許ないでしょう?」
ハルの言っていることは最もなことなのだろうが、自分とは観点が根本的に違うとも感じる。
自分にとって今受けている訓練は、兵士になるための足掛かりでしかないが、ハルにとっての訓練は、兵士になった後に力を発揮するための鍛錬なのだ。
「…お前って、俺も含めて此処にいる奴らとは見てる場所が違う感じがするよな?達観してるっていうか…現実主義者っていうか。そういうとこ、ジャンに少し似てるよな?」
「…そうかな?」
コニーはいくもの癖で両腕を頭の後ろに組んで、そうハルに言うと、ハルは小首を傾げて見せる。あまり本人には自覚はないようだ。
「まあ、ジャンの場合はそこに真面目さは無ぇけど、ハルの場合は馬鹿真面目が加わっちまってるから結構重症かもな?」
「重症って…容赦ないなぁ…」
少しハルを揶揄うようにしてそう言うと、ハルは苦笑を浮かべて肩を落とすが、話を本題に戻すようにコニーへと視線を向け、軽く胸の前で腕を組んだ。
「…で、コニーは、此処に何をしにきたの?」
「は?」
「あ、いや。…気に掛けて夜食を運んできてくれたのはとても嬉しいけれど…、コニーが此処に来た目的は、其処じゃあないよね?」
松明の炎が赤く揺れれば、ハルの黒い澄んだ瞳も波打つように輝く。その瞳は既にコニーが此処に来た理由を理解しているようだったが、そんなハルに対して意地が悪いとは不思議と感じなかった。
「あ、ああ。まぁな…」
しかし、此処に何をしに来たのか、実際に口にしようとすると妙に照れ臭くなって尻込みしてしまう。
それでもここでまた自分を誤魔化してしまえば、また胸に抱えているモヤモヤが増えるばかりで、何の解決にもならないだろう。
自分は小柄だと自覚しているが、そういった心の器まで小さい奴だとは絶対に思われたくない。
「教えて…くんねぇか」
コニーは、胸に抱えたモヤを振り払うように声を絞り出した。
「っ教えて欲しいんだ!俺、練習してもお前みてぇに射撃が上手くならねぇだろうけどさっ…、自分が出来ないことから逃げてるようじゃ、強くなれねぇって思うし…っ何より自分が情けねぇって思っちまって…!…上位に入って憲兵になるためっていうよりも、苦手なことから逃げ出したくねぇし、それに…正直サシャに負けたくねぇって気持ちもあるしよ…。お前が折角教官に頼み込んで作ってもらった大事な時間…奪っちまうことになるけど…頼むっ…力を貸してくれ!」
コニーはハルに向かって、深く頭を下げて懇願する。固く握り締められているコニーの両拳から、彼の気持ちの強さが伝わってきて、ハルは特に悩む時間も持たず、すんなりと首を縦に振った。
「うん。構わないよ?」
「っ本当か!?」
「私で良ければ、力になる」
ハルはそう言って、にっと歯並びの良い白い歯を見せて笑う。そうして颯爽と近くに置いてあった未使用の松明を拾うと、コニーに自分のライフルを手渡す。
「じゃあ、まずは明かりを増やすから、コニーはライフルに銃弾を込めておいてよ」
「あ、ああ!」
拍子抜けしてしまうほどすんなりと頼み事を受けてくれたハルから、コニーはライフルを受け取る。そうして何やら楽しげに射撃場の準備をせかせかと始めたハルに、なんだか尻込みしていた自分が馬鹿馬鹿しくも思えてしまったが、コニーのために松明に火をつけ、明かりを増やしてくれている彼女の姿を見ていると、絶対に明日の試験ではサシャに勝って上位に入らなければいけないなと、コニーは心を決め、ぎゅっとライフルを握る手に力を込めたのだった。
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