第七話
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「だーっはっはっは!!」
同期達が食堂で夕食を取っている中、あるテーブルの一角でユミルが盛大に腹を抱えて笑い出したのに、隣に座っていたクリスタが両耳を塞いで眉を釣り上げる。
「ちょっとユミル!!ご飯中に行儀が悪いよ!!」
クリスタが怒ってユミルを睨み上げて言うが、ユミルは気にする様子もなく笑いを堪えられない様子で話を続けるのを、同じテーブルに座っているサシャとハルはスープやパンを頬張りながら聞いていた。
「だってよ?見ただろ?適正検査の時のエレン…、あれは最高に面白かったよな?ぶっはは!」
「だから煩いってばー!」
ユミルは笑いの肴にしているエレン本人が、対角線上のテーブルでアルミンとミカサと昼食を取っているのにも関わらず大声で笑うのを、クリスタは先程より声を大にして怒るが、遠目から見てもエレンが明らかに落ち込んだ様子で肩を落としたのが窺えて、 ハルはそんな彼を気の毒に思いながらも、立体起動適正検査時のエレンの様子を思い出しながら、少々考え込むように顎に手を当てたのだった。
第6話 立体起動適性検査
「うーん…」
「っハル、何か考え事ですか?」
急に何やら考え込み始めたハルに、隣に座っていたサシャが口に含んでいたパンをごくりと飲み込んで、首を傾げる。そうすると、ハルは顎に手を当てたまま目蓋を緩く閉じて、適正検査時のことを思い出しながらゆっくりと話しを始めた。
「いやぁ…何かがおかしいなと思って。適正検査の時、エレンの体重の掛け方があんなにひっくり返るほどバランス悪いようにも見えなかったし。…ベルト、故障でもしてるんじゃないかなって」
そんなことを言い出したハルに、向かいに座っていたユミルが最後のスープ一口を飲み終えると、それはないだろうと言うように首を捻った。
「…各訓練兵のベルトのチェックぐらい教官がしてるだろ?故障でもしてりゃあすぐに気づく筈だ。…それとも、何かそんなふうに思う原因でも見つけたのかよ?」
「…目に見えるようなものじゃないんだけど。エレンの足が地面から離れる瞬間に、ベルトと金具の接合部から嫌な音がしたような気がしたんだ…」
ハルが閉じていた目蓋を持ち上げて、ユミルの方を見つめ返して言うと、ユミルは傾げていた首を今度は反対に傾げる。そうしてユミルの隣に座っていたクリスタもユミルと同じように首を傾げながら、きょとんと水色の瞳を丸くして言った・
「っそれって、気のせいじゃないかな?私は近くで見ていたけど…、そんな音は特に聞こえなかったよ…?」
クリスタはエレンのすぐ後に適正試験を受けることになっていたため、姿勢制御訓練装置にエレンがロープで宙に吊るされた瞬間、豪快にぐるりと宙返りして逆さ吊りになったのを間近で見ていた。ハルが言うようなおかしな音がしたなら自分も気づく筈だと口にしたが、それについてはサシャが何故か得意げな顔になってハイと手を挙げる。
「ハルは音に敏感なんですよ!私も山育ちで耳は良いですけど、ハルほど良くはありませんし」
そんなサシャの言葉に、少しだけ語弊があるとハルは首を振って訂正を入れた。
「いいや、私はサシャみたいに遠くの音を聞き取ることはできないんだ。…ただ、割と近い場所の物音は…昔から人よりもはっきりと聴こえるってだけで…」
「へぇ…じゃあこの間、食堂で放屁したのは間違いなくサシャだったのか?こいつは否定していたが…」
「ああ、それは…」
「ハルっ!!!やめてください言わなくて良いです!!いやぁぁあああ!!!」
ユミルがサシャのことを揶揄うようにしてハルに問いかけると、ハルは真面目に事の真相を話そうとするので、サシャが慌てて椅子を蹴飛ばして立ち上がりハルの胸倉に掴みかかる。
「あぐ!?」
明らかに取り乱している時点で事の真相は一目瞭然だったが、相変わらず我を失うと加減ができずハルを絞め落としそうになっているサシャを、クリスタが慌てて止めに入る。
「サシャ駄目だよ!!ハルが死にかけてるから!」
テーブル越しにサシャの肩を掴んだクリスタに、サシャがハッとしたように息を飲んで、「ごめんなさい!」と窒息死寸前のハルから離れる最中、ユミルはハルを心配する様子もなくあっけらかんとした調子で何かを思い出したように辺りを見回し始めた。
「…そういやぁアニの姿が見当たらないな?…お前ら一緒に飯食ったりしないのか?」
「あ、ああ…げほっ。アニはあんまり人が多いところは苦手だから、多分食堂の外で食べてるんじゃないかな?ご飯食べてる時は1人で居たいんだって…誘ったんだけど断られちゃってさ。でも本当は一緒に食べたいんだよねって聞いたらまた鳩尾にパンチくらっちゃって…」
ハルはサシャに首を絞められた名残りで咳込みながらも、アニに殴られたであろう鳩尾を摩って苦笑を浮かべるのに、ユミルは呆れと疑問を混ぜたような表情で肩を竦めて見せる。
「へぇ…何か、お前らの関係って面倒くさそうだな」
「そんなことはないよ」
仲が良いのか悪いのか、よく分からない関係性だと思いながらそう言ったユミルに対して、ハルは首を振って、先ほどの苦笑を微笑みに変えた。
「アニは私が今まで出会った誰よりも優しい子だよ。心の底から、信頼してるんだ」
「…それだけはっきり言ってもらえるアニが、ちょっと羨ましいですね」
サシャが少々嫉妬したような顔を浮かべ、頬を膨らませながらハルを見て言うのに、ハルは屈託のない笑みを浮かべたまま、子供をあやすようにポンポンとサシャの頭を軽く叩く。
「あははっ、でもサシャのことも信頼してるよ?…なんて言うか…裏表が、ないからさ」
それにサシャは少し照れたように頭の後ろを触りながら「えへへ」と笑うのを、クリスタとユミルはそれは褒め言葉なのか疑問に思いながら見ていたが、当本人は嬉しそうなので口には出さなかった。
「私もハルのこと、信頼してますよ!なにせハルは私の友達第一号ですからね!」
「うん。私にとっても、此処へ来て一番最初にできた友達が、サシャだからね」
「…じゃあ、私らはどうなんだよ?」
「ちょ、ユミルっ…」
ユミルは隣に座っているクリスタの肩を組んで、そうハルの顔を少し覗き込むようにして問いかける。
それにクリスタは手にしていたコップから水を溢しそうになって、むっとしてユミルを見上げるが、やはりユミルは気にしていない様子で、ニヤニヤと口元に悪戯な笑みを浮かべながらハルの方を見つめている。
「そうだね…」
ユミルの何となく試されているような視線を受けて、ハルは二人の顔を交互に見た後に、少しだけ真剣な眼差しになって答える。
「ユミルは…私を時々値踏みして観察をしてるようだし、クリスタはまだ本当のクリスタを見せてくれていないよね…」
「「!?」」
その言葉に、二人は虚を突かれたように目を丸くする。そんな二人の顔を見て、ハルは眼差しをいつものような人当たりのいいものに戻すと、首を傾げて見せた。
「でも、私は2人と話している時間が楽しいから、好きだよ?」
ユミルはハルの表情に、難敵に出会した時のように眉間に皺を寄せる。
「…お前って、中々聡い奴だな」
「…それに、ちょっとというか、かなり天然なんじゃ…」
そしてそんなユミルの隣に居たクリスタも、珍しくユミルと同じ表情を浮かべて小さく呟いた。
「え?二人とも今何か言った…?」
しかし、二人の呟きは夕食の終わりを告げる鐘が食堂に鳴り響いたのに掻き消されてしまい、良く聞き取れなかったハルが問い返してくるのを、ユミルとクリスタは顔を見合わせて、いいやと首を振って誤魔化す。
「なんでもねぇよ。…ほらっ、鐘も鳴ったことだし、さっさと寮に戻ろうぜ」
「そうだね。食器下げよっか」
クリスタとユミルがそう言ったのに、ハルは少々怪訝な顔をしたが、そそくさと席を立ち上がってトレイを下げ口に運ぶ二人に、ハルも同じくトレイを手にして席を立った。…が、そこでいつの間にか隣に居たサシャが居なくなっていることに気が付いて、辺りを見回す。
「あれ、サシャは何処に行ったんだろ…」
「ああ。あいつなら、ミカサにパン貰いに行ってるよ」
ユミルがそう言って、顎でサシャがいる方を指し示す。そちらへと視線を向ければ、サシャがパンを頬張っているミカサに掴みかかっているのが視界に飛び込んできた。
「ああ…本当だ…」
「ったく、相変わらずだな…」
ハルはユミルと一緒になってやれやれと首を振りながら、クリスタが「早くしなよー」と急かす声がする食堂の下げ口へと足を向けたのだった。
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