第六話
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「失礼しまーす!って…ミカサ?っそれにハル!?目が覚めてたんですね!!」
医務室に現れたのは、サシャとユミルとクリスタ、そしてアニの四人だった。
サシャは中に居たミカサとハルに視線を向けて驚いていたが、すぐにハルの傍へ駆け寄ってくると、ベッドの上のハルの両肩に優しく手を置いた。
「ハル!体調は大丈夫なんですか?コニー達からハルが医務室にいると聞いて…」
それにミカサが気まずそうに視線を落としたのに、ハルは「大丈夫」だと笑ってみせる。
「平気だよ。ミカサがさ、ずっと看病してくれていたんだ」
そう言ったハルに、ミカサがおずおずと顔を上げると、ニコニコと微笑んでいるハルと目が合って、気まずい心が和らぐが、先程まで体調が悪そうにしていたのに、すっかり平気なふりを装っているハルにミカサは心配げな視線をハルに向けた。それに、ハルは少し目を細めるような目配せをしてきたのに、ミカサは何とも言えない気持ちで口を継ぐんだ。
「そうなんですね…!ミカサ、ありがとうございます!」
「…私は当然のことを…してただけ」
そんなミカサに、サシャが感謝を述べながらミカサの両手を取った。それにミカサが首を振る中、後から入ってきたユミルがハルの顔色を伺うようにして言う。
「なんだ、コニー達からはお前が泡吹いてたって聞いたからもっと重傷なんだと思ったが…、だいぶ元気そうじゃないか?」
「え…泡吹いてたの?みんなの前で…?」
「吹いていた」
「うわあ…それ、恥ずかしいな…」
ハルはミカサにそれは本当なのかと問いかけて、悲しくもそうだと頷かれると、首を垂れて頭を抱えたのに、ユミルが面白そうにははっと声を上げて笑った。
「いやぁ~、見てみたかったなぁ?あんま見れないぜ?人が泡吹くとこなんかよっ」
「もう、ユミルやめなよ。…ほら、ハル。ご飯食べてないでしょ?食堂のおばさんに言って持ち出しさせてもらったんだ。ちょっと量も内緒で増やしてもらったから…食べて?お昼もユミルを捜してて食べてないんでしょ?」
そう言ってトレイに食堂で出た夜食を持って来てくれたクリスタに、ハルは明らかに目を輝かせる。
「うわあ…!ありがとう助かるよっ…もうお腹がペコペコで…」
ハルがそう言ってお腹に手を当てると、タイミング良くグゥとお腹が鳴って、クリスタがふふっと上品に笑う。
「お礼ならユミルに言って?ハルが医務室に居るって聞いて、ご飯持って行こうって言い出したのはユミルだから」
「え?」
それに、ハルが意外そうな顔をしてユミルを見上げると、ユミルは明らかに慌てた。
「いっ、いや違う!それは絶対に違うぞ!私はただクリスタがいつまでもお前にちゃんと昼のことを謝れって煩いからこれで相殺するために提案しただけで…!そ、それに、お前の見舞いに行く口実を欲しそうにしてたこいつに良いきっかけを作ってやっただけだ…!」
一気にそう言い切って、ユミルは傍にいたアニを指差す。それにアニはユミルと同様に、慌てた様子で首を左右に振る。
「わ、私は別に心配してないよ…!ハルが馬鹿をするのはいつものことだからっ…」
「はいはい。結局二人共ハルのことが心配だったっていうのはよく分かりましたよ」
慌てる二人にクリスタはそう言い放つと、「だから違うって!」と二人は声を揃えて否定する。
それが可笑しくて、ハルはくつくつと喉を鳴らして笑いながらクリスタ達に礼を言う。
「皆…ありがとう。見舞いにきてくれて本当に嬉しいよ」
「当たり前ですよ!だって私たちはハルの友達ですからね!」
「おい勝手に私もその枠に入れるな」
ユミルがサシャにそうツッコミを入れたが、そんな2人のやり取りをスルーして、クリスタがハルのベットに付属しているテーブルに夕食のトレイを置いて、スプーンをハルへ差し出す。
「ハル…どうかな?食べられそう?」
「うん。ありがとうクリスタ。頂きます…」
ハルはそれを受け取って、スープを口に運ぶ。
そして、二口目を口に運んだ後、突然何かを堪えるように顔を俯けてしまった。
それに皆が心配してハルの顔を覗き込むと、ぽたり、ぽたりとハルの掛け布団の上に涙が落ちた。
「お、おい…なんで泣いてんだよ!?」
「大丈夫ですか!?どこか痛むんですか?!」
「あんまり食欲がないなら無理して食べなくてもいいんだよ?」
ユミルとサシャ、そしてクリスタが慌てて声を掛ける中、ミカサとアニはじっとハルのことを見つめる。
それに、ハルはゴシゴシと目元を袖で拭いながら声を絞り出す。
「わ、かんない…なんか、すごく美味しくてっ」
ハルも自分で自分に驚いている様子でそう言うと、アニがはあと溜息を交え、腕を組みながら言った。
「それはあんたがサシャのせいで、昼食食べそびれたせいだね」
「わ、私のせいですか!?」
「「「「絶対そう」」」
ミカサとクリスタとユミルにそう口を揃えて言われて、サシャがひええと声を上げると、ハルはいいやと頭を振って、顔を上げた。
「いや…違うよ。た、多分だけど…。皆が私を心配してくれて、それで…此処に一緒にいてくれるのが嬉しいんだ」
「「「「!?」」」」
そう言って幸せそうに、それで少し照れくさそうにして微笑みを浮かべたハルに、各々は眩しいものでも見たかのように目を眇める。
「尊い…天使ぃいい」
サシャは何故かもらい泣きをしながらそんなことを言うのに、
「ハルったら…もう大袈裟なんだから」
「っち…仕方のねぇ奴だな」
クリスタは微笑みながらも少々頬が赤らんでいて、ユミルは仕方ないなと呆れたように肩を竦めた。
「…あんたって、本当に馬鹿だね…」
アニは相変わらずだと言うように呟いたが、少し顔色が良くなったハルにほっとしているようにも窺える。
しかしミカサは、ハルのことを静かに見つめていた。どうしても、弱っていた先程のハルの姿が頭から離れず心配だったからだ。
「…はい。ミカサ」
「え?」
そんなミカサに、ハルはトレイの上のパンを半分に割って、その一つを差し出した。
それにミカサは首を傾げる。
「ミカサ、ずっと看病しててくれたから、夕食食べてないでしょ?」
そう微笑みながら言われて、人の心配をするよりも自分の心配をするべきだとも思ったが、なんだか胸の奥が熱くなる。
「…本当にありがとう」
お礼を言ってくれたハルから、ミカサはパンを受け取り、そっとそれを口に運んだ。
いつも食べていた味のない硬いパンだ。
確かに同じものなのに、何故だかそれは柔らかくて、甘くて優しい味がした。
「…美味しい」
思わずそう溢すと、そうでしょと笑ったハルに、いつも自分に微笑み掛けてくれていた母親の姿が重なって、胸の奥が震えた。
完