第六話
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『ねぇ…起きて、起きてよおねーちゃん!』
『なーんだ!まだ寝てるのかよ?今日は一緒に釣りに行くって約束してただろー?』
喉が熱くなるほど懐かしい声が、暗闇の中で私の鼓膜を揺らす。
何も見えなくても、二人の少年の声が、どれだけ自分にとって大切で愛おしい存在なのか…分かってしまう。
そしてそれと同時に、自分はこれからとても残酷な夢を見ることになるのだということも…分かってしまった。
…だからこそ、二人が何度自分のことを呼ぼうとも、私は目を開けることができなかった。
本心では夢だと分かっていても二人の顔が見たくて、会いたくてしょうがなかった。いつまで寝てるんだって、怒って頬を膨らませている顔も、寝ぼけている私を見て可笑しそうにケラケラと無邪気に笑っている顔も…本当は見たくて堪らない。だけど…、
そうして二人の顔を見て、いつだって自分は、目が覚めた後に絶望するんだ。
『ねぇ、お姉ちゃん?なんで目を開けてくれないんだよ』
『早く起きてよ…起きて僕たちのこと…ちゃんと見てよ』
二人が、私の体に縋り付いて、悲しげに訴えてくる。自分に触れてくる二人の手の冷たさと、不安をいっぱいに孕んだ声に、私は二人を抱きしめたい衝動に駆られるが、今始まろうとしている夢を目の当たりにしてしまうのが怖くて…目蓋を持ち上げられずにいた。
そんな時だった。
二人が自分を呼ぶ声の他に、遠くからなにかの足音が、ゆっくりとこちらへ近づいてくるのが聞こえた。
そして、何も感じていなかった鼻腔に、突如として濃い血の匂いが張り付いてきて、私は震える喉で固唾を飲み、汗の滲んだ両掌を握りしめる。
これは…夢じゃない。
この足音も、この匂いも…よく覚えている。
例えを目を開けなくても、その光景は目蓋の裏に焼き付けられている。だから…この夢を見なくても、目が覚めたら思い出す。思い出してしまうんだ。
『お姉ちゃん!!助けてっ!!助けてよっ!!」
『いやだあああ!!お姉ちゃっ…うあぁあああああ!!』
目を開けなくたって、いつだって鮮明に思い出せる。
全身を人の鮮血で濡らした、四つん這いの巨人が、小さな弟二人を、まるで雑草でも引き抜くよう両手で掴み上げたその様は、やけにゆっくりと見えた。恐怖で悲鳴を上げながら、涙を流して必死に私に助けを求める弟の顔も、巨人が小さな二人を噛み砕いた音も、地面にぼたぼたと落ちる真っ赤なそれも、…ごろりと転がった…二人の首も。
誰のものとも分からない、地面に溜まった血の海に映った、無力で臆病な、この世で一番憎らしい…自分の顔も。
私は一生 忘れることなんて できないんだ。
第五話 『あの日』の傷痕
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