紙風船を空へ高く
かごめという女が持って来た玩具は、りんを上機嫌にさせている。
見た事も無い彩りの独楽。鮮やかで皮膚が裂けそうな程に切り揃えられた色紙(いろがみ)。
そして、今りんの手元で跳ねている紙風船―――。
ぽそっ。
「はいっ、邪見さまの負けーっ」
「うぬぅ~っ!ワシはお前より手が小さいんじゃ!!」
「落としたら負けだもん。もう一回やろ!邪見さまっ!」
「付き合っとられるか!大体こんな子どもの遊びはなぁ…!」
「いくよっ、せーのっ!
ひーぃ・ふーぅ・みーぃ…」
カシャリカシャリと手の上で跳ねる紙風船。
ぎゃあぎゃあと文句を垂れる下僕は気にも止めず、りんは楽しそうに数を数えている。
時折風に煽られて、りんの手から零れそうになる紙風船は、美しい紅の地に、舞い散る桜が描かれていた。
不揃いな拍子を奏でながら、宙を舞っている。
りんの手から打ち上げられる紅のそれを、大樹の根元に腰を下ろした殺生丸が、目の端でとらえた。
ぽそっ。
「はいっ、また邪見さまの負けっ!りんの勝ち!」
得意げな顔でりんは笑った。
打ち上げるのを止め、落ちて来た紙風船を、両手でふんわり受け止める。
いつもりんを言いくるめてばかりの邪見を、負かすことの出来る紙風船。
りんは嬉しくてたまらない。
「えーい!!終いじゃ!もうやっておれんわ!」
りんに負けた悔しさを滲ませつつ、邪見はそそくさとりんの元を離れてしまった。
「あーっ!邪見さまずるーい!負けたら今晩の薪拾いじゃぞって言ったの邪見さまだよーっ!」
「分かっとるわい!わしは阿吽と共に薪を集めて来るから、お前はそこで遊んでおれ!あ、殺生丸さまにご迷惑はかけるでないぞ!!」
「はーい!お願いねーっ、邪見さまーっ」
ぶつぶつと文句を垂れつつも、約束した手前破る訳にはいかない邪見は、渋々阿吽を連れて、森へと消えて行った。
その後ろ姿を、手を振って見送ったりんだが、やがて紅の紙風船に見入ったまま黙り込んでしまった。
殺生丸は目を閉じていたが、静かになったりんの気が、物哀しいものになった事に気付いた。
ゆっくりと目を開き、りんをとらえる。
一瞬、泣いているのかと思ったが、そうでは無いらしい。
じっと、手に持った紙風船を見つめ、立ち尽くしている。
さっきの今で、何がここまでりんを豹変させたのか、殺生丸には分からなかった。
「どうした」
低く落ち着いた響きで殺生丸はりんに問い掛ける。
物思いにふけっていたのだろう。
りんは、はっと殺生丸の声に身を正した。
ポトリ、と紙風船が草の上へと落下する。
「―――ううん。何でも無いよ、殺生丸さま。紙風船、どれだけ高くまで飛ばせるかなって思っただけ」
何でもない、という顔はしていない。
現に殺生丸と目を合わせる事無く、りんは答えた。
りんが何に嘆いているのか、不安を抱いているのか。殺生丸に思い当たる節はない。
それを慰める言葉も持ち合わせてはいない。
「―――試してみればよい」
りんは躊躇いがちに殺生丸を見た。
「うん」
りんに似つかわしくない作り笑いに殺生丸は眉根を寄せる。
りんは返事をした後、落とした紙風船を大事そうに掬い上げ、再び手の上に乗せた。
カシャリ カシャリ
一回、二回と手の上で助走をつける。
そして三回目に、ポン!と中の空気が打ち出される音を立て、紙風船を空へと押し上げた。
りんの頭上高く舞う紅の紙風船は、空の青さに映え、美しかった。
天を仰ぎ、眩しさに顔をしかめる。
手のひらに戻って来た紙風船を、また数回打った後、腕を大きく上げて、空へと送り出す。
りんは無心にそれを繰り返した。
―紙風船を 空へ高く―
どのくらい高く―――なんてもう分からない。
紙風船は、りんの手の届かない高さまで舞い上がって行く。
真っ青な空に、一点の紅。
不意に、一筋の風が吹いた。
夏の終わりを告げる秋の香り。
乾いた土と、土の湿気を奪った湿った大気の香りが混ざり合って、殺生丸にも届いた。
「あ…」
風に煽られ、りんの手を遠く離れていた紙風船が、ふわりと飛び去る。
りんの視界に紅色(べにいろ)が舞い、数歩先の草の上へとゆらりと落ちた。
「いやぁあああぁっ!!」
見た事も無い彩りの独楽。鮮やかで皮膚が裂けそうな程に切り揃えられた色紙(いろがみ)。
そして、今りんの手元で跳ねている紙風船―――。
ぽそっ。
「はいっ、邪見さまの負けーっ」
「うぬぅ~っ!ワシはお前より手が小さいんじゃ!!」
「落としたら負けだもん。もう一回やろ!邪見さまっ!」
「付き合っとられるか!大体こんな子どもの遊びはなぁ…!」
「いくよっ、せーのっ!
ひーぃ・ふーぅ・みーぃ…」
カシャリカシャリと手の上で跳ねる紙風船。
ぎゃあぎゃあと文句を垂れる下僕は気にも止めず、りんは楽しそうに数を数えている。
時折風に煽られて、りんの手から零れそうになる紙風船は、美しい紅の地に、舞い散る桜が描かれていた。
不揃いな拍子を奏でながら、宙を舞っている。
りんの手から打ち上げられる紅のそれを、大樹の根元に腰を下ろした殺生丸が、目の端でとらえた。
ぽそっ。
「はいっ、また邪見さまの負けっ!りんの勝ち!」
得意げな顔でりんは笑った。
打ち上げるのを止め、落ちて来た紙風船を、両手でふんわり受け止める。
いつもりんを言いくるめてばかりの邪見を、負かすことの出来る紙風船。
りんは嬉しくてたまらない。
「えーい!!終いじゃ!もうやっておれんわ!」
りんに負けた悔しさを滲ませつつ、邪見はそそくさとりんの元を離れてしまった。
「あーっ!邪見さまずるーい!負けたら今晩の薪拾いじゃぞって言ったの邪見さまだよーっ!」
「分かっとるわい!わしは阿吽と共に薪を集めて来るから、お前はそこで遊んでおれ!あ、殺生丸さまにご迷惑はかけるでないぞ!!」
「はーい!お願いねーっ、邪見さまーっ」
ぶつぶつと文句を垂れつつも、約束した手前破る訳にはいかない邪見は、渋々阿吽を連れて、森へと消えて行った。
その後ろ姿を、手を振って見送ったりんだが、やがて紅の紙風船に見入ったまま黙り込んでしまった。
殺生丸は目を閉じていたが、静かになったりんの気が、物哀しいものになった事に気付いた。
ゆっくりと目を開き、りんをとらえる。
一瞬、泣いているのかと思ったが、そうでは無いらしい。
じっと、手に持った紙風船を見つめ、立ち尽くしている。
さっきの今で、何がここまでりんを豹変させたのか、殺生丸には分からなかった。
「どうした」
低く落ち着いた響きで殺生丸はりんに問い掛ける。
物思いにふけっていたのだろう。
りんは、はっと殺生丸の声に身を正した。
ポトリ、と紙風船が草の上へと落下する。
「―――ううん。何でも無いよ、殺生丸さま。紙風船、どれだけ高くまで飛ばせるかなって思っただけ」
何でもない、という顔はしていない。
現に殺生丸と目を合わせる事無く、りんは答えた。
りんが何に嘆いているのか、不安を抱いているのか。殺生丸に思い当たる節はない。
それを慰める言葉も持ち合わせてはいない。
「―――試してみればよい」
りんは躊躇いがちに殺生丸を見た。
「うん」
りんに似つかわしくない作り笑いに殺生丸は眉根を寄せる。
りんは返事をした後、落とした紙風船を大事そうに掬い上げ、再び手の上に乗せた。
カシャリ カシャリ
一回、二回と手の上で助走をつける。
そして三回目に、ポン!と中の空気が打ち出される音を立て、紙風船を空へと押し上げた。
りんの頭上高く舞う紅の紙風船は、空の青さに映え、美しかった。
天を仰ぎ、眩しさに顔をしかめる。
手のひらに戻って来た紙風船を、また数回打った後、腕を大きく上げて、空へと送り出す。
りんは無心にそれを繰り返した。
―紙風船を 空へ高く―
どのくらい高く―――なんてもう分からない。
紙風船は、りんの手の届かない高さまで舞い上がって行く。
真っ青な空に、一点の紅。
不意に、一筋の風が吹いた。
夏の終わりを告げる秋の香り。
乾いた土と、土の湿気を奪った湿った大気の香りが混ざり合って、殺生丸にも届いた。
「あ…」
風に煽られ、りんの手を遠く離れていた紙風船が、ふわりと飛び去る。
りんの視界に紅色(べにいろ)が舞い、数歩先の草の上へとゆらりと落ちた。
「いやぁあああぁっ!!」
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