りんがいた村の人間達の幾人もが、殺生丸が森へと落ちて行く光を見ていた。

そうだ、りんだけでは無かった筈。

光を怪しんだ者も当然いたはずだ。

なのに何故りんだけが私の元へ来た?

恐れもせず、まるで導かれたかのように。


…そうか。


ここまで考えて殺生丸は自嘲する。


りんの行動以前に、何故私はあの地に降りた…。

いくら手酷くやられていたとはいえ、近くに人間などいない、もっと、他人を疎ましがる己に最適な地まで飛べる力があったはず。

それを何故、いくら少数とはいえ、人間が暮らす地付近の森などへ、ふらりと降り立ったのか。


りんが己の光に導かれた。
否、導かれたのは己だ。

殺生丸はあの時、意識もしなかった事を、今になって思い返す。


確かに感じたのだ。

己をその場へ留める、微かな誘い。

傷の癒しとなる、と本能が告げた、得も言われぬ優しい香りを。


今、己の腕の中にある香りと酷似した甘美な香り。


りんが私を呼んだ。そして…

私はりんを求めていた。


それはまるで懸命に淡い光りを放ち、生涯只一人の伴侶を求める為に舞う蛍のように…。


二人は出会ったのだ。
偶然では無く、ひたすらに相手を探し求めて。

りんは家族を失い、小さな身体で、必死に悲しみを受け止めている時に。

殺生丸は何百年も、一人彷徨い歩いた果てに。


殺生丸は見つけたのだ。己を誘う甘やかな光りを。己を必要とする小さな身を。

りんも見つけた。自分が一生をかけるべき存在を。愛しくて仕方の無いこの妖を…。


「そうだな…」


りんは一瞬、あまりにも遅い回答に、殺生丸が何を言ったのか分からなかった。

殺生丸が自分の言葉に、あれこれと思案しているとは、思ってもみなかったのだ。


「…ほんとう?本当にりんも、光ってた?」


今度は殺生丸は何も言わない。

無言は肯定。

りんは、ぱぁぁっと顔を綻ばせる。


「じゃあ、殺生丸様はちゃんと見つけてくれたんだね、りんのこと」


りんの身体から徐々に力が抜けて行く。
殺生丸の身体にりんが沈んでいった。

それを確かな存在が受け止めてくれる。
喜びと甘え、そして優しい香りが、殺生丸を満たしていった。


殺生丸は何も言わない。
まるで蛍のように。

りんは微笑んだ。
まるで蛍の光のように。


二人の周りでは、ただただ数匹の蛍が舞っている。
出会いは求めあった結果。それは蛍の光の如く。





(終)
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