抱き合って、キスをして、互いの気持ちを確かめあって、その先へ・・・。望んでたはずだった。ローレンツさんとなら全然平気。怖くない、って。

なのに・・・。

咄嗟に浮かんだ光景に固まる。暗い部屋。ベッドと灯りしかない小さな部屋の隅で蹲って怯える小さな少女。あれは・・・？
「・・・ゃ・・・」

嫌だ！
嫌だ！！

「やめてぇ！」
「・・・」
「・・・」
「エリカさん？」
瞬きを数回。私は焦ったように息を吸う。呼吸を整えたいのに、まるで酸素が通らない。早すぎる鼓動も怖い。なんでだろう。本当に望んでたはずなのに。
ローレンツさんのお部屋でのデートを何回か重ねて、ようやくぎこちないながらもスキンシップも増えて、初めてのお泊り。カップルがお泊りしたらすることだって、ちょっとは期待している自分がいたはずなのに・・・。
「あ、あの、あの・・・」
「・・・怖い、ですか？」
傷ついたみたいな、不安そうなローレンツさんから目を逸らしたくて、私はギュッと目を瞑る。嫌われたくない。嫌ってるなんて思われたくない。でも・・・。
「じ、女性は怖いって言いますからね、その・・・初めて、って・・・」
「・・・」
困ったように言ってローレンツさんはむりやり笑う。
「だ、大丈夫です。俺は、その、隣にいてくれるだけで」
「でも・・・」
そんなの、きっと嘘。だって、男の人は・・・。

オトコノヒトハ‘ソレ’ガメアテダカラ
‘ソレ’ガシタクテイタイコトスルノ
オンナノコヲタタイテ、ムリヤリオシタオシテ、ムリヤリスルノ
‘ココ’ニイルオンナノコハソレニシタガワナクチャイケナイ
‘ココ’ハソノタメノバショ

「・・・な、に・・・？」
頭をまわる言葉は分からないけど、怖いなにかを思い出しそうで、自然に体が震えた。
「・・・ローレンツさん・・・」
私、私じゃない・・・。
「私、なんだか分からないものが乗り移ってるんです！」
おばけ？
「おばけが、私に・・・」
「エリカさん・・・」
困ったように私を呼ぶローレンツさんは私の頬に手を当てて、視線を合わせる。
「・・・俺の話、笑わないで聞いてくれますか？」
「え？」
真剣な表情で語りだしたローレンツさんの言葉に、私はさっきまでのパニックを忘れて、ただ呆然と固まっていた。




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