飴玉をもらう。ただそんなことで泣いている見ず知らずの男。きっと、今の俺は不審者だ。そう思ってあわててこらえた涙が、意思に反してテーブルに落ちた。俺はいたたまれなくなって、図書館を飛び出す。
「待ってください！」
俺を追いかける可憐な声にあわてて振り向いて、そして俺は顔を伏せた。どう言い訳をすれば良いんだろう。今のエリカさんはエリカさんじゃないのに。
「あの、わ、私、なにか気に障ることをしたんでしょうか・・・？」
恐る恐る尋ねてきた少女に首を振って、俺は作り笑いを浮かべる。
「お、俺こそすみません。俺、この街に最近引っ越してきて、知り合いもいなくて、その・・・」
下手な言い訳を考えていると、少女はぽかんとして、そして顔を伏せた。くすくすと漏れる音は・・・笑い声？
「わかりました！お友達がいなくて寂しかったんですね！」
「あ、いや、えっと・・・」
「分かります！私もあんまりお友達多くないから」
「え？」
少女は気さくで、人懐こくて友達が少ない、なんて想像もできない。
「私、街のはずれのお屋敷で働いているんです。進学したかったけど、兄弟が多くて、兄弟に勉強させてあげたくて。だから、同じ年頃のお友達が少ないんです。お屋敷で一緒に働くみんなとは一緒にお休みとれないし」
「一人って、つまらないですよね」
そう言って笑う少女は「そうだ！」と目を輝かせた。
「私とお友達になってください！」
「え？」
「私、エリカって言います！知ってますか？貴銃士を束ねて戦った、マスターエリカ。その人から名前をもらったらしいんです！」
「知ってるもなにも・・・」
その人は俺の最愛の人だ。
俺の呟きに少女が首を傾げるから、俺はあわてて取り繕った。
「お、俺は貴銃士の伝説の研究をしにきた学生で・・・」
「学生さん？あの、大きな大学の？」
「は、はい。それで、あの、名前がローレンツって言います」
「ローレンツ・・・」
その名前を小さく呟いて、エリカさんは目を輝かせた。
「すごいです！素敵です！知ってますか？マスターエリカはローレンツライフルの貴銃士とのラブロマンスがあるんです！」
・・・知ってる。各地に残る貴銃士伝説。そのなかには貴銃士との恋物語も沢山残っている。そして、ローレンツライフルの貴銃士、俺とマスターエリカさんの恋は俺の記憶に確かに残る「真実」だ。
俺は曖昧に笑って「知ってますよ」と笑った。
「そういう伝説を俺は研究しているんです」
エリカさんの記憶にあの頃のものはない。けれど、出会えただけでも幸せだと思うべきなんだろう。そう考えて、俺は笑った。


→