キョロキョロと辺りを見回して空席を探す。なんとか二人ぶんの空席を見つけて、俺は歩きだした。昼時の学食はこみあってて、俺は少しだけ後悔する。時間、ずらせば良かったかなぁ。
エリカさんは高校を出て、今のお屋敷で働きはじめた。大学に対する憧れが強くて、俺が大学の話をすると瞳を輝かせるから、なにげなく「学食に行ってみませんか？」って誘ったんだ。
「が、学食なら、一般の方も入れますから」
そう誘った俺に瞳を輝かせて、そして、今日にいたる。
「いろんな人がいるんですね！」
そう言って辺りを見回すエリカさんはなにかかわいらしい小動物みたいだ。
「俺、水もらってきますね」
そう言って立ち上がる。エリカさん一人にして大丈夫だったかな？変な人に声をかけられてないかな？って急に不安になって、そんな自分に少しおかしくなった。それより、まずはちゃんと水をこぼさないように運ばなきゃ。
両手に持った水をこぼさないように、って気をつけて歩いた俺は最後の最後に水をこぼしそうになって、あわてて体勢を整えた。
「ローレンツ！」
ああ・・・なんでこうなるんだろう。
「なんで君はそうそそっかしいんだ！エリカに水がかかったら大変じゃないか！」
「な、な、なんでシャスポーさんが・・・」
さっきまでいなかったのに・・・。そう思っていると、「僕がいたらいけないっていうのか！？」と睨まれて、俺はうなだれる。
・・・いけない、なんて、言えないよなぁ・・・。
「それより、ローレンツ！なんでエリカを学食に誘ったって僕に言わないんだ！？」
「ええっ！？」
だ、だって、二人でデート、したかったから、なんて言えない・・・。
アワアワする俺をしり目に、可愛らしい笑い声が聞こえた。
「エリカさん・・・」
エリカさんは「ごめんなさい」と言いながらクスクス笑う。
「なんでしょう、なんだかとてもおかしくて。こないだ図書館でも同じように話してらしたからか、なんだかすごく懐かしくて」
「懐かしい・・・」
それは、あの頃の記憶がエリカさんの記憶の奥深くに眠っているから、なのかはわからない。でも、なんとなくそうなんじゃないかな、って思った。
「そうだ！この間は本をとってくださってありがとうございました！」
シャスポーさんににこりと笑うエリカさんが可愛い。ひょっとしたら俺に向ける笑顔なんかより全然可愛いんじゃないかな？なんて考えて、胸がモヤモヤする。いくらエリカさんの記憶の奥深くにあの頃の記憶があったとしても、今のエリカさんはそれを自覚はしていない。ということは、エリカさんは全然別の誰かを好きになるかも知れなくて、俺は不意に不安になる。誰にもとられたくない、なんておこがましいよなぁ。
そんなことを考える俺なんか知らずにシャスポーさんと談笑するエリカさんを見つめて、俺はため息をついた。


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