穏やかな時間。気に入りの音楽。コーヒーと紅茶の香り。ゆったりとした時間を楽しむ人々を眺めながらできる、この仕事は私の天職なのだろう。ドアベルが鳴る。「いらっしゃい」と声をかければ、小さな彼女が少し怯えた様子で立っていた。
「おや。また来てくれたんだね」
「あ、あの、こんにちは！」
緊張した表情で挨拶をして、エリカ君は空いているテーブルを探す。生憎と午後のティータイムでさすがの私の店もテーブルは満席だ。
「カウンターでも良いかな？」
「は、はい！」
そう言って、エリカ君はカウンターに座る。小柄な彼女は少しだけ座りにくそうで、失礼だけどもそれが可愛らしかった。
「今日は素敵なボーイフレンドは一緒じゃないのかい？」
私の言葉にエリカ君は真っ赤になって「ち、違います！」と首を振る。
「ローレンツさんはお友達で・・・」
「そうなのかい？この間来てくれたときにあまりにお似合いだったから、ついおじさんは勘違いしていたよ」
そう言えば、エリカ君はもじもじと視線をさ迷わせた。
「紅茶で良かったかな？」と尋ねる私にエリカ君は「はい」と答えて、そしてなにか閃いたみたいに慌てて首を振る。
「や、やっぱり、コーヒーをいただいても良いですか？」
エリカ君は紅茶のほうが好きだった気がするけれども・・・と考えて、私はその意図に気づいて笑みをこぼす。
「生クリームもつけようか？」
ローレンツの好きなウインナーコーヒー。それをエリカ君は試してみたくなったんだろう。こくこくと頷くエリカ君に笑みを返して、私はコーヒーを淹れる。苦味の少ないブレンドに甘めの生クリーム。
「砂糖も少し加えると良いよ」
そう言って差し出したコーヒーをエリカ君はやけどしないようにゆっくりと啜る。
エリカ君とローレンツが二人で現れたあの日、私は心から嬉しかった。あの日銃に戻ったローレンツがエリカ君とまた会話をし、笑いあっている。なんと幸福な光景だろう。胸が温かくなる思いを噛み締めていた、そのときだった。
「あー！」
元気な可愛らしい声。驚くエリカ君に駆け寄って、グレートルが今にも抱きつかん勢いで声をかける。
「いらっしゃーい！」
あまりに元気な声を嗜めたところで、この子が聞かないのがわかっているのか、テーブルのあちらこちらから笑い声が漏れる。ああ、なんと幸福なひとときだろう。まるで、あの日が戻ってきたみたいだ。
「おじさん？」
思わず涙ぐむ私を見上げるグレートルは首を傾げるから、私は「なんでもないよ」と微笑む。
ああ、願わくばこの幸福がいつまでも続きますように・・・。


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