ハグしたいですか？
当たり前だ。
俺だってエリカさんに触れたいし、抱きしめたい。でも、あの日のエリカさんが頭をよぎる。俺に怯えたエリカさんの瞳。あの出来事は俺のなかでもトラウマになってるみたいだ。
無理やり知らない男の人に貞操を奪われた。きっと俺なんかには想像できないくらい怖かったに違いない。だから、俺はエリカさんを守るって決めたんだ。守るし、傷つけない。ずっと隣で笑っていてもらうために。

・・・なんて、多分言い訳だ。
エリカさんに嫌われるのが怖い。今だって、眠るエリカさんにキスしたい願望はあるのに、気づかれたら怖いから黙ってその寝顔を見つめている。怪我をしたエカチェリーナさんの手当てをしたら体力を使い果たしてしまったエリカさん。「アレクがいたら良かったのですけど、あるばいとに行っているので困っていたのですー。なぽれおんに助けを求めるのはしゃくですし」と言うエカチェリーナさんは俺の姿を見つけて、エリカさんをベッドに運んで欲しいと頼んできた。
「本当はぼくがそいねをしてさしあげたいのですが、目が覚めたときにあなたがいた方が良いでしょうから、今日はゆずってあげますー。ますたーをベッドに運んでくれたお礼ですよ」
と笑って去ってしまったエカチェリーナさんは俺たちをどんな風に思っているんだろうか。
恋人？
確かに、互いに「好きだ」って気持ちは伝えたけど、俺とエリカさんは恋人と呼ぶにはなんだか曖昧で、不安になってしまう。
白い頬。柔らかそうな唇。触れてみたくて、手を伸ばした。戸惑いながら、そっと撫でてみる。柔らかで、温かな感触。これをもっと近くで感じられたら、どんなに幸せなんだろう。小さな鼻も、耳も、髪も全てが愛しいのに・・・。
「って、え？」
不意にエリカさんの顔が動いて、俺の手にすり寄るような仕草をするから、俺はあわてて手を止めた。エリカさんの瞼がゆっくりと開いて、俺を見る。