01_終わりの産声、始まりの血臭
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名前変換暁のヨナ夢小説・紫魂の黎明の夢主名変換です。
デフォルト名:フィンネル
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一晩で止んだ陰湿な雨から五日が経った。
この日、緋龍城では高華国唯一の姫ヨナの、十六の誕生祝いの宴が開かれる。
「だからハク、フィンネルをヨナの所まで案内しやがれです」
「……脈絡ないにも程がありませんかねフィンネルサマ」
宴の為に料理人、仕立て人、遠方からの来客、物資の運搬を担う商人。
城内まで頻繁に立ち入ることがないそれらの気配が忙しなく行き来を繰り返すうち到頭人気に酔ってしまったか、いつもはなんとなくわかる筈のヨナの気配が曖昧にしか掴めない。
加えなんとなく変な感じがして、見慣れた城が歩きづらくなっている。
ふらりふらりと宛てもなくさ迷っているうちになんという僥倖か、見慣れたハクの後頭部を発見したのだ。
「……朝から人気が多すぎるのが悪ぃです」
「おいこら、開き直ってんじゃねえよ。ただの迷子だろうが」
「うっ……」
強く言い返せねえのが辛い……。
普段なら難なくハクより先にヨナを見つけられる自信があるからこそ、今の状況は屈辱的。
「ま、俺もこれから姫さんとこに行くし、勝手に着いてくればいいんじゃないですか?」
「くっ……」
にやにやとしたその顔を今すぐ殴り潰してやりたいが如何せん背が足りない。
自然の摂理は斯くも不条理極まりないのか。
「しっかし、城内で迷子とはどういう風の吹き回しですか?……まさか、明日この国に天災が……!」
「吹き回してもねえですし天災も起きねえですよ。その真顔マジムカつきやがるです……」
「おーおー怖い怖い。まさに獅紫奮迅とはこのことですかー」
「その顔馬鹿にしかしてねえですよ!? ってかいちいちその名で呼ぶんじゃねえです面倒臭えです! それに下手な敬語もいちいちうぜぇです!!」
獅紫奮迅。
この国の何処を捜せどもハクとスウォン、ヨナ、イル陛下、そして名付けた亡きユホンしかしらない自分の二つ名。
イル陛下に商品から人間へ変えられた折、ちょっと荒事をしでかした自分に付けられた別称。
自分にとっては羞恥と黒歴史の塊つまりは蔑称に他ならぬというに……。
あれ以来荒事やそれに似通ったことはしたことがないのだから、いい加減忘れてほしい限りだ。
これを若気の至りと言うのだろうか。
……いや、自分はそれほど年をくってはいない。
「あなたはヨナ姫様の従兄弟だ。俺は身分を弁えてるだけですよ」
「そんなもんあってねえようなもんです。いい加減外さねえとヨナに告げ口するですよ? ハクはヨナのことをす……」
「おうおう外してやるよ。だからその口閉じようかフィンネル」
「んむぐぅっ……!」
長年連れ添ってきたからか、額に青筋と冷や汗を同時に浮かべると言う荒業をやってのけているハクが幼い頃よりヨナに想いを寄せていることを自分は察している。
ヨナは生まれ持っての鈍感故に未だ気付くことはなくスウォン一直線、そのもてもてなスウォンに至っては色事には全くの無縁且つ無関心無反応。
それの知識や経験がないにも関わらず幼馴染み組でハクの想いに気付けた自分は凄いと思う。
ヨナはハクを幼馴染み兼護衛としか認識していない。
だからこそハクからの毒舌や荒々しい扱いを受けてもヨナは騒ぎ立てしないし、ハクもそれが分かっているから素の姿を見せている。
この男はヨナとスウォンが結ばれることを望みながらも想いを捨てる気はないと言う。
それがハクにとって幸せなことなのかどうかは知らないが、ハク自身がそれを望むなら自分はそれはそれで良いのだと思う。
他者から見てそれがどれだけ悪かろうと善かろうと、他人の幸せは他人が勝手に決めていいものではない。
けれど思わずにはいられない。
大切を願いながら大切を想う心を抑えることは、きっと辛い。
いつまで自分に対して正直にならないのかも分からない。
見ていて内心落ち着けないのだ。
けれど頭を撫でてくるその慣れた手付きはどうにも自分を落ち着かすことに長けているらしく、もやもやとした思考は成りを潜めだすことはいつものこと。
丸め込まれているような気が拭えないが、これ以上思考することもだるいので適当に切り上げておこう。
「そんじゃ、そろそろ行くか。姫さんに伝えなきゃならんこともあるしな」
「先頭は頼むです」
「おう、お兄様に任せとけ」
「いつ誰が誰の兄になりやがったですか」
兄のようだと思ったことも兄様と呼んでしまったこともあるにはあるが、一体いつの話を持ち出しやがったんですか……。
これ以上黒歴史をぶちまけないでほしいところです。
そう言外に睨みを効かせるもどこ吹く風にまあいいと諦める。
ふざけるハクを連れたって、取り敢えずはヨナの元へ行かなければ。
然し、それよりも無駄に使いすぎた頭とさっきまでふらふらと歩き通した足が先程から不満をだらだらと訴えてくる。
正直、面倒臭い。
「…………」
「ん? どうした?」
先を少し進んだところで歩き出さない自分を振り返ったハク。
男に二言はないという格言を幼かった頃の自分に教えたのは、思い返せばハクだったような気がする。
……自分で言ったのだから、責任は持ってもらおう。
「お兄様、おんぶ」
見開かれた黒い瞳にやっちまったと後悔する色が加わり早々と諦めが浮かぶのを見て、自分は両手を差し出しにやりと笑んだ。
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