01_終わりの産声、始まりの血臭
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名前変換暁のヨナ夢小説・紫魂の黎明の夢主名変換です。
デフォルト名:フィンネル
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「っていう感じなんだけど、フィンネル! 何か良い案ないかしら!」
夜、月も雲隠れするような刻限に呼び出されたかと思えば、目の前には悩める乙女の姿。
自分はいつの間に王族の相談係に任命されていたのか。
要はスウォンに気にされたいというヨナの恋心をどうすべきかの相談。
自分は策士でも博士でもないし、ましてや他人の精神の操り方など知らない。
色恋沙汰というものを経験したこともなければそれらしきものを検知したこともないしそう認識したこともない。
よって相手を射落とす惚れさせる誑かすは絶対に出来ないし仕方もわからないし恋心というものも未だ理解できていない。
ちなみに試みる予定は皆無である。
「それ、訊く相手間違えてねえですか?」
「フィンネルだから訊くんじゃない!」
「……ますます意味が分からねぇです」
「もうっ、分かってないわね!」
「さっきから分からないと言ってるです」
やれやれ、といった風に溜息を吐くヨナ。
やれやれ、さっぱり意味が分からない。
「フィンネルは色んな土地を歩いてまわってるんでしょ?」
「イル陛下の許した土地だけです」
「だから色んなこと知ってる筈!」
「そんなこともなければ色恋すらも見聞してねぇです」
「城内の男の人から声かけられてるわ!」
「女人からもかけられてるです」
「贈り物も貰ってる!」
「菓子以外は横流しです」
「文だって!」
「文字読めねぇです」
「ぬぐぐぐ……」
「…………」
眉に皺を寄せ苦悩してるヨナに自分が苦悩させられる。
何故色恋の相談役に態々自分を選んだのか全く分からない。
そういうことに疎い自分よりもそこいらの女官に訊いた方が実りがあるだろうし、男の好みならハクに訊いた方が。
……スウォンと真逆なハクに訊いては大失敗しそうで駄目だ。
――自分は幼少から何故か一所に留まれない性分をしていた
何に惹きつけられているのか、見知らぬ何かに呼ばれるように外へ足を向けることを止めることが出来ない。
しかし暫く緋龍城を離れているとどうにも落ち着かなくなり、少し経てばまたここへ戻ってきてしまうを繰り返している。
イル陛下は自分が城外へ出ることに今でもいい顔をしてはくれないが、長年続けばそれも癖。
今ではヨナやハク、スウォンにさえも短期放浪癖と呼ばれるまでになってしまったが、自分でもこの妙な癖が不思議でならない。
性分とは何かと宿主を悩ませるものだ。
そしてヨナの言うとおり、城に居ようと居まいと自分は他人から声をかけられることが少なくない。
老若男女問わず、時には贈り物もされる。
菓子などの食物は嬉しいが、男がよく贈ってくる簪のような装飾品、なかでも着物などを貰っても使い道を見出せないので多くを横流しさせてもらっている。
文など文字を読めない自分にはただの紙以外の何物でもない。
ハクの言うところには、自分は『顔で若者気配で老人を釣っている』らしい。
正直意味が分からないが、撫でられるのと菓子が貰えるのは嫌いではないので別に気にしない。
「はぁ……。フィンネルってなんで可愛いのに色々残念なのかしら……」
「いきなり残念発言です!?」
「だってそうじゃない。モテるのになんで自分から振っちゃうのよ?」
「も、持て……? 振る……?」
他人を持って降ったことなどなくそんな筋力持ち合わせていない。
断じてない。
しかしヨナの言葉では自分は無意識下でかなり残念なことをしていたという。
………………やはり解せぬ。
「もう絶対その口調のせいよ! スウォンの敬語ならまだしも、なんでよりによってハクの影響まで受けたの!?」
「影響なんぞ受けてねえですし癖は癖です」
口調を癖というのはおかしいのかもしれないが、しかしそれは自分の癖だとしか言い様がない。
およそ十年ほど前になるか、城に来た当初、幼少から言葉さえも知らなかった自分は声は出せども言葉が出なかった。
よって必然的に無愛想な無言になってしまうことが多かった自分にそれでも尚話しかけてきてくれたのはヨナ達だ。
そんなヨナとハク、時折訪ねてくるスウォンに恩のような感情を抱いたためなんとか言葉を会得しようと近場から採取していった結果が現在の口調。
如何してなどと言われてもそうしてこうなったとしか言い様がないし、どこがおかしいのか分からないから改善の余地がない。
取り敢えず、癖とは無意識下にあり怖いものだと認識させてもらう。
「もう……フィンネルになら恋愛相談できるかなって思ったのに……」
「恋愛……」
恋愛。
特定の異性に対して特別な愛情を抱くこと、伴侶のような関係に結ばれるまでの過程。
「何故にフィンネルを選びやがりました……」
相談されるということはそれに対して返答しなければならないということ。
即ち怠い。
「えっとね……フィンネルは私の家族みたいなものじゃない? だけど友達みたいな感じもするし……私、友達と恋バナするのが夢だったの!」
「……!!」
確かに、十年程共に過ごせば血に縁がなかろうと家族のような感覚が芽生えるのだろう。
しかし自分は隠されねばならない不義の子だ。ここにヨナの遠い親戚という名の立場であるだけでも奇跡な人間。
それを知りながら同情もなく純粋に家族だと、友達だと言うヨナが愛しい。
そんな愛しい存在の夢を叶えられるのが自分であるという目の前に差し出される事実は、自分の頬に熱を持たせるには事足りる僥倖。
「フィンネル真っ赤ー!」
「んー……」
にこにこと笑顔を浮かべながら頬をつついてくるその指先が熱を吸い取ってくれたなら少しは熱も引くのだろうか。
そう見当はずれなことを考えてみながらも、自分の中で膨らむ無念は重い。
残念ながらヨナの当ては大きく外れている。
恋愛なるものは自分には完全に未知の領域だ。
特定の異性に対し親愛以上の感情を抱いたこともないし、もし抱いたとしてもそれが親愛とどう違うのか自分には見分ける知識も術もない。
今度誰かに訊いておこうかとも思うが、分かろうと分からまいと自分にはあまり関係がなさそうで、第一訊く相手を探すのも訊くのも怠い。
……しかしヨナが必要といているのならば訊いておくべきなのかもしれない。
こんな時に力になれずなにが義理でも従妹か。
「ヨナは子供扱いが気に入らねぇですか?」
自分には恋愛なるものは分からない。
だからそれ以外のところでヨナに応えよう。
子供扱いの定義は定かではないが、それは十六になる少女には耐え難いものなのか。
相当相手から想い入れのある者しかそういった扱いを受けられないものなのだから、それだけで充分でないのだろか。
恋愛というものは、それだけでは足りないのだろうか。
ヨナとハクとスウォン。
この三人と共に在る時間さえ存在すれば、自分は何も要らぬというのに。
「だって私、スウォンのことが好きなんだもの。……少しくらい、気にされたいわ」
「んむー……」
恋愛とはなんと難儀なものなのか。
奥が変に深そうで面倒そうだ。
「ヨナはスウォンの傍にいたいですか?」
「いたいわ!」
「即答です……」
所詮は他人。
自分ではないものがどれだけ痛がろうと自分自身にはそれを感じ取ることが出来ず、また自分の痛みも他人にはわからない。
どれだけ血が繋がろうと心が繋がろうと、全てを共有することなど不可能に等しい。
そう教え込まれたからなのか、何かの傍に在りたいとはっきりと言葉に変えられるヨナが、深紫の奥にある一途な思いが、自分にはひどく眩しく見える。
その眩しさに惹かれたから、自分はいつまで経とうともヨナの傍らから離れられないのだろうか。
ヨナがスウォンの傍らにあるためにはどうすればいいか。
悪目立ちせず、さり気なく、そうと気付かせないように、二人が傍寄ることが出来る状況。
それを作るにはいつ何を何処でどう動かせばいいのか。
思考を巡らす。
些細な記憶も掘り起こす。
ヨナの誕生日が近い故に、城の者の動きは忙しない今。
「ヨナ」
「なに?」
――ならば、あの場は必ず空いている筈だろう。
「明日、スウォンに――」
「!」
たった一つの耳打ちで、花咲くような笑顔を見せるヨナ。
面倒で怠い思考もヨナのそれが見られるなら至高の褒美をもらえたようなものだと、明日に控える自分の裏方根回しへの奔走へ前労いとしておいた。