01_終わりの産声、始まりの血臭
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名前変換暁のヨナ夢小説・紫魂の黎明の夢主名変換です。
デフォルト名:フィンネル
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一年に一度必ず訪れる他人が生まれた日を祝うという習慣、つまりは誕生日いう人間のみが有するその習性を、自分はいつまで経っても理解することが出来ない。
然し自分の愛する者が命を与えられた日というものは十分記念日となり得る。
それに好きな人間が喜ぶのであれば、自分に利があろうとなかろうと祝う価値は十分にあるものだ。
だからその記念日を余裕を持って迎えられるように、自分は六日も前から帰路に着き会場までたどり着いていた。
従兄弟であり義姉でもある彼女の喜ぶ顔見たさに、怠さを全力で堪えての行動である。
――……だというのに。
「ただいま、ヨナ」
友、姉妹、恋人、伴侶。
そう評しても差し障りのないほど自分に張り付くこの怠さを差し置きながらも見たかった少女の顔は。
「おかえりなさい……」
おかえりと返してくれた声は。
……何故こうも、不機嫌丸出しなのだろうか。
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「子供扱いが気に入らないって?」
「そうよ! だって私もう十六よ!?」
「あと六日で、ですがね」
赤い赤い、美しい龍と称えられる城。
その中でも一際美しい調度品の揃う一室――王族の部屋。
座り心地のみを追求し尽くしたような椅子の膝を抱え、黙々と自分は考える。
この国では珍しい、燃えるような赤い髪と深い紫の瞳。
美しいよりも可愛らしい整った顔。
この高華国緋龍城で暮らす国王の一人娘――ヨナ。
その何より尊い存在と自分は、所謂従兄弟の関係にある。
従兄弟といってもそれは表面上、それは仮初と相違ない関係。
王族にありきたりな傲慢も冷徹も偏見さえも持たないこの温かく活発な姫は凡そ王族に向かないと密かに思ってはいるが、そんなヨナだからこそ最下で生きてきた自分が従兄弟として今隣にいられるのだろう。
「スウォンだってちょっとくらい気にしてくれたって……」
「女として見られてないんじゃないんですか? まさか……女らしさが絶無なのでは!?」
そしてそんな姫が幼少より好いている人間がヨナの叔父の息子、つまりは従兄弟にあたる青年スウォン。
緩く肩口で一つに纏めた金茶の長髪に穏やかな翠の瞳を持つ物腰の柔らかい青年。
端整な顔立ちとその優しさに人望が厚い。
……特に城内の女性から。
しかも時折見せるドジさは少々頂けないが人望を集める力は限りなく高い。
それに表には出ていないが武術もそれなりに出来るから、ヨナに好かれるだけの要素は余すほど持ち合わせているというわけだ。
自分からすれば物腰が柔らかいどころか、むしろのほほんとし過ぎてこっちが不安になりそうな奴だが……。
「ねぇハク? その煩い口、縫い付けちゃってもいいかしら?」
「おぉっと、それは大変だー。姫様の素晴らしく下手な裁縫で縫われちゃ堪んないですよー」
しかし時に何もないところで躓くようなあれのどこに恋愛感情を抱けるのか疑問に思う点も時にあるが、人の好みとは様々でありそもそもそういった感情を抱いたことのない自分がとやかく口を挟む権利はない。
それにヨナとは別種だが、自分もスウォンは好きだ。
その存在は愛しいと思う。
ヨナの伴侶となられては自分がヨナの傍らに居られる時間は確実に減ってしまうだろうが、ヨナもスウォンも幸せになれるのであれば怠さを差し置き自分が二人を応援するのも――
「もー!! ちょっとフィンネル! このハクどうしてやればいい!?」
「このハクってなんですか。しかし姫様も良いご趣味だ。俺が縫われて痛みに悶える姿でも見たいんですか?」
「――いいかもしれない」
「は!?」
「え!?」
「…………ん?」
なにやら外野が騒がしいと思えば、いつものヨナとハクの口論擬きだ。
それをピタリと止めた二人が物凄い顔で此方を見てくるが、自分は何かをやらかしたのだろうか。
……特に何も思いつかないし、してもいない、軽く二人の口論に気づいてすらいなかった。
「ちょっ、ちょっとハク……!! またフィンネルに変なこと教えたの!? 私そんな趣味持ってないわよ!? 絶対持ってないからね!?」
「俺だってそんな如何わしいこと教えませんよ! またどっかから勝手に拾ってきたんじゃないんですか!? ちなみの俺にも痛がる趣味はねえ!!」
ヨナの深窓の姫君らしからぬ荒ぶり様もそうだが、自身のお仕えする国の姫にタメ口どころか暴言すら吐けるハクもある意味で凄い。
完全に敬ってない敬語はいつものことだ。
幼馴染である前に専属護衛官であることを忘れているのではないかと常々思わされるが、周囲への気の配り方は武人のそれに違わない。
黒髪黒目の如何にも柄と口が悪そうな実質悪いこの男は仮にも緋龍城の要とも言われる五将軍が一人、ソン・ハクその人。
現在緋龍城内の人間でハクに武力で適う人間はいないのだろう。
高華国屈指の武人、高華の雷獣、槍を持たせれば敵無しと謳われている、取り敢えずは強い奴だ。
「おいフィンネルチャンよ。今失礼なこと考えてなかったか?」
「何も考えてねえです。…………だから頭ぐりぐりしてくんじゃねぇです痛ぇです……!」
長々と思考してみたが、結局のところこれに行き着いた。
――槍を持ってなくともハクは取り敢えず強いのだ。