「今日は、帰る」

聞き取るのがやっとの声量。次いで、勢いよく駆け出した彼女の名前を大きく呼んであげることしか私はできなかった。

あの様子からして、きっと彼女は昨日の一戦で全てを悟ってしまったのだろう。
自分が飛び込もうとしている世界の厳しさを、ツナたちが居る世界の恐ろしさをー…中学生になったとは言え、つい最近まで彼女は小学生だった。

こっちの世界に触れるにはまだまだ彼女は幼過ぎる。

リボーンにもそう話をした。
彼女にはまだ早いって。

だけどリボーンは。

「それでも光奈は選ばれちまったんだ」

と言って、それ以上のことは何も言わなかった。きっと彼は彼なりに光奈のことを考えていたんだと思う。愛する人の考えなんて表情を見れば一目瞭然。


誰も予想しなかった物語が一人歩きして進んでいる。


それを選んだのは、間違いなく光奈自身であって。
今更、私たちがどうこうすることもできない。


これは、アナタが乗り越えないといけないのよ。


「光奈…」


先程まで彼女が立っていた一点を見つめ、既に姿を消した彼女の名前を小さく呼ぶ。

今は苦しいかもしれない。けれど、こうと決めたからには前を向くしかないのだから。