紳士たるもの
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ティータイムの約束の時間に少々早めに来てしまったのは、失敗だったかもしれない。
エプロン姿で私を出迎えたレディは、『もう少しでケーキが焼き上がりますから、ミニリッパーと待っていてください』と言ってキッチンに戻っていった。確かに、チョコレートが焼ける甘い香りが微かに漂ってきている。
彼女のペットであるミニリッパーは落ち着かない様子でキッチンへと続く扉の前をうろちょろと行ったり来たり、ぴょんぴょんと飛び跳ねてドアノブを掴もうとしたりしていた。
最初は主人からの『入っちゃ駄目』という言いつけを守ろうとしていたのだが、どうやら待つことに飽きてしまったようだ。
「こら、いけませんよ。戻りなさい、おチビさん」
ミニリッパーの首の後ろを掴んで持ち上げて来客用のソファまで運ぼうとすれば、気に食わないのか宙で手足をばたつかせて暴れ出す。
大切なレディを奪われることを恐れているのか仇のように敵意を向けられるのは別に今に始まったことではないし、そんな抵抗をされても蚊の鳴くようなもので何ら痛くも痒くも無い。
この悪戯好きなペットは昨年のバレンタインでレディが私に宛てて作ったチョコレートを彼女の目を盗んで食べてしまった前科があるため、今年はキッチンに立ち入ることを禁止されたそうだ。
それは理解できるのだが……何故、私がこの食い意地の張った生意気なチビ助の目付け役をしなければならないのだろうか。嗚呼、愛しい彼女の頼みでなければ断っていたものを。
引っ込み思案な彼女からの、珍しいティータイムの招待。そして今日はバレンタインデー。お茶のお供は恐らく、彼女の手作りのチョコレートケーキ。期待をしない方が無理だというもの。
ーーようやくここまで漕ぎ着けた。
愛されることに慣れていなかった初心な彼女が、恋人達の日に背中を押されたものの自分からこの私を部屋に招いてくれるようになったのだ。
どちらかと言えばもてなす方が性に合っているが、今日は紳士として、彼女の恋人として、彼女の心遣いと愛に応えねばなるまい。
……そして彼女の為を思えば、この小さい私の分身とも、そこそこの友好関係を保たなければならないのだ。
これを甘やかしている、否、とても可愛がっている彼女のこと。今年はきっと彼の分もチョコレート菓子を用意しているに違いない。
「あなたも紳士の端くれでしょう。ならば行儀よく『良い子』にして女性を待つものですよ」
そう言うとミニリッパーは私を不機嫌そうに睨みつけて、つん、とそっぽを向き、その場に寝転がって不貞寝をし始めた。
ーー嗚呼。私の可愛い、愛しいレディ。
お菓子作りに熱心なのはたいへん結構なのですが、もし可能ならば、なるべく早くお願いします。
あなたの大切にしているこのクソ生意気なチビを、私がうっかり八つ裂きにしてしまうその前に。
エプロン姿で私を出迎えたレディは、『もう少しでケーキが焼き上がりますから、ミニリッパーと待っていてください』と言ってキッチンに戻っていった。確かに、チョコレートが焼ける甘い香りが微かに漂ってきている。
彼女のペットであるミニリッパーは落ち着かない様子でキッチンへと続く扉の前をうろちょろと行ったり来たり、ぴょんぴょんと飛び跳ねてドアノブを掴もうとしたりしていた。
最初は主人からの『入っちゃ駄目』という言いつけを守ろうとしていたのだが、どうやら待つことに飽きてしまったようだ。
「こら、いけませんよ。戻りなさい、おチビさん」
ミニリッパーの首の後ろを掴んで持ち上げて来客用のソファまで運ぼうとすれば、気に食わないのか宙で手足をばたつかせて暴れ出す。
大切なレディを奪われることを恐れているのか仇のように敵意を向けられるのは別に今に始まったことではないし、そんな抵抗をされても蚊の鳴くようなもので何ら痛くも痒くも無い。
この悪戯好きなペットは昨年のバレンタインでレディが私に宛てて作ったチョコレートを彼女の目を盗んで食べてしまった前科があるため、今年はキッチンに立ち入ることを禁止されたそうだ。
それは理解できるのだが……何故、私がこの食い意地の張った生意気なチビ助の目付け役をしなければならないのだろうか。嗚呼、愛しい彼女の頼みでなければ断っていたものを。
引っ込み思案な彼女からの、珍しいティータイムの招待。そして今日はバレンタインデー。お茶のお供は恐らく、彼女の手作りのチョコレートケーキ。期待をしない方が無理だというもの。
ーーようやくここまで漕ぎ着けた。
愛されることに慣れていなかった初心な彼女が、恋人達の日に背中を押されたものの自分からこの私を部屋に招いてくれるようになったのだ。
どちらかと言えばもてなす方が性に合っているが、今日は紳士として、彼女の恋人として、彼女の心遣いと愛に応えねばなるまい。
……そして彼女の為を思えば、この小さい私の分身とも、そこそこの友好関係を保たなければならないのだ。
これを甘やかしている、否、とても可愛がっている彼女のこと。今年はきっと彼の分もチョコレート菓子を用意しているに違いない。
「あなたも紳士の端くれでしょう。ならば行儀よく『良い子』にして女性を待つものですよ」
そう言うとミニリッパーは私を不機嫌そうに睨みつけて、つん、とそっぽを向き、その場に寝転がって不貞寝をし始めた。
ーー嗚呼。私の可愛い、愛しいレディ。
お菓子作りに熱心なのはたいへん結構なのですが、もし可能ならば、なるべく早くお願いします。
あなたの大切にしているこのクソ生意気なチビを、私がうっかり八つ裂きにしてしまうその前に。
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