保カフ その他 

レノカフ 『あったかい冬がやってくる』

 やっちまったという声につられて見やれば、汚れを知らないまっさらな彼の服がカレー色に染まっていた。

 「テレビばっかり見てるから、そういうことになるんですよ」

 「ごめん、母ちゃん……」

 誰があんたの母ちゃんだ、そんなつっこみを入れながら俺は立ち上がった。汚れた部分を先に軽く洗って、洗濯機に投げ入れる。俺の後ろでごめんなあとしょぼくれた様子で、彼は謝罪を繰り返していた。

 「買ったばかりなのに、初日から派手にやってくれましたね」

 「マジですまん! せっかくお前が買ってくれたのにな」

 「まあ、仕方ないですよ。先輩は…………」

 「……え、何? 俺はなんなの!? なんて言おうとしたのか、教えて〜」

 気になって寝られないと俺の体を揺すぶっていた彼が一瞬動きを止め、大きなくしゃみをひとつ。

 「そんな半袖姿でいたら、風邪ひきますよ」

 「いや、その……今着れる長袖シャツって、それだけなんだよなあ」

 ぼそぼそと言いづらそうに言葉を落とす。
 夏から始まった彼との同棲生活だが、やたらと荷物が少ないとは思っていた。だけれど、冬服を全く持っていないなどと誰が思うだろうか。どうしてというその理由は大方見当がつく。そんなに長くこの生活が続くとは思っていなかったのだろう。あの人の中の俺はその程度の男ということになる。まだまだだな。

 「俺の服だとサイズが合わないでしょうけど、ないよりはマシだと思うんで着て――」

 自分の着ていたカーディガンを脱いで渡そうとしたけれど、出来なかった。先輩が俺に抱きついてきたからだ。

 「こうやってくっついてたら、寒くねえよ。お前もあったかいんじゃね? 一石二鳥じゃん」

 子どものようにあどけなく笑う恋人に、目が離せなくなる。

 彼にまた冬服を贈ろう。
 箪笥に仕舞いきらないくらい、たくさんの冬服を。荷物が多すぎて引っ越ししたいなんて思わなくなるくらいに、たくさん。ついでに夏服も添えてしまえばいい。

 「元はと言えばカレーこぼしたのが原因なんですからね、分かってます?」

 「ごめん、母ちゃ〜ん」

 変な謝罪を口にしながら、先輩は俺の体をぎゅうぎゅうと締め上げている。体温の高い彼のお陰で、俺はぽかぽかだ。

 今年の冬はきっと寒くない。
 いや、もうずっと寒い冬はやってこないんだと、そう思った。

 
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