保カフ その他 NEW

 保カフ 『高校の同級生の佐藤弟が直属の上司だった件について』


 「おお、久しぶり! お前ら」

 日比野カフカは高校の時に仲良かった佐藤と鈴木、彼らと飲み会をすることになった。モンスイ時代には何度か飲み会をしたことがあったが、最後に会ってからもう何年経つだろうか。会わない間に、鈴木は結婚をしているし、カフカは防衛隊に入った。そして、佐藤はーー

 「佐藤、お前のお母さん再婚したんだって?」

 「そうなんだよ、この年で新しい父親はできるし、兄弟までできるしで······ちょっとついてけないんだわ」

 「再婚相手、かなりの金持ちらしいぜ」

 鈴木がそう言うと、マジそれな、じゃねえわ!と佐藤がノリツッコミを披露し、高校時代を彷彿とさせる仲の良さで微笑ましいとカフカは感じてしまう。

 「兄弟って、相手方にも子どもさんがいるのか」

 「そうなんだよなぁ、息子が2人いるらしくてさ······俺、この年で3兄弟の長男よ」

 「まじか! すげぇな、佐藤」

 カフカがそう反応すると、『え、これってすごいことなの?』と困り顔の佐藤である。そんな2人のやりとりを見ていた鈴木は、カフカの肩をぽんと軽く叩く。

 「カフカ、残念ながらもうこいつは佐藤ではないんだ」

 鈴木が神妙な顔でそう伝えてきた。カフカはその意味が分からず首をかしげていたが、そうかと漸く答えにたどり着く。

 「母親が再婚するから、名字が変わるのか! ······ん? ってことは、俺これからお前のことなんて呼べばいいんだ?」

 「いや、そのままで良いって! 今更呼び方変えられたら変な感じするし」

 じゃあ、これからも佐藤って呼ぶなとカフカは言った。
 この時どうして新しい名字を前もって聞いておかなかったのか、この後カフカにとってこれは痛恨のミスとなる。

 「それでさあ、カフカ。お前に頼みがあるんだけど······一生のお願いだから、兄弟面会に一緒についてきてくれ!!」

 「え? 俺が!? なんで······」

 「なんでも、息子2人とも防衛隊員らしいんだわ」

 俺ってさあ、緊張しいだし? それに、金持ちのボンボンと話があうとも思えないし? つうか何話せばいいか全く分からんのよ。話が途切れて無言とか怖いからさあ······そういうときは一発、防衛隊あるあるとか頼むよーカフカ!
 佐藤は早口でそうまくしたてる。それに対してカフカは、防衛隊あるあるとかそんな一発芸もってねえしと呟いた。
 
 「その、兄弟になるって2人。どこの所属とか聞いてないのか?」

 「さあ、そこまでは分かんねえわ」

 「というか、全く関係ない俺がそんな家族会みたいなのに行っていいのかよ?」

 「あ、それは大丈夫。母ちゃんに1番仲の良いマブダチも連れて行くから伝えといてって言ってある」

 「ちょっと待て。もうそれだと俺行くことになってないか!?」

 「すまん、カフカ。お前だったらOKしてくれると思ってさ」

 かくして、日比野カフカは旧友の家族会ならぬ兄弟会に何故か参加することになったのである。


 そして、兄弟会当日。
 何食わぬ顔で向かったカフカだったが、今彼はこの後の命運を左右するであろう岐路に立たされていた。

 「新しい家族との初対面で連れと一緒に来るて言うから、てっきり彼女かなんかやと思うてたら······お前、何しとん? おいこら、カフカ」

 目の前には何故か職場の上司がいた。
 保科宗四郎ーー年下であるが、防衛隊第3部隊副隊長という肩書きをもつ。れっきとした、カフカの直属の上司である。しかも、すこぶる機嫌が悪いと見える。いつも、にこにこと笑っている優しい彼の面影はない。まるで討伐時を彷彿とさせるような殺気を感じるほどだ。何処かに怪獣でもいるんだろうか。いや、確かに目の前にはいるんだけれども。

 「えっと、その······なんと言いますか」

 保科の激しい剣幕に気圧されて、引きつった笑いしか出てこなかった。カフカの背中に嫌な汗が伝う。

 『今更だけど、佐藤。お前の新しい名字って何だっけ?』

 『え? あーー保科、だけど······なに? 知り合い?』

 まじかぁとカフカは頭を抱える。
 彼は己が無頓着さに後悔した。
 兄弟で防衛隊に入隊しており、裕福な家庭。それだけでもある程度絞り込めそうなものなのに、加えて名字という最大のヒント。前もって聞いておけば、保科に先に事情を説明することも可能だったはずーー

 「えらい仲がええなあ······お前ら、付き合っとるんか」

 保科の目の前でこそこそと佐藤と密談しているのが余程気に食わないのだろう。苛立ちもそのままに、彼の指がテーブルを一定のリズムでとんとんと叩いている。

 「あ、すみません、保科さん。紹介が遅れました。こいつは俺の高校の時の同級生でして······その1番仲良い友だちです、よ?」

 佐藤はなんとか誤解を解こうと、カフカとは友だちであるということを強調した。だが保科の機嫌は一向に良くならない。

 『なあ、カフカ。お前ってあの人の何なん? どういう関係!? 俺なんか完全に間男みたいになってない!?!』

 『落ち着け、佐藤。血迷うな、深呼吸してよく見てくれ······俺が絶世の美女ならともかく、こんな冴えない32歳成人男性があのイケメンとどうなるって言うんだ!? ただの上司と部下でしかない、はずなんだけど······』

 いつもはもっと温厚な優しい人なんだよと付け加えてみたが、あまり意味はないだろう。目の前の保科はこめかみに青筋が立て、ひどくお怒りのようである。そんな彼が不意に手を挙げ発言してきた。

 「すいません、佐藤さん。ちょっとええですか? お互い戸籍上は家族っちゅうことになるんで、名字で呼び合うのはやめましょ。僕も佐藤さんのことは太郎さんとお呼びするので」

 佐藤はその言葉に過剰反応した。母親以外に名前で呼ばれたことがないからである。元々緊張していて気もそぞろだったのが、驚いて頭が真っ白になりさらに状況が悪化していた。

 「あ、えっとー······その、分かりました? それでは改めまして······そう、宗一郎さん?」

 「おい、違うだろ!? 宗一郎さんはお兄さん! こっちは弟のーー」

 こっち? とカフカの発言をうけて、不機嫌にそう呟く。

 「すみません、間違えました! こちらのお方は、弟の宗四郎さんであらせられます! つうか、最初に自己紹介したのに聞いてなかったのかよ、佐藤!?」

 「すまん、緊張で全てが左から右に流れ出たっぽい」

 どうやら、聞いてはいるが緊張で全く頭に入ってこないらしい。
 佐藤の顔は青ざめ、冷や汗が止まらない。
 そんな彼に追い打ちをかけるように保科が語り出す。

 「こちらこそ、すみません。兄弟会だというのに、兄が欠席してもうて。兄の宗一郎は僕と違って? 優秀で非常に忙しいようなので。会うことは叶わないですが、貴方によろしく伝えるようにと言付かってきました」

 そのとげとげしい物言いに、佐藤はさらに縮こまってしまう。助けを求めるようにカフカへと寄りかかる。

 『······俺、なんかずっと地雷踏みまくってない!? やばい······カフカ、俺はもう駄目かもしれん。あとは頼む······』

『諦めるのはまだ早いぞ、佐藤! こんな時のためにこれ、持ってきたんだ』

 そう言って紙袋の中から、ごそごそとある物を取り出した。そして、保科の前へと献上する。

 「副隊長! よければこちらをどうぞ!!」

 「なんやこれ。卒業······アルバム?」

 そう、カフカが秘密兵器とばかりに取り出したのは、高校の時の卒業アルバムだ。わざわざ実家に取りに帰ってまで、持ってきていたのである。
 防衛隊あるあるなどという一発芸は持ち得ないので、そのかわりに何か場を和ませられる物をと考え卒業アルバムへと行き着いたのだった。

 「······これ、見てもええんか?」

 興味津々といった感じで聞いてきた保科に、どうぞどうぞとカフカは承諾し見るように勧めた。すると、おおきにとこの日初めて保科が笑顔を見せる。それを見た佐藤は泣いて喜び、カフカに感謝していた。

 保科は手渡されたアルバムをゆっくりと捲っていく。そこには学び舎で真剣に取り組む姿、楽しそうに仲間と笑いあうものなど、どこをとっても懐かしさと若い眩さが溢れていて。ささくれだっていた彼の心が凪いでいく。そんな保科はとあるページに気になる写真を見つけたようで、その手を止めた。

 「あ、これ······もしかして、カフカか?」

 「そうです、そうです! これは体育祭の時のですね」

 「へえ、かわええなあ」

 アルバムに載っている1枚の写真。そこには、3人の男子学生が写っており、左から鈴木、カフカ、佐藤となっている。頭には赤いはちまき、手にはリレーで使うバトン。カフカは皆と肩を組みながら、満面の笑みでピースをしていた。
 その写真を楽しそうに眺めている保科を見て、漸く本来の調子を取り戻してきたのか佐藤の口数も増えていく。

 「そうなんすよねーこの時が完全にこいつの全盛期ってやつですよ」

 「はあ!? 俺は今が全盛期ですけどぉー?」

 1枚の懐かしい写真により、笑いが巻き起こりその場があたたかい雰囲気に包まれた。
 その後も様々な青春の1ページを巡って話が盛り上がり、時には失敗談など身を削るようなことにもなってしまったが。当初先行きが危ぶまれた兄弟会はカフカのアルバム作戦が功を奏し、和やかな雰囲気のまま幕を閉じた。終わりよければなんとやらである。


 それから、数日後。それは防衛隊第3基地にて、昼休憩中のこと。

 「よお、カフカ。今ちょっとええか?」

 「お疲れ様です、副隊長。はい、大丈夫です。何でしょうか」

 上司へ失礼のないように背筋伸ばし敬礼といったカフカに、保科は仕事の話ではないから楽にするようにと伝えた。そして、少し話しづらそうに『この間のことやけど』と切り出す。

 「ほんまは僕も結構緊張しとったから、お前がいてくれて助かったわ。ありがとうなあ」

 「そうだったんすね。いやあ、俺はてっきり機嫌が悪いのかと思ってひやひやしましたよ。お役に立てたなら良かったです」

 そう言いながら照れ笑いするカフカを見つめつつ、保科はさらなる話を持ち出した。

 「あの後佐藤さんと話して、今度は夜に飲み会でもしようってなってな」

 「いいじゃないですか! あいつ酒好きだし楽しい会になりそうですね」

 完全に他人事といった感じで答えたカフカの瞳に、手を合わせ頭を下げる上司が映り込む。

 「すまんけどな、カフカ。またお前も一緒に来てくれんか? この通りや!」

 「いやいや、何してるんすか!? 頭上げてください! 副隊長」

 後生だからお願いとばかりに上官に深々と頭を下げられ、カフカはあたふたとしてしまう。なんとか保科に頭をあげさせることはできたが、それでも執拗にお願いされてどうしたものかと逡巡する。

 「それに僕、実はな······酒弱いねん。佐藤さん酒強いみたいやし、酔い潰れて迷惑かけたらどないしようて······」

 そして、さらなる追い打ちとばかりに、弱々しく縋るような表情でそう言われたら断るに断れない。
 いつも非の打ち所がないような上司の意外な一面に、そういえばこの人は自分よりも年下だったなとカフカの庇護欲が掻き立てられた。

 「分かりました! お供させて頂きます! 副隊長が飲めない分は俺がかわりに飲みますし。それにもし酔い潰れるようなことがあれば、俺が責任をもってお部屋へ送り届けますので、ご安心を」

 そう答えたカフカに、保科は満足そうににんまりとした笑みを浮かべた。

 「ほんまか、ありがとうな。頼りにしとるで、カフカ。ほな、日時決まったらまた知らせるから。よろしく頼むわ」

 「はい、お任せください! 楽しい飲み会にしましょう」


 この時、笑顔で保科を見送るカフカはまだ知らない。
 
 飲み会後に送り狼ならぬ送られ狼で、保科に迫られることを。また、それから幾度となく開催される兄弟会を通して、保科と仲が深まるのは佐藤ではなくカフカ自身であるということをーー


 終



 design
4/4ページ
スキ