保カフ その他
保カフ 『勘違いラバーズ』
ふたりはぴたりと寄り添って座り、触れ合っている腕は手をぎゅっと握りしめ繋がれている状態だ。また、もう片方の手でそれぞれ支え合って、一緒に今月の防衛隊広報誌を眺めている。
ここは立川基地よりほど近い、マンションの一室。保科宗四郎の名義で借りている家である。防衛隊舎にも自室があるため、こちらの家はあまり使われることはなくただの物置部屋のような状態であった。
しかし、ここ最近頻繁に使用されるようになったのだ。きっかけは部下である日比野カフカと交際をはじめたことにある。気兼ねなくふたりで話ができるようにと、この家を密会場所へと使用するようになったからだ。
この日も仲睦まじく貴重な逢瀬を静かにのんびりと過ごす、はずだった。
「お前のところの部下、部署異動を希望してるそうやないか。なんやあったんか?」
日比野は動揺からか掴んでいた雑誌を床へと落としかけた。口からは言い淀むように、あのそのしか出てこない。
すると、保科はわざとらしく深々とため息をついた。
「カフカ、またやったんか。直属の部下に手なんか出したらあかんやろ…………って、お前が言うなやってつっこまへんのか?」
「……手なんか、出してません」
日比野は絞り出すようにそう言うのが精一杯であった。
そんな恋人を見て保科はふんわりと微笑む。そして、手にしていた広報誌を閉じテーブルの上へと置いた。
「そんなこと、言われんでもわかっとるわ。僕はお前を信じとる。それに、お前が僕の目を盗んで浮気なんかできるような、そんな器用さ持ち合わせとるなんて……これっぽっちも思うてへんよ」
このようなやり取りを彼らは付き合いだしてから、もう幾度となく繰り返していていた。
『副隊長すごくモテそうだから、俺……心配です』
『何言うとるん。浮気なんかするはずないやろ。大丈夫やから、な?』
これは付き合い初めのふたりのやりとりだ。
当初、浮気などといった懸念を持っていたのは、日比野のほうであったのだ。だが、いざお付き合いが始まってみると、全くの逆で頭を抱える羽目になったのは保科のほうである。
日比野は元々心根が優しく人に好かれやすい人間であった。そこへ大人の色気というものが加わってしまったのだ。保科に愛されたおかげで、皮肉にもそれは芽吹き大輪の花を咲かせてしまったのが大きな要因であっただろう。
日比野はいつしか行く先々で誰彼と好かれ、告白を受けてしまうようになっていた。
それが保科に知られ、浮気だなんだと揉め事になるという悪循環。
ふたりとも心底疲れ果てた。自分で自分に辟易した。この状況を打破したいと願った。
ふたりの想いは同じだったのだ。
「僕はもうお前を疑ったりせえへん……カフカ、お前を信じる。いや、別にお前が本当に僕を裏切るようなことするなんて思うてへんけどな」
時間は有限。ふたりとも忙しい身だ。
そんな限られた恋人との時間を言い争いに充てるなど勿体ない。そんなことをしたくて、恋人になったわけじゃないはずだ。貴重な時間をもっと有意義に。
保科の主張に日比野も賛同し、愛を確かめ合い誓いのキスを交わす。
さながら、それは誓いの言葉を述べる結婚式のようであった。
「あの……俺はこれからどうしたら良いですか?」
日比野にはわからなかった。どうしてこんなことになったのか、根本原因が掴めていない。どう対処して、振る舞っていけばいいのか。
「人に優しくするな、とは言わん。それをするなっちゅうのはお前を否定することになるやろうから。ただな、できればお前のその優しさも愛もおいそれと配らんといてほしいねん。それはもう僕のもんや。せやから、もうバーゲンセールは終いにしてや、カフカ」
保科の言うことがちっとも分からなかった。
結局、自分はどうしたらいいのだろうかと、そう悩んでいたある日。
本当に偶然であるが、保科が小隊長の斑鳩に日比野のことを話している現場を目撃したのだ。それはもう楽しそうに、時折日比野に見せるような甘い顔をしながら保科は熱く語っていた。それを見た日比野は思わず両手で顔を覆う。
「何、あれ……俺のこと好きってモロバレじゃん……恥ずかしい」
だがしかしだ、自分もこうすればいいのかと一筋の光明が差したのもまた事実であった。あれならば、人に勘違いさせたりましてや告白を受けるようなことはなくなるだろうと。
こんなにも近くに良きお手本があったとは思いもよらなかった日比野であった。
かくして、この浮気騒動はこれにて収束したのである。一件落着かと思われたが、そうは問屋が卸さない。次なる問題のお目見えである。
「保科副隊長と日比野小隊長がお付き合いしてるって、ほんとかなあ」
このような噂が流れ始めたのである。
新たな問題にふたりしてため息がとまらない。
「どうします? 副隊長」
「どうもこうも……もうええんちゃう? 面倒やから、公表しようや」
「俺は別に構わないですけど……副隊長、大丈夫ですかね」
「どうやろな……でっかい銃もって追いかけ回される夢やったらもう見たで」
「困りましたね」
「ほんま、どないしよ」
ふたりはぴたりと寄り添って座り、触れ合っている腕は手をぎゅっと握りしめ繋がれている状態だ。また、もう片方の手でそれぞれ支え合って、一緒に今月の防衛隊広報誌を眺めている。
ここは立川基地よりほど近い、マンションの一室。保科宗四郎の名義で借りている家である。防衛隊舎にも自室があるため、こちらの家はあまり使われることはなくただの物置部屋のような状態であった。
しかし、ここ最近頻繁に使用されるようになったのだ。きっかけは部下である日比野カフカと交際をはじめたことにある。気兼ねなくふたりで話ができるようにと、この家を密会場所へと使用するようになったからだ。
この日も仲睦まじく貴重な逢瀬を静かにのんびりと過ごす、はずだった。
「お前のところの部下、部署異動を希望してるそうやないか。なんやあったんか?」
日比野は動揺からか掴んでいた雑誌を床へと落としかけた。口からは言い淀むように、あのそのしか出てこない。
すると、保科はわざとらしく深々とため息をついた。
「カフカ、またやったんか。直属の部下に手なんか出したらあかんやろ…………って、お前が言うなやってつっこまへんのか?」
「……手なんか、出してません」
日比野は絞り出すようにそう言うのが精一杯であった。
そんな恋人を見て保科はふんわりと微笑む。そして、手にしていた広報誌を閉じテーブルの上へと置いた。
「そんなこと、言われんでもわかっとるわ。僕はお前を信じとる。それに、お前が僕の目を盗んで浮気なんかできるような、そんな器用さ持ち合わせとるなんて……これっぽっちも思うてへんよ」
このようなやり取りを彼らは付き合いだしてから、もう幾度となく繰り返していていた。
『副隊長すごくモテそうだから、俺……心配です』
『何言うとるん。浮気なんかするはずないやろ。大丈夫やから、な?』
これは付き合い初めのふたりのやりとりだ。
当初、浮気などといった懸念を持っていたのは、日比野のほうであったのだ。だが、いざお付き合いが始まってみると、全くの逆で頭を抱える羽目になったのは保科のほうである。
日比野は元々心根が優しく人に好かれやすい人間であった。そこへ大人の色気というものが加わってしまったのだ。保科に愛されたおかげで、皮肉にもそれは芽吹き大輪の花を咲かせてしまったのが大きな要因であっただろう。
日比野はいつしか行く先々で誰彼と好かれ、告白を受けてしまうようになっていた。
それが保科に知られ、浮気だなんだと揉め事になるという悪循環。
ふたりとも心底疲れ果てた。自分で自分に辟易した。この状況を打破したいと願った。
ふたりの想いは同じだったのだ。
「僕はもうお前を疑ったりせえへん……カフカ、お前を信じる。いや、別にお前が本当に僕を裏切るようなことするなんて思うてへんけどな」
時間は有限。ふたりとも忙しい身だ。
そんな限られた恋人との時間を言い争いに充てるなど勿体ない。そんなことをしたくて、恋人になったわけじゃないはずだ。貴重な時間をもっと有意義に。
保科の主張に日比野も賛同し、愛を確かめ合い誓いのキスを交わす。
さながら、それは誓いの言葉を述べる結婚式のようであった。
「あの……俺はこれからどうしたら良いですか?」
日比野にはわからなかった。どうしてこんなことになったのか、根本原因が掴めていない。どう対処して、振る舞っていけばいいのか。
「人に優しくするな、とは言わん。それをするなっちゅうのはお前を否定することになるやろうから。ただな、できればお前のその優しさも愛もおいそれと配らんといてほしいねん。それはもう僕のもんや。せやから、もうバーゲンセールは終いにしてや、カフカ」
保科の言うことがちっとも分からなかった。
結局、自分はどうしたらいいのだろうかと、そう悩んでいたある日。
本当に偶然であるが、保科が小隊長の斑鳩に日比野のことを話している現場を目撃したのだ。それはもう楽しそうに、時折日比野に見せるような甘い顔をしながら保科は熱く語っていた。それを見た日比野は思わず両手で顔を覆う。
「何、あれ……俺のこと好きってモロバレじゃん……恥ずかしい」
だがしかしだ、自分もこうすればいいのかと一筋の光明が差したのもまた事実であった。あれならば、人に勘違いさせたりましてや告白を受けるようなことはなくなるだろうと。
こんなにも近くに良きお手本があったとは思いもよらなかった日比野であった。
かくして、この浮気騒動はこれにて収束したのである。一件落着かと思われたが、そうは問屋が卸さない。次なる問題のお目見えである。
「保科副隊長と日比野小隊長がお付き合いしてるって、ほんとかなあ」
このような噂が流れ始めたのである。
新たな問題にふたりしてため息がとまらない。
「どうします? 副隊長」
「どうもこうも……もうええんちゃう? 面倒やから、公表しようや」
「俺は別に構わないですけど……副隊長、大丈夫ですかね」
「どうやろな……でっかい銃もって追いかけ回される夢やったらもう見たで」
「困りましたね」
「ほんま、どないしよ」
