保カフ その他 

鳴カフ 『金欠パラドックス』 

 第一部隊からの応援要請を受け、俺は分析支援部隊小隊長としてこの地を訪れていた。我が基地の上司たちはまたかとうんざりした顔をしていたけれど、断ればあちらの隊長自ら乗り込んでくるという異常事態が発生しかねないのでやむを得ず送り出されたのである。
 挨拶をしに訪れた隊長室から、聞き慣れた声が耳をかすめた。開いている扉からそっと覗いてみると、予想通りの光景でため息が出てしまう。

 「金を貸してくれ、四ノ宮」

 何度となく見た彼の姿だが、この基地のトップである最強様がやっていいことではないな、と毎回思う。失礼しますと扉を叩き中へと入っていく。突然の俺の登場に驚いたような彼と目があった。いや、あんたが呼んだんだろ。

 「悪いなあ、キコル……ほら、隊長。そんなことしてないで立ってください」

 床に這いつくばるように土下座している彼の脇を抱えて、よっこいしょと起き上がらせる。

 「あんたが来てくれてよかったわ。さっきからずっとこの調子で、辟易してたところよ」

 若くして隊長の副官を務めることになった彼女は当初とても不安そうな顔をしていた。だけれど、長谷川さんに面倒なことを押しつけてすまない。鳴海をよろしく頼むと深々と頭を下げられて、その想いごと背負い込むことを決意をしたのだという。きっととても肩が軋むような重みがあったことだろう。

 「もう二度とこんなことしないように、よく言い聞かせてちょうだい……そうそうカフカ、そのバカはあんたに何か買ってあげたいものがあるらしいわよ」

 だが、若さとは素晴らしい。成長著しい彼女はとても逞しく、副隊長という役職も板についてきたなと去っていくその背を見送りながら感じた。
 扉が閉じられると同時に、クソっバラしやがってと不機嫌そうな言葉が吐き出される。

 「隊長……俺に何かプレゼントしてくれようとするのは嬉しいんですけど、人から借りたお金で買ったものは御免ですよ」

 「だってしょうがないだろ……金がないんだから」

 不貞腐れた子どものようにそっぽを向き、口を尖らせながらそう言い訳している。そんな彼の頬をやんわりと両手で包み込む。

 「俺に何を買ってくれるつもりだったのか……誰もいないし、こっそり俺にだけ教えてくださいよ、ね?」

 苛ついた気持ちをほぐすかのように、頬をむにむにと撫でながら微笑みかける。すると、俺の顔をじっと見つめていた彼の顔にほんのり赤みがさし、熱を帯びてくるのを感じた。
 こんなに綺麗な顔をしているくせに、なんでこの人は俺の顔なんかが好きなんだろう。

 お前の笑った顔が好きだ。ボクの隣でずっと笑っていてくれ。

 ともすればプロポーズと勘違いされてしまうような告白を受け、この人とのお付き合いは始まった。
 俺が笑顔を見せる度に、頬を染めながら嬉しそうにしている。そんな彼を見て、俺もまた同じ気持ちを抱いている。愛おしいとはこういう時に言うのかもしれない。

 「お前にもこのシャツを買ってやろうかと……お揃いにしたかった」

 金欠という文字の入った白いシャツ。彼のお気に入りだったか。
 そういえば、告白された時も着ていたし、長谷川さんとご飯を食べに行った時も着ていったと言っていた。
 
 (正直な話……いらねえな、そのシャツ)

 この変文字シャツ、確かすげえ高いんだよなぁ。勿体ねえ。
 そんな感想しか出てこないが、気持ちは有り難くいただくとしよう。

 「おい、カフカ……何やってる。なぜ、服を脱ぐんだ!?」

 俺は着ている無地の白いシャツを脱いで、積み上がっている段ボールの上へと置いた。

 「あ、安心してください。シャワー浴びてきたし、シャツも新しいのに替えてきたので」

 「な……おまっまさか、今からその……や、やるのか? ボクはまだ心の準備が――」

 なぜかあわあわとしている隊長へと近づき、両手をあげてみせた。

 「心の準備? そんなものいらないんで、ほら……こんな感じで万歳してください」

 疑問符を頭に浮かべながらも大人しく両手をあげてくれたので、その体から金欠シャツを剥ぎ取った。その後、すぐに俺の着ていたシャツを彼に着させ、代わりに俺が金欠シャツを身に纏って完了である。なぜまた着せるんだと不思議そうにしている彼の乱れた髪を整えるのも忘れない。

 「今すぐお揃いは難しいですけど、着てみせることくらいはできますよ。ほら、どうです? 俺、似合ってます??」

 もし本当に俺用として買ってくれるのならば、もうワンサイズくらい大きいのにしてもらおう。
 俺は胸のあたりにできている皺を、金欠という文字がよく見えるようにぐいっと引っ張って伸ばした。

 「カフカ……さてはお前、ボク様と同じ天才だな? 脱ぐなよ、写真に撮るんだからな!!」

 そこから謎の撮影会が始まってしまったのだが、機嫌が直ったようなので良しとしておく。

 「隊長、どうせなら一緒に撮りましょうよ」


 その時撮った写真がわざわざ印刷され、ミナのもとへと渡り悪の権化かというくらいに拳を震わせながらぐしゃりと握り潰され、それを保科副隊長が拾い――そうして、俺の手元へとやって来ることになる。副隊長の笑いをのせて。

 「もう二度と許可は出さんって、それはもう大層お怒りやったわ、亜白隊長。いやあ〜お前にも見せたかったで、カフカ」
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