保カフ その他
保カフ 『触れて、とける』
四ヶ月、彼は目覚めなかった。
実に四ヶ月だ、あまりにも長くもうこのまま目覚めないのではないかと悲観してしまうには有り余るほどの時間だった。
僕は彼のもとへと足繁く通った。いや、それでは少し語弊があるだろう。言うほど行くことは出来なかったのだ。
副隊長という立場では思いの外融通が利かない。それでも出来得る限りそばにいたかった。
「今日はいい天気やで、カフカ。昨日の雨が嘘みたいに晴れとる。少し、空気の入れ替えで窓開けてみようか」
いつも、眠っている彼に話しかけた。
天気の話など他愛もないことから、討伐時のことや防衛隊での話。時には仕事が溜まって仕様がないとか愚痴を言ってみたり。
当然だが、反応はない。何かしら言い返してきたり、笑ってくれたり。そんなことあるはずないのだと分かっていても、どこかで期待している自分がいた。
「なんや、お前。今日はあったかいなあ。調子ええんとちゃうか?」
彼に会いに行って、必ずやることがある。それは、彼の手に触れその温もりを感じることだ。
眠っているからといって、いつも同じではない。温かい日もあればひんやりとしている時もある。一番肝を冷やしたのは、その手が氷のように冷たかったあの日だ。いつもの如く彼の手に触れると、全く体温が感じられないのではないかというほどその手が冷えきっていて。慌ててベッドサイドのボタンを押し、看護師が駆けつけてくるまでの間僕は彼の手を温めるべく息を吹きかけ手と手を擦り合わせていた。
勿論大事には至らなかったが、あの時ほど誰かの死をおそろしいと思ったことはなかったかもしれない。
そうして、四ヶ月後彼は目を覚ます。
だが、僕はすぐに駆けつけることはできなかった。仕事で地方に出ていたからだが、どうしてこのタイミングでと思ってしまう。僕が見舞いに行ったその時に目覚めてほしいなどと、そんな贅沢なことは言わない。けれど、せめて吉報を聞いて駆けつけられる距離にいる時にしてほしかった。
「亜白隊長、どうしました?」
会議が行われている最中、何度も何度も電話をかけてきていたようだ。会議中だということは分かっているはずなのに。
「ひび……カフカくんが、カフカくんが目を覚ましたぞ、保科」
そこにいたのは第三部隊隊長ではなく、紛れもなく日比野カフカのたった一人の幼馴染みである亜白ミナであったのだ。星の巡り合わせというやつなのか。目覚めた彼のもとに駆けつける役目は僕ではなかった、きっとそういうことなのだろう。
それから、彼が防衛隊へ復帰し暫くたった頃。
挨拶代わりに彼へ向けて出合い頭こう言った。疲れた顔しとるな、と。すると、副隊長には敵いませんよと屈託のない笑顔で返してきた。以前ならば、絞め技の一つでもおみまいしているところだが。四ヶ月通ったことで、どうやら癖になってしまったようだ。彼の手に触れ、その体温を確かめないと落ち着かない。
「え? 手、ですか……わっ、何やってるんですか、副隊長」
彼に手を差し出させて、その手の感触、温度を確かめるように優しく丁寧に触れる。だがもう絶対にあんな思いはしたくないし、彼を死の淵へ立たせるようなことはしない。そう思いの丈を込めたばかりに、自ずと握りしめる力は強くなった。
「ん? ああ、すまん。いや……頑張っとる手しとるなあ、て思っただけや」
「それこそ、副隊長には到底敵いませんよ。貴方に敵う人なんて……きっと誰もいない」
それは四ヶ月何を話しかけても返ってこなかった、待ちわびた答えだ。
悲しかった、侘びしかった。
氷に覆われ冷たく固まってしまったような心臓が漸く動き始めたようなそんな気さえして。だから、まだ言ってなかった、いや言えなかったことばが思わず口をついて出たのだろう。
「よお頑張ったな……おかえり、カフカ」
四ヶ月、彼は目覚めなかった。
実に四ヶ月だ、あまりにも長くもうこのまま目覚めないのではないかと悲観してしまうには有り余るほどの時間だった。
僕は彼のもとへと足繁く通った。いや、それでは少し語弊があるだろう。言うほど行くことは出来なかったのだ。
副隊長という立場では思いの外融通が利かない。それでも出来得る限りそばにいたかった。
「今日はいい天気やで、カフカ。昨日の雨が嘘みたいに晴れとる。少し、空気の入れ替えで窓開けてみようか」
いつも、眠っている彼に話しかけた。
天気の話など他愛もないことから、討伐時のことや防衛隊での話。時には仕事が溜まって仕様がないとか愚痴を言ってみたり。
当然だが、反応はない。何かしら言い返してきたり、笑ってくれたり。そんなことあるはずないのだと分かっていても、どこかで期待している自分がいた。
「なんや、お前。今日はあったかいなあ。調子ええんとちゃうか?」
彼に会いに行って、必ずやることがある。それは、彼の手に触れその温もりを感じることだ。
眠っているからといって、いつも同じではない。温かい日もあればひんやりとしている時もある。一番肝を冷やしたのは、その手が氷のように冷たかったあの日だ。いつもの如く彼の手に触れると、全く体温が感じられないのではないかというほどその手が冷えきっていて。慌ててベッドサイドのボタンを押し、看護師が駆けつけてくるまでの間僕は彼の手を温めるべく息を吹きかけ手と手を擦り合わせていた。
勿論大事には至らなかったが、あの時ほど誰かの死をおそろしいと思ったことはなかったかもしれない。
そうして、四ヶ月後彼は目を覚ます。
だが、僕はすぐに駆けつけることはできなかった。仕事で地方に出ていたからだが、どうしてこのタイミングでと思ってしまう。僕が見舞いに行ったその時に目覚めてほしいなどと、そんな贅沢なことは言わない。けれど、せめて吉報を聞いて駆けつけられる距離にいる時にしてほしかった。
「亜白隊長、どうしました?」
会議が行われている最中、何度も何度も電話をかけてきていたようだ。会議中だということは分かっているはずなのに。
「ひび……カフカくんが、カフカくんが目を覚ましたぞ、保科」
そこにいたのは第三部隊隊長ではなく、紛れもなく日比野カフカのたった一人の幼馴染みである亜白ミナであったのだ。星の巡り合わせというやつなのか。目覚めた彼のもとに駆けつける役目は僕ではなかった、きっとそういうことなのだろう。
それから、彼が防衛隊へ復帰し暫くたった頃。
挨拶代わりに彼へ向けて出合い頭こう言った。疲れた顔しとるな、と。すると、副隊長には敵いませんよと屈託のない笑顔で返してきた。以前ならば、絞め技の一つでもおみまいしているところだが。四ヶ月通ったことで、どうやら癖になってしまったようだ。彼の手に触れ、その体温を確かめないと落ち着かない。
「え? 手、ですか……わっ、何やってるんですか、副隊長」
彼に手を差し出させて、その手の感触、温度を確かめるように優しく丁寧に触れる。だがもう絶対にあんな思いはしたくないし、彼を死の淵へ立たせるようなことはしない。そう思いの丈を込めたばかりに、自ずと握りしめる力は強くなった。
「ん? ああ、すまん。いや……頑張っとる手しとるなあ、て思っただけや」
「それこそ、副隊長には到底敵いませんよ。貴方に敵う人なんて……きっと誰もいない」
それは四ヶ月何を話しかけても返ってこなかった、待ちわびた答えだ。
悲しかった、侘びしかった。
氷に覆われ冷たく固まってしまったような心臓が漸く動き始めたようなそんな気さえして。だから、まだ言ってなかった、いや言えなかったことばが思わず口をついて出たのだろう。
「よお頑張ったな……おかえり、カフカ」
