保カフ その他 NEW
保カフ 『その星を手中に収める』 前編
近年、怪獣の発生率が格段に上がっている。それに伴い、討伐要請が増えるのは当たり前のことだろう。
だが、これは確実におかしいと言える。討伐要請がある度に必ずと言っていいほど僕、保科宗四郎の前に現れるーー怪獣8号。
1度討伐し損ねて悔しい思いをした。だから、再び会えるのはこちらとしてとても有難い。今度こそ確実に息の根を止める、そう意気込んで挑んだにもかかわらずまたもや失敗。何故かこちらの動きを完全に読まれていた。
その後も、8号は度々僕の目の前に現れては付かず離れずで、何をしたいのか皆目見当もつかない。こちらを亡き者にしたいという殺気もなければ、こちらに討伐されたいという願望もない。まあ、討伐されたいなんて怪獣、今まで1度も見たことないけれど。
「どうして8号は、いつも副隊長のところにだけ現れるんでしょう」
「僕に聞かれても知らんわ」
8号以外の怪獣を討伐して戻ってくると、オペレーターの小此木このみから声をかけられた。
「やっぱり、狙われているのでは?」
最初は確かにその可能性も考えたが、8号は戦闘中防御ばかりで攻撃はしてこない。僕に傷1つつけようとしない。だから殺すのが目的でないのは明らかだ。では、一体何が目的なのか。
「まぁた懲りずに来たんか、怪獣8号。お前暇なんか?」
何度目の遭遇か最早分からないが、またしても姿を現した8号。
声をかけると、目の前の怪獣は何となくもじもじしているようにも見える。最近じっくり観察するようにしているが、こちらの言ったことに反応していると感じることが多い。
「お前、僕の言ってること理解(わか)っとるな」
ほら、やっぱり。今、図星ですみたいな分かりやすい反応をした。こいつの反応を見ていると人間とそう変わらない気がして、正直おもしろい。
あと、なぜか僕と一定の距離を保ちたいようで、近づきすぎると離れていく。だからあえてこちらから距離を詰めると、慌てて逃げる。その様がほんの少しだがかわいいと思えてきているのは、僕が8号の術中にはまっているということだろうか。
「あっ待て! そんなに飛んだらお前ーー」
戦いの最中こちらが構わずどんどん距離を詰めたせいで、8号は逃げるようにものすごい速さで急上昇した。そして、運の悪いことにそいつが飛び上がった先には、戦闘状況を伝えるドローンがあり見事にそれは砕け散った。
「待て言うたやろ、こんのあほっ! これ高いねんぞ」
しかも、ドローンと8号が接触した際の激しい爆風で通信までイカれてしまったらしい。オペレーターの声が途切れ途切れになり、ついには何も聞こえなくなってしまった。
「あーもうやめや、やめ! こんなん体力の無駄遣いもいいとこや」
僕はその場にへたり込むように座った。後ろに手を付き、荒い息のまま空を見上げる。
映像も通信も途絶えた中、8号と戦う意味がない。まるで敵意は感じられないし、もはや訓練で手合わせでもしているかのようだ。こんな無意味な戦い、本当に馬鹿らしい。
こちらに戦う意思が無くなったと分かるのだろう。8号はゆっくりとこちらに近づいてきて、その場にしゃがみ込んだ。そして、不思議そうに小首をかしげている。
やっぱりちょっと、かわいいんとちゃうやろか?
「もう今日は終いや。さっさとお前も帰り」
8号が珍しくこちらにかなり近づいてきているなと思い、その動向をじっと見つめた。すると、こちらに手を伸ばしてきてもう少しで触れそうというところで止まり、その手を引っ込めた。
「お前、僕に興味があるんか? ええで、触りたかったら触っても」
そう言うと恐る恐るといった感じに手をまた伸ばしてきて、その人差し指で軽く僕の頭をちょんと小突いた。全く痛みなど無かったが、少々悪戯心が出てしまいわざと痛がってみせた。するとものの見事にあわあわとし始めて、思わず笑ってしまう。
「冗談や、全然痛ないから······お前ほんまに、おもろいやっちゃなあ」
すると不意に8号は立ち上がり、また一定の距離を保つために後ずさりした。一瞬怒ったのかと思ったが、どうやら違うらしい。
8号の背後で、新たに送り込まれてきたドローンが見え隠れしている。
(こいつ、ドローンも認識できるんか)
映像も通信も復旧したし、今日の8号戦はもう終了だろう。
そう思い尻についた泥を払いながら立ち上がろうとした、その時だった。8号が突然僕の肩を押してくる。少し強めの力で引き倒される形となり、地面に尻を強打した。今度は本当に痛かったと文句を言おうとしたら、僕の頭上を何かが掠めていく。何が起きたのか分からないでいると、目の前に立ち塞がっている8号がうめき声をあげた。そして、目の前にはなぜか8号の背にあるはずの風景が丸見えになっていて。
「お前、何してるんや······アホちゃうか」
僕を守るように立ち塞がっている8号の腹に、どでかい穴が空いていたのだ。すぐに再生して穴はみるみるうちに消えてなくなったが、あまりの衝撃でその映像が脳裏にこびりついて離れない。
怪獣に守られたという事実が信じられなくて、僕は呆然としてしまっていた。そんな中、8号はこちらを攻撃してきたと思われる、別の怪獣を強烈な一撃で木端微塵にしていた。こちらには向けたことのない殺気を纏って。
「副隊長? 副隊長、大丈夫ですか!?」
オペレーターの声で、僕は漸く正気を取り戻した。
「僕は大丈夫や······怪獣8号と新たに来た怪獣が接触。8号がその怪獣を撃破しそして、またもや怪獣8号逃亡」
淡々と現状を報告するだけで精一杯だった。
その後基地に帰ってからも先程のことが頭から離れなくて。自室に戻っても何もする気になれず、そのままベッドに突っ伏した。そして、自虐的に独りごちる。
「副隊長ともあろうものが、怪獣に守られるなんてありえへん」
だがそれ以上にありえないのは、怪獣8号が自分のせいで怪我をしたという事実にショックを受けていることだ。
怪獣は例え怪我をしたとしても、その能力により再生が可能だ。だが、怪獣とて怪我をすれば痛みがある。そんなこと知りたくもなかった。
「めっちゃ痛そうな声出てたな······泣いてんちゃう? あいつ大丈夫やろか」
次の討伐でまたあった時には、礼を述べて頭でも撫でてやれば喜ぶかもしれない。そんな取り留めもないことを考えていると、次第に眠気が襲い疲れきった体はそのままベッドに沈んでいったーー
深い眠りを期待したが、その日の出来事に苛まれているとそうもいかないらしい。揺蕩う眠りの中、懐かしい夢を見た気がする。
それは、第3部隊に所属したばかりの頃。
何をやっても上手くいかず、深夜気を紛らわせるように基地の屋上で無心に刀を振っていたことがあった。
一頻り体を動かした後、疲れて屋上の地面に寝転んだ。夜空に無数の星が瞬いていて、それを見た瞬間何故か涙が込み上げてきた。どんなに頑張ろうとも報われない虚しさ。だけどそんなものに負けたくないという意地、必要とされてここに来たという自負。その全てが綯い交ぜになり、涙腺を緩めているのだろう。
その時、見上げていた空に星が流れていった。それは涙で少し視界がぼやけようとも、その美しさには目を見張るものがあって。
流星を見るなんていつ以来だろうか。その星を捉えた瞬間、要求じみたことがふと口をついて出てしまう。
「褒美が欲しい······頑張って隊長······はあの人がおるから無理やな。そう、······副隊長になれたら、僕だけの大事な宝もんみたいなものがほしい。いや、ください」
流れ星にお願いごとするなんて、馬鹿げてる。だけどそれほどまでに自分が弱っているんだと自覚した。
これからもなりふり構わず、ただひたすら頑張っていくしかないのだろう。だから、そうするための活力が欲しかった、ただそれだけだ。叶うはずないと分かっていても、ほんの少しだけ期待してしまう。
この日この時に流れていった星と出会えるのは、どのくらいの確率なのだろう。流れ星自体を見るのは、そう難しくないのかもしれない。だが、どんなに流れていこうともその空を見ようとしなければ見れないのだ。だから、これを奇跡だと信じて、僕はその時を静かに待つーー
続

近年、怪獣の発生率が格段に上がっている。それに伴い、討伐要請が増えるのは当たり前のことだろう。
だが、これは確実におかしいと言える。討伐要請がある度に必ずと言っていいほど僕、保科宗四郎の前に現れるーー怪獣8号。
1度討伐し損ねて悔しい思いをした。だから、再び会えるのはこちらとしてとても有難い。今度こそ確実に息の根を止める、そう意気込んで挑んだにもかかわらずまたもや失敗。何故かこちらの動きを完全に読まれていた。
その後も、8号は度々僕の目の前に現れては付かず離れずで、何をしたいのか皆目見当もつかない。こちらを亡き者にしたいという殺気もなければ、こちらに討伐されたいという願望もない。まあ、討伐されたいなんて怪獣、今まで1度も見たことないけれど。
「どうして8号は、いつも副隊長のところにだけ現れるんでしょう」
「僕に聞かれても知らんわ」
8号以外の怪獣を討伐して戻ってくると、オペレーターの小此木このみから声をかけられた。
「やっぱり、狙われているのでは?」
最初は確かにその可能性も考えたが、8号は戦闘中防御ばかりで攻撃はしてこない。僕に傷1つつけようとしない。だから殺すのが目的でないのは明らかだ。では、一体何が目的なのか。
「まぁた懲りずに来たんか、怪獣8号。お前暇なんか?」
何度目の遭遇か最早分からないが、またしても姿を現した8号。
声をかけると、目の前の怪獣は何となくもじもじしているようにも見える。最近じっくり観察するようにしているが、こちらの言ったことに反応していると感じることが多い。
「お前、僕の言ってること理解(わか)っとるな」
ほら、やっぱり。今、図星ですみたいな分かりやすい反応をした。こいつの反応を見ていると人間とそう変わらない気がして、正直おもしろい。
あと、なぜか僕と一定の距離を保ちたいようで、近づきすぎると離れていく。だからあえてこちらから距離を詰めると、慌てて逃げる。その様がほんの少しだがかわいいと思えてきているのは、僕が8号の術中にはまっているということだろうか。
「あっ待て! そんなに飛んだらお前ーー」
戦いの最中こちらが構わずどんどん距離を詰めたせいで、8号は逃げるようにものすごい速さで急上昇した。そして、運の悪いことにそいつが飛び上がった先には、戦闘状況を伝えるドローンがあり見事にそれは砕け散った。
「待て言うたやろ、こんのあほっ! これ高いねんぞ」
しかも、ドローンと8号が接触した際の激しい爆風で通信までイカれてしまったらしい。オペレーターの声が途切れ途切れになり、ついには何も聞こえなくなってしまった。
「あーもうやめや、やめ! こんなん体力の無駄遣いもいいとこや」
僕はその場にへたり込むように座った。後ろに手を付き、荒い息のまま空を見上げる。
映像も通信も途絶えた中、8号と戦う意味がない。まるで敵意は感じられないし、もはや訓練で手合わせでもしているかのようだ。こんな無意味な戦い、本当に馬鹿らしい。
こちらに戦う意思が無くなったと分かるのだろう。8号はゆっくりとこちらに近づいてきて、その場にしゃがみ込んだ。そして、不思議そうに小首をかしげている。
やっぱりちょっと、かわいいんとちゃうやろか?
「もう今日は終いや。さっさとお前も帰り」
8号が珍しくこちらにかなり近づいてきているなと思い、その動向をじっと見つめた。すると、こちらに手を伸ばしてきてもう少しで触れそうというところで止まり、その手を引っ込めた。
「お前、僕に興味があるんか? ええで、触りたかったら触っても」
そう言うと恐る恐るといった感じに手をまた伸ばしてきて、その人差し指で軽く僕の頭をちょんと小突いた。全く痛みなど無かったが、少々悪戯心が出てしまいわざと痛がってみせた。するとものの見事にあわあわとし始めて、思わず笑ってしまう。
「冗談や、全然痛ないから······お前ほんまに、おもろいやっちゃなあ」
すると不意に8号は立ち上がり、また一定の距離を保つために後ずさりした。一瞬怒ったのかと思ったが、どうやら違うらしい。
8号の背後で、新たに送り込まれてきたドローンが見え隠れしている。
(こいつ、ドローンも認識できるんか)
映像も通信も復旧したし、今日の8号戦はもう終了だろう。
そう思い尻についた泥を払いながら立ち上がろうとした、その時だった。8号が突然僕の肩を押してくる。少し強めの力で引き倒される形となり、地面に尻を強打した。今度は本当に痛かったと文句を言おうとしたら、僕の頭上を何かが掠めていく。何が起きたのか分からないでいると、目の前に立ち塞がっている8号がうめき声をあげた。そして、目の前にはなぜか8号の背にあるはずの風景が丸見えになっていて。
「お前、何してるんや······アホちゃうか」
僕を守るように立ち塞がっている8号の腹に、どでかい穴が空いていたのだ。すぐに再生して穴はみるみるうちに消えてなくなったが、あまりの衝撃でその映像が脳裏にこびりついて離れない。
怪獣に守られたという事実が信じられなくて、僕は呆然としてしまっていた。そんな中、8号はこちらを攻撃してきたと思われる、別の怪獣を強烈な一撃で木端微塵にしていた。こちらには向けたことのない殺気を纏って。
「副隊長? 副隊長、大丈夫ですか!?」
オペレーターの声で、僕は漸く正気を取り戻した。
「僕は大丈夫や······怪獣8号と新たに来た怪獣が接触。8号がその怪獣を撃破しそして、またもや怪獣8号逃亡」
淡々と現状を報告するだけで精一杯だった。
その後基地に帰ってからも先程のことが頭から離れなくて。自室に戻っても何もする気になれず、そのままベッドに突っ伏した。そして、自虐的に独りごちる。
「副隊長ともあろうものが、怪獣に守られるなんてありえへん」
だがそれ以上にありえないのは、怪獣8号が自分のせいで怪我をしたという事実にショックを受けていることだ。
怪獣は例え怪我をしたとしても、その能力により再生が可能だ。だが、怪獣とて怪我をすれば痛みがある。そんなこと知りたくもなかった。
「めっちゃ痛そうな声出てたな······泣いてんちゃう? あいつ大丈夫やろか」
次の討伐でまたあった時には、礼を述べて頭でも撫でてやれば喜ぶかもしれない。そんな取り留めもないことを考えていると、次第に眠気が襲い疲れきった体はそのままベッドに沈んでいったーー
深い眠りを期待したが、その日の出来事に苛まれているとそうもいかないらしい。揺蕩う眠りの中、懐かしい夢を見た気がする。
それは、第3部隊に所属したばかりの頃。
何をやっても上手くいかず、深夜気を紛らわせるように基地の屋上で無心に刀を振っていたことがあった。
一頻り体を動かした後、疲れて屋上の地面に寝転んだ。夜空に無数の星が瞬いていて、それを見た瞬間何故か涙が込み上げてきた。どんなに頑張ろうとも報われない虚しさ。だけどそんなものに負けたくないという意地、必要とされてここに来たという自負。その全てが綯い交ぜになり、涙腺を緩めているのだろう。
その時、見上げていた空に星が流れていった。それは涙で少し視界がぼやけようとも、その美しさには目を見張るものがあって。
流星を見るなんていつ以来だろうか。その星を捉えた瞬間、要求じみたことがふと口をついて出てしまう。
「褒美が欲しい······頑張って隊長······はあの人がおるから無理やな。そう、······副隊長になれたら、僕だけの大事な宝もんみたいなものがほしい。いや、ください」
流れ星にお願いごとするなんて、馬鹿げてる。だけどそれほどまでに自分が弱っているんだと自覚した。
これからもなりふり構わず、ただひたすら頑張っていくしかないのだろう。だから、そうするための活力が欲しかった、ただそれだけだ。叶うはずないと分かっていても、ほんの少しだけ期待してしまう。
この日この時に流れていった星と出会えるのは、どのくらいの確率なのだろう。流れ星自体を見るのは、そう難しくないのかもしれない。だが、どんなに流れていこうともその空を見ようとしなければ見れないのだ。だから、これを奇跡だと信じて、僕はその時を静かに待つーー
続
