保カフ その他 

保カフ 『初夏』

 「暑っちぃーもう、やってらんねえ」

 気温が上がり汗ばむ陽気の中、日比野はぐったりとしていた。木陰のベンチで休憩するそんな彼の隣には、それとは対照的に暑さを感じさせない涼やかな顔をした恋人、保科の姿がある。

 「そんなにかあ? 冬は寒すぎてやってらんねえって言っとったやろ。寒がりのお前にはちょうどええ季節になったんやないのか」

 保科はすぐ近くにある自販機で購入した冷たい飲み物を、日比野の火照った頬にあててやる。すると、冷てえ、生き返るぅ〜と彼はふにゃりと笑い嬉しそうな顔を晒している。

 「俺、言いませんでしたっけ? 寒がりで暑がりなんすよ。だから、すげえ気温に左右されるというか」

 ゴチになります、と言いながら貰った缶ジュースをごくごくと勢いよく飲み干していく。彼の喉仏が上下するその様を保科はぼんやりと見つめていた。

 「厄介なやっちゃなあ。変温動物やあるまいし」

 「いや、マジでそれっす。ほぼほぼ変温動物なんすよね」

 ほら、と日比野が手を差し出すので、握手するようにその手を保科が握りしめる。

 「…………自分、手にカイロでも仕込んでるんか? 冬は氷みたいな手しとったのに、めっちゃ熱いやん。熱あるんとちゃうか?」

 保科は握手している手とは逆の手で、日比野へ顔をこちらに寄せるようにという合図で指をくいくいっと動かした。そして、お互い額を合わせて体温が如何ほどか確かめる。

 「熱は……ないようやな。ほんまに手だけか」

 「気持ち悪いっすよね、すみません。昔からこうなんで、特に真夏はあんまり人に触らないようにしてるんです。すげえ嫌がられるから、手とかもあんま繋いだことないっす」

 日比野はそそくさと手を引っ込める。だが、その手を追うように今度は保科が手を差し出す。また握手かと思い日比野が断ろうとすると、そうやないと保科自ら日比野の手を掴みにいく。握手ではなく、手繋ぎだ。

 「僕の手は比較的冷たいから、中和されてちょうどええんちゃう? そやから気にせんと……手、繋ごうや」

 ベンチに座り木陰で涼を得るはずが、ふたりの間に流れる緊張感と焦燥感により、少しばかり体感温度が上がったようだった。

 「ひんやりしてて、気持ちいいっす」
 「ぬくぬくやけど、別に嫌ではないなあ」

 だが、お互いの手を通して混じり合ったその熱に嫌悪感などなく、ほっと胸を撫で下ろすようにどちらともなく笑みがこぼれる。
 
 「これなら、暑い夏でも手繋げますね」

 「そうやなあ」

 恋人になったばかりのふたりは初めての夏を迎えようとしていた。
 
 
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