保カフ その他
レノカフ 『紫陽花と共に待つ』
「なんですか、それは」
休みが重なり、どこかへ出かけようと外で待ち合わせをした。
この時期らしく雨模様だったが、傘を差して彼を待つのも全く苦ではない。向かいの花屋には綺麗な白い紫陽花が並んでいて、俺と同じようにこの世でたったひとりしかいない、運命の人を待ち望んでいるのだろう。
そんなことを考えていたら、漸く彼がやってきた。
だがなぜか、この雨の中傘も差さず走ってきているではないか。
「いやあ、その……傘持ってきてたんだけど、人にあげちまって」
話を聞くと、待ち合わせ場所へと向かっている途中、傘が壊れ困っていた親子と遭遇したとのこと。子どもが寒そうにしていて可哀想になり、持っていた自分の傘をその親子に渡しそのまま走ってきたらしい。
そういえば先程、突然突風が吹いていたなと思い出す。だがしかし、もう少しどうにか他の方法があったのではないか。
「あんた、馬鹿なんですか。自分の傘あげなくても、代わりに近くのコンビニで傘を買ってきてあげるとかできたでしょ」
「おお~その手があったか。お前、頭いいなあ」
先輩は犬みたいに頭をぶるぶると振って、水滴を散らしている。そんな彼にタオルを手渡した。出掛けから雨だったので念の為にと持ってきていたが、どうやら正解だったらしい。
「とりあえず、寮に戻りましょう」
「え? 今来たばっかなのに?」
「そんな濡れ鼠な客、どこも歓迎しませんよ」
それもそうだな、ごめんとしょんぼりしている先輩に傘を向ける。
「今からすぐに帰って着替えて出直せば、どこへでも行けますから急ぎましょう」
「おっし! 全力疾走してやるぜ」
「程々にしてくださいよ。すぐにへばることになるんですから」
「そんときは俺を抱えて走ってくれよ。いちかわ〜おねがーい!」
「なんでですか!? 嫌ですよ」
そんな掛け合いをしながら、俺たちは雨の中を走り出す。
彼のためにもう1本傘を買ってこようかとも思ったが、当然のように1つの傘を共有しようと身を寄せてくるのでやめておいた。
走るペースを合わせて、呼吸を合わせて、鼓動が重なり合って――
こんなにも心躍る瞬間はそうはない。
いや、先輩と一緒ならばこれから数え切れないくらいたくさん、存在しているのかもしれない。
そうであったらいい。
走り出す直前ちらりと横目で見た花屋の紫陽花が綺麗に包まれて、どこかの親子に貰われていっていた。
出会えて本当に良かった、そう思う。
走って帰って来てみると、ちょうど伊春くんと出くわして話しかけられてしまう。早く着替えてまた出かけたいのにと気持ちばかりが焦って思わず舌打ちすると、その音の出処を探してか隣の先輩が辺りをきょろきょろとしている。
「あっれ? お前らもう帰ってきたのかよ。つーか、オッサン! 何だよそれ、ずぶ濡れじゃねえか。どうやったら、そんなことになるんだよ」
そう言いながら先輩のことを嗤うので、腹立たしくなって足を踏んでおいた。
「いってえ! 何すんだよ、レノ」
「すみません、気が付かなくて……わざとです」
「いや、どっちだよ」

「なんですか、それは」
休みが重なり、どこかへ出かけようと外で待ち合わせをした。
この時期らしく雨模様だったが、傘を差して彼を待つのも全く苦ではない。向かいの花屋には綺麗な白い紫陽花が並んでいて、俺と同じようにこの世でたったひとりしかいない、運命の人を待ち望んでいるのだろう。
そんなことを考えていたら、漸く彼がやってきた。
だがなぜか、この雨の中傘も差さず走ってきているではないか。
「いやあ、その……傘持ってきてたんだけど、人にあげちまって」
話を聞くと、待ち合わせ場所へと向かっている途中、傘が壊れ困っていた親子と遭遇したとのこと。子どもが寒そうにしていて可哀想になり、持っていた自分の傘をその親子に渡しそのまま走ってきたらしい。
そういえば先程、突然突風が吹いていたなと思い出す。だがしかし、もう少しどうにか他の方法があったのではないか。
「あんた、馬鹿なんですか。自分の傘あげなくても、代わりに近くのコンビニで傘を買ってきてあげるとかできたでしょ」
「おお~その手があったか。お前、頭いいなあ」
先輩は犬みたいに頭をぶるぶると振って、水滴を散らしている。そんな彼にタオルを手渡した。出掛けから雨だったので念の為にと持ってきていたが、どうやら正解だったらしい。
「とりあえず、寮に戻りましょう」
「え? 今来たばっかなのに?」
「そんな濡れ鼠な客、どこも歓迎しませんよ」
それもそうだな、ごめんとしょんぼりしている先輩に傘を向ける。
「今からすぐに帰って着替えて出直せば、どこへでも行けますから急ぎましょう」
「おっし! 全力疾走してやるぜ」
「程々にしてくださいよ。すぐにへばることになるんですから」
「そんときは俺を抱えて走ってくれよ。いちかわ〜おねがーい!」
「なんでですか!? 嫌ですよ」
そんな掛け合いをしながら、俺たちは雨の中を走り出す。
彼のためにもう1本傘を買ってこようかとも思ったが、当然のように1つの傘を共有しようと身を寄せてくるのでやめておいた。
走るペースを合わせて、呼吸を合わせて、鼓動が重なり合って――
こんなにも心躍る瞬間はそうはない。
いや、先輩と一緒ならばこれから数え切れないくらいたくさん、存在しているのかもしれない。
そうであったらいい。
走り出す直前ちらりと横目で見た花屋の紫陽花が綺麗に包まれて、どこかの親子に貰われていっていた。
出会えて本当に良かった、そう思う。
走って帰って来てみると、ちょうど伊春くんと出くわして話しかけられてしまう。早く着替えてまた出かけたいのにと気持ちばかりが焦って思わず舌打ちすると、その音の出処を探してか隣の先輩が辺りをきょろきょろとしている。
「あっれ? お前らもう帰ってきたのかよ。つーか、オッサン! 何だよそれ、ずぶ濡れじゃねえか。どうやったら、そんなことになるんだよ」
そう言いながら先輩のことを嗤うので、腹立たしくなって足を踏んでおいた。
「いってえ! 何すんだよ、レノ」
「すみません、気が付かなくて……わざとです」
「いや、どっちだよ」

