保カフ その他 

鳴カフ 『膝にのる』 

 「日比野、そこに座れ」

 鳴海隊長に呼び出され、俺は隊長室を訪れた。
 部屋に入るなり、その場に座るように命令される。足の踏み場もないような散らかり具合で、どこに座ればいいのかと思いつつ物を部屋の隅へと寄せてその場に正座した。
 布団に包まりながらゲームをしていた隊長は立ち上がり、こちらへ近づいてくる。その様子を少し見上げるようにして眺めていた。

 「その姿勢のまま、動くなよ」

 鳴海隊長は俺の隣に腰をおろした。そして、横になる。すると、ちょうど彼の頭が俺の膝の上に乗った。

 「寝心地は悪いが、大目に見てやる」

 そう言ったきり、彼は何も話さなくなった。瞳を閉じて、動かない。
 これは一体どういう状況なんだ。
 俺が何かやらかして、今まさに上官から罰せられている最中なのだろうか。第3部隊では腕立て伏せや走り込みなどが一般的な罰則であったが、第1部隊ではこれが普通なのか。
 分からなくて、じっとそのまま大人しく枕になっていた。それから暫くして少し足が痺れたなと思っていたら、この部屋を訪れる者がいて。

 「どういう状況だ、これは。おい、起きんか! 馬鹿者」

 「バカ師匠! いくら詰まってなくても、頭って重いんだから早く退けなさいよ」

 勢いよく扉が開かれたと思ったら、長谷川副隊長と四ノ宮キコルが乗り込むように入ってきたのだ。

 「馬鹿バカ言う奴が、ばかなんだぞ! 何しにきたんだ、お前ら。ボク様は今忙しいから、帰れ」

 しっしっと副隊長たちに出ていくように、隊長は雑に手を振り追い出そうとしている。それを聞いた2人は寝ているだけのくせにとすぐさま言い返している。

 「日比野、すまないな。すぐにやめさせるから、もう少し我慢してくれ。できれば、パワハラと主張するのはやめてくれると有り難い」

 「長谷川副隊長、これはセクハラ案件にも引っかかるかもしれないです」

 「四ノ宮、やはりそう思うか」

 ふたりは揃ってため息をついた。そして、副隊長は隊長の足を、キコルは彼の腕を力一杯引っ張った。

 「こら、鳴海。いい加減、離さんか!」

 「なんで二人で引っ張ってるのに、こいつ離れないのよ!?」

 「今、隊長様をこいつ呼ばわりしたな? お前が罰則をくらうがいい!」

 俺の腰にしがみついて、梃子でも動かない鳴海隊長に2人は手を焼いている。そして、それに巻き込まれている俺は非常に困る、というかものすごく痛い。隊長が俺から離れようとしないので、俺は正座したまま引き摺り回されることとなっている。これは何時代の罰則なんだ。

 「長谷川副隊長、引っ張るの少しやめてもらえますか!? 後、鳴海隊長は力緩めて下さい!! 俺の骨、砕けそうに痛いんです〜〜」

 そんな俺の悲痛な叫び声を聞きつけた小隊長たちが駆けつけ、加勢したことにより漸く鳴海隊長の引き剥がしに成功した。

 「あの、なんで皆さんそんなに必死なんでしょうか?」

 いつもなら、鳴海隊長が何をしていようとわりと放任している節があるが、今日は意地でもやめさせようとしているように感じられた。
 それに、これで何とか大丈夫だろうと、彼らは口々に話していてほっと胸を撫で下ろしているようでもある。

 「実は今日、上層部から派遣された調査員が来ているようなんだ」

 「調査員……て、何のですか?」

 「隊内でのハラスメントを防止するという名目で定期的にやってくるんだが、一隊員として密かに潜入しているからどの者が調査員なのか知ることはできない」

 長谷川副隊長曰く、どの隊にもやってくるそうなので、第3部隊にいた時も知らず知らずのうちに出会っていたのかもしれないらしい。

 「そんなのあったんですね、全然知りませんでした。なんか……万引きGメンみたいっすね」

 「そして、その調査報告が上層部へと伝わり問題があれば注意指導があるわけだが――今、鳴海は常習犯扱いされ目をつけられている状態だ。注意4つ、あと1つ受ければ職を追われるかもしれん。あとがない」

 バスケの反則のファウル4つ、あと1つで退場みたいなことか、なんて悠長なことを言ってる場合ではなそうだ。

 「とにかく、鳴海。お前は今日一日、大人しく仕事だけしていろ」

 「いやだ、ボクは眠いんだ。こいつを枕にして寝るんだ」

 「寝るなら、あの布団で良いだろう。なぜ日比野に拘る必要がある?」

 その場にいる者たちが皆、鳴海隊長のその答えに注目していた。考え込んでいるのか、彼はすぐには答えない。暫しの沈黙の後、彼はこう言った。

 「ボクは…………こいつを気に入った。ただそれたけだ」

 なんだ、そういうことかと皆が一斉に納得したようだった。分かっていないのは、とうやら俺だけのようで。気に入られて何故それが膝枕になるのか正直よく分からない。というか、俺は気に入られていたのか。全くそんな感じはしないけれど。

 「とにかく、いいか鳴海。今日一日は目立った行動を控えろ。日比野の膝は逃げん。そして、日比野。すまないが、適当に相手をしてやってくれ。あれが臍を曲げない程度でかまわない」

 あれとはなんだ! 謝罪しろ長谷川、パワハラだ。お前はいつから俺の部下になったんだ。2人はそんな言い合いをしているが、とりあえず上官の命令に従い俺は了と答えたのだった。

 そして、その日の調査はなんとかやり過ごしたが、その後何故か俺の膝を枕にする写真を鳴海隊長は第3部隊へと送りつけたようで。ミナと保科副隊長が注意と指導を名目に第1部隊へと乗り込んできて一悶着あるので……やはりあの時彼はパワハラ云々で注意を受けていたほうが良かったのかもしれない。

 どうして俺は今、矢面に立たされているのだろうか。
 とにかく、ここから今すぐに逃げ出したい、俺はそう思っていた。


 「ボクのカフカに何をしようと、ボクの勝手だ」

 「一隊員を贔屓しすぎではないのか。そもそも部下だからといって、名前呼びするのは如何なものか」

 「亜白、お前のところの副官も名前呼びしているだろうが」

 「僕は貴方と違って、急に名前呼びに変えたわけじゃありませんよ。元からなので。それに僕に名前呼びされるの嬉しいて、本人も言うとりますし、何の問題もありません」

 「ボク様に名前で呼ばれて、嬉しくないわけないだろ。なあ、カフカ?」

 「そうなのか、カフカくん」

 「僕以外に名前で呼ばれるのは嫌やて、そうはっきり言うてええねんでカフカ」

 

design
13/19ページ