保カフ その他 

保カフ 『一匙の愛』

 保科宗四郎は仕事に追われていた。
 執務室の机に向かう時間が長くなればなるほど、彼は疲弊していく。その様子を見ていた小隊長やその他の隊員はその身を案じ、食べ物や飲み物といった差し入れを置いていった。だが、その机に置かれた差し入れたちが手をつけられた様子はない。
 咀嚼する時間が勿体ない。食べる時間があるのならば仕事へと充てたいし、一刻も早く終わらせて兎に角寝たい。その一心で彼は差し入れに見向きもせず、仕事に励んでいた。

 「……副隊長? 保科副隊長!」 

 そう、名を呼ばれ顔を上げた。
 すると、そこには久方ぶりに見たような部下の笑顔があったのだ。そのことにより、保科の思考は一時的に停止する。
 顔を上げたが反応のない保科に向けて、部下はもう一度名を呼んだ。そこで漸く停止していた保科の頭が回り始める。

 「カフカ、なんか用か」

 保科の視線は部下の顔からその手に持つものへと移った。お盆の上には湯気の立つ何かが入ったお椀のようなもの。

 「少し休憩しませんか? 俺、飯作ってきたんすけど」

 ことりと机に置かれたのは、素朴な卵雑炊。美味しそうな匂いはするけれど、何故これなのか。

 「僕、疲れてはおるけど、病人とはちゃうで?」

 日比野は机に置かれた差し入れを一瞥し、ちょっとお邪魔しますと言いながら手近な椅子に腰を下ろした。

 「何にも食べてないんですよね? 急に重めのもの食べたら、胃がびっくりしちゃうんじゃないかと思って。それに、俺これくらいしか作れないんで、すみません」

 わざわざ手作りしてくれたものを無碍には出来ない、保科のその性質を分かっていてあえて慣れない料理をしてきた。そのことに、こいつ意外とやりよるなと思いながら、保科は有り難く頂くことにする。

 「うまっ……めっちゃうまいねんけど。なんや疲れた体に染み渡るわ」

 「ははっ、お腹空いてれば何でも美味しく感じますよ」

 最近食べた物の中でいちばん美味しいのではなかろうか、そう保科は思ってしまう。何か特別な、隠し味的なものでも入っているのか。

 「隠し味? そんなもん無いですよ。ただの卵粥です」

 そんな日比野の答えを聞きながら、保科はあっという間に完食した。ともすれば足りないくらいでよけいに腹が減ってしまいそうである。

 「じゃあ、俺はこれで。仕事頑張ってください」

 空になった食器を回収し、日比野は去っていった。名残惜しそうに彼の背を見つめたが、もうその姿はどこにもない。

 「なんや、さっさと帰っていってしまった。もうちょい、話したかったんやけどなあ」

 そんなことを口にしながら、仕事を再開する。
 先程よりもキーボードを打つ指が軽やかで、頭もすっきりしていて冴えているような感覚があった。
 食事をするくらいなら、寝たほうがマシだ。そう思って少し、食事を軽んじていたが、どうやら見直さなければならないようだ。

 「食べたらなんや、元気出てきたな」

 何か、あの部下に礼をしなければとそう思っただけで、仕事が捗って仕様がなかった。

 その後、何とかもぎ取った休日に日比野を呼び出し、この間のお礼にと今度は保科が料理を振る舞う。
 自室の机には並びきれぬほどの豪華な料理。それを見た日比野は、この人前世は料理人だったのではと思うほどの出来栄えである。

 「何が食いたいか聞いたら、カレーとハンバーグて。どこのお子ちゃまやねんって思うたけど、お前に喜んでもらいたいからなあ。子どもの好きそうなメニュー、片っ端から作ってやったわ」

 「すげえ旨そうって思ったけど、それ聞くとなんか微妙っすね。俺の年齢知りませんでしたっけ?」

 「32歳児、やろ? いっぱい食べて、もっと強なれよ〜」

 よしよしと言いながら、保科は雑に日比野の頭を撫でる。子どもというより犬を愛でるような仕草に、さすがの日比野も嫌そうな顔をする。

 「せっかくの飯が不味くなりそうなんで、それやめてもらってもいいですか」

 「そない怒らんでもええやん。カフカ撫でてると、癒やされるねん」

 やっぱり犬扱いじゃねえですか。そう文句を言いながらも日比野は手を合わせ、いただきますと食べ始める。

 「うんま〜〜! 副隊長、これすげえ旨いっす!!」

 先程の不機嫌は何処へやら、もう瞳を輝かせて子どものように保科の手料理を美味しそうに頬張っている。そんな日比野を眺め、保科の顔にも笑みがこぼれた。

 「今日は……ええ休日やな」

 
 design
11/19ページ