保カフ その他 

 保カフ 『俺、視えるんです!』前編

 
 「副隊長、よければ明日一緒にどこかお出かけしませんか?」

 彼とお付き合いを始めてまだ間もないが、運の良いことにお互いの休日が重なった。勇気を振り絞って、俺、日比野カフカはデートのお誘いをしてみたのだがーー

 「すまん、明日は僕用事があんねん」


 あっさり断られてしまって泣きそうです。誰かハンカチ貸してくれませんか?


 断られてしまってしょんぼりしていたのを彼が見逃すわけがなく、どうして駄目なのかをきちんと説明してくれる。その優しさにいつも救われている気がする。

 「家の掃除に行こうて思うとってな。昔親戚が住んでた家を亡くなってからおとんが譲り受けて、避暑地として使こうたりしててんけど。もう今は全然行く機会がなくなってしまってなあ。たまには風でも通しとかんと荒れる一方やから」

 だから、今日の勤務終わりから向かって明日1日掃除に明け暮れるとのこと。
 せっかくの休みなのだから、普段できないことをやろうと思うのはよくあることかもしれないが。それが掃除だなんて、余暇を楽しむということができない人なのだろう。俺も人のことを言えた義理ではないけれど。

 どうして駄目なのか理由は分かったが、だからと言ってすぐに諦められるわけがない。これを逃せば、次はいつになるのやら。
 俺はその話の中に出てきた、避暑地という言葉を聞き逃さなかった。

 「それって、別荘ってことですよね! すげぇ、そんなのまであるんですか。さすが古くから続く名家、保科家!」

 まさか初めてのデートがお泊りになろうとは思いもしなかったが、避暑地というくらいなのだから良き所なのだろう。そんなところで、一緒に掃除するだけというのも、きっと悪くない。

 「いやいや、今お前が思い描いてるもんとは全く別もんやぞ。そんな別荘やなんて洒落た感じどこにもにないしな。田舎の古い家やから、おばあの家にでも行くのとさしてかわらん」

 少し予想とは違ったが、この際洒落てようがそうでなかろうがどうでも良い。もとより、俺とこの人で恋人らしい雰囲気なんてものを求めるほうがおかしいのだ。

 俺は副隊長をじっと見つめた。すると、思ってることは口に出さないと伝わらないと言われてしまったので、思いきってこう言ってみる。

 「俺も一緒に連れて行って下さい。掃除、手伝いますから」

 掃除だろうと何だろうと、どんと来い。この人と一緒にいられるなら、どこにだってついて行く。

 「ついてきてもええけど、ほんまに何もないところやで。それに掃除で休み潰れてしもうてええんか? 僕としては、手伝いがおると助かるけども」


 精一杯頑張ります、と言って保科家の避暑地へと赴きました。
 それを今、俺はものすごく後悔しています。できれば、お家に帰りたいです。



         『俺、視えるんです!』



 保科家の別荘がただ今大賑わいとなっています。パーティーでもやっているんでしょうか。俺は招待状がないので入れない、そう信じています。


 「ほら、言うたやろ。お前の思っとるみたいなところちゃうて。なんやがっかりさせてすまんなあ」


 帰るにしてももう今日はその手段がないので、とりあえずここに泊まって明日の朝帰るよう勧められました。どうあがいても今すぐ帰ることは叶わないようです。



 👻



 俺は小さい頃から視えてはいけないものが視える、所謂霊感体質だ。
 ただ視えるだけ、何かされたりなどは1度もないが、視えるということ自体がとんでもなく恐ろしいのだ。
 そして、恐ろしいことはもう1つある。霊感のある者と一緒にいると、俺の霊感は倍に跳ね上がるのだ。
 (※注 これはあくまでも日比野カフカの個人的見解です)

 だから、副隊長に告白された時も、返事をする前にまず『副隊長は霊感がありますか?』と尋ねたくらいだ。もし、霊感があると言われていたら、お付き合いは見送っていたかもしれない。

 「霊感? 全く無いなあ······いや、お前喜びすぎやろ。なんでガッツポーズやねん」

 霊感がないと聞いて、俺は嬉しさのあまり思わずよっしゃあと全力で拳を上げていた。大好きな人と心置きなく一緒にいることができる幸せ。生まれて初めて、その時は信仰してもいない神様に感謝していた。

 だから、神様がいるのならばこの今の状況をどうにかしてほしいと切に願ってしまう。

 幽霊大合唱の最中、それを気に留めることなく避暑地だったというその家に入っていこうとする副隊長。それもそのはず、彼には霊感が全くないのだ。俺はその後に続くのが躊躇われて足がなかなか進まない。

 「副隊長、あの······手、つないでもらっても良いですか?」

 「なんや、お前。急に恋人風吹かせてくるやん。びっくりするわ」

 そう言いながらも、俺の手をとって握りしめてくれる。ほな行くで、と彼に手をひかれながら別荘の中へと足を踏み入れた。
 俺は怖くて目をぎゅっと瞑っていたが、その気配が何故か遠のいていくのが分かった。恐る恐る目を開けてみると、霊たちが副隊長を避けるようにして逃げていっていたのだ。

 (え? なんだこれ······どうなってる?)

 訳がわからないが、大賑わいだったその場所から1人また1人と消えていく。

 (副隊長って、もしかして霊に嫌われてる?)

 半信半疑ではあるが、この状況を鑑みるに恐らくそれは正しいのだろう。そんな人が世の中にいたのかと感動すら覚える。やっぱりこの人はすげぇ人なんだ。彼とだったら、俺はもう怯えずに暮らしていけるのかもしれない。俺の安寧の地はこの人の隣りにある。そう感じた俺は思わずつい口走っていた。

 「俺、一生貴方についていきます」

 「はあ!? おまっそれ、プロポ······はあ!?!」


 良いことを言った気がしていたのですが、何故かキレられました。俺の安寧の地は遠そうです。霊はいなくなりましたが、副隊長の顔が怖いです。

〈急募〉誰か今すぐ助けてくれる人、幽霊の皆さんは除く



   👻👻


 
 「とりあえず、軽く掃除して寝床くらいは確保せんとあかんな」

 荷物を置いた後、家の中を一通り案内してもらった。その間も蜘蛛の子散らすように霊たちが逃げていく。すげぇという感想しか最早出てこず、そのままそれが口をついて出る。すると、そんな感動するようなもん、何処にあった? と副隊長は訝しげにしていた。

 「あの、副隊長。1つお願いがあるんですが······その、寝床は別にしてもらえませんか?」

 お付き合いしているのだから同じ部屋で寝ても構わないのだが、まだ心の準備ができていないのが現状だ。ふたりともいい大人なのだから、体の関係があって然るべきなのだとは思う。したいしたくないと問われればしたいという気持ちが強い。でもだからこそ、もう少しだけ待ってほしい。

 「心配せんでも最初からそのつもりや。まだ付き合い始めたばっかりやろ? 手なんか出さへんわ、あほ」

 完全にやってしまった。言わなくてもいいことを言ってしまったのだろう。彼は気を悪くしただろうか。

 「カフカ、そんな顔するなや。手出してほしいんかほしくないんか、もうどっちやねん」

 言葉はぶっきらぼうなのに、その手はとても温かくて優しい。俺の頬を撫で擦ってくれるので、嬉しくて俺の方からもその手にすり寄っていく。
 
 「なに、かわいいことしてんのや············あかん! こんなことしとったら、夜が明けてまう」

 そう言って離れていってしまった手は、箒と雑巾を持ってまたこちらにやって来た。

 「気張りや、カフカ」

 「はい、頑張ります」


 掃除を終え遅めの夕食をとり一段落すると、風呂が沸いたから入れと言われた。兎に角この人はてきぱきとしていて、無駄がない。俺の知らぬ間に掃除をし水をため湯を沸かしていたのだ。
 俺が先に入ってしまっていいのだろうか。こういう場合家主が先ではないかと問うと、客が先だと真逆の答えが返ってきた。

 「これは見解の相違やな。まあ、でも家主の僕がええ言うてるんやから、お前が先に入るのが筋と違うんか?」

 そう言われてしまってはどうすることもできず、大人しく浴室へと向かおうとする。だが、何故か副隊長も後をついてきてしまっている。何事かと思えば、紺と白どっちがいいかと突然2択を迫られた。

 「色違いのパジャマがあんねん」

 副隊長は同じ形をした色違いのパジャマを1つずつ手にしていた。
 着替えとしてTシャツと短パンを持っては来ていたのだが、この分だと出番はなそうだ。だが、なぜ俺の分まであるのだろう。ここへ来ると決めたのは、出発する直前であったはずなのに。

 「ここに向かう途中で寄り道したやろ? あん時買うたんや」

 確かに道中1度車をとめ、必要なものを買ってくるから待っているように言われたのだ。わざわざ買わなくてもいいだろうにと思わなくもないけれど。お揃いの物を着る機会もそうないかもしれないので、有り難く着させてもらうことにする。色はどちらでも良いと伝えると、俺の手元には白のパジャマがやって来た。

 「お風呂ありがとうございました」

 そう伝えると下から上までじっくり眺めた副隊長は、ええやんと一言呟いた。その後彼もお風呂を済ませ、それぞれの寝室へと向かった。

 「やっぱり、いるよなあ」

 俺用にとあてがわれた部屋には先客がおり、それはもうすでにベッドの上で寛いでいる。副隊長のお陰で霊たちはいなくなってくれるのだが、それも一時的で彼がいないと分かるとまた戻ってきてしまうようだ。
 奇跡的にいなくなってくれるのを待ってみたが、俺にそんな能力などなく。ベッドの上のそれは我が物顔で大の字になって寝転んでいる。これ以上粘ったところで現状打破できるとは思えず、諦めて俺は副隊長のもとへと歩き出した。
 
 控えめに扉を叩くと、副隊長が中に入っていいと言うので、ゆっくりと寝室の扉を開く。部屋を覗くと小さな灯りを頼りに読書していたようで、彼の手には1冊の本が握られている。

 (あ、眼鏡······すげぇ似合うな。かっこいい)

 彼は手にしていた本を閉じた後、眼鏡をはずしその上に置いた。

 「なんや? どないした、カフカ」

 「いや、えっと······その、知らない部屋にひとりだと寂しいと言いますか。なんと言いますかーー」

 「それで? 用は何や。僕、眠いんやけど」 

 よほど眠いのだろうか。いつもよりも少し言葉に不機嫌さが滲み出ている。それもそのはず、もう夜も遅いのだ。
 言おうかどうしようか迷ったが、どうせ自室では寝ることは叶わないのだからと意を決してお願いした。

 「つまり、その······この部屋で一緒に寝させてください!」

 勿論床で構いませんので、と付け加えると彼の口からため息が漏れる。

 「お前なあ、わざわざ部屋分けたん意味ないやろ······しゃあないな、ほら早よこっちに来い」

 お許しが出たので、ゆっくりと副隊長のもとへと近づいていく。ベッドに置かれた本のタイトルが見えたが、読書なんてしないのでどんな本なのか見当もつかなかった。

 「今から布団引っ張り出して敷くのも面倒やから、ベッドで一緒に寝るで」

 掛け布団を捲って招き入れてくれので、お邪魔しますと言って彼のベッドに潜り込む。

 「狭いのはお前のその図体のせいやから、文句垂れるなよ」
 
 「あの、図々しいついでにもう1つお願いしてもいいですか? 副隊長のこと、ぎゅってしながら眠りたいんですけど」

 「ぎゅっ!? いや、まぁ······ええけども」

 俺は手を伸ばし彼の体をそっと抱きしめた。
 すると、じんわりと熱が伝わってきて。温かくて、すごく安心する。

 「副隊長のおかげで、今日は俺ぐっすり寝られそうです」

 「そうか、それは良かったなあ······逆に僕は寝られへん気もするけど······まあ、ええか。ほな、電気消すで。おやすみ、カフカ」

 おやすみなさいと返すと同時に、辺りが闇に包まれる。目を閉じるとすぐに睡魔に襲われ、俺はそのまま眠りについた。



  👻👻👻 後編へ続く


 

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