保カフ (怪獣8号) ふたりは新婚さんシリーズ 

 保カフ ふたりは新婚さんシリーズ0 番外編その2 
        『デートに行きたい!』 後編


 デート当日は、よく晴れた爽やかな朝であった。
 保科が有明りんかい基地まで迎えに来てくれると言うので、慌てることもなく余裕をもって準備できた。昨日キコルたちが選んでくれた服に袖を通し、自室を後にする。
 結局あれこれ悩んでもらったが、無難なものに落ち着いた。紺色のジャケットにパンツ。中は爽やかな白系のTシャツ。ワーク感を取り入れたセットアップにし、フォーマルな雰囲気を演出しているらしい。コンセプトは洗練された大人の装いだそうだ。値段の高さにびっくりしていると、普段使いもでき尚且つ着回しもしやすい、長く使えるから大丈夫だと押し切られた。まあ、いい年だしフォーマルなものを持っていても損はないか、とカフカは考え直し購入を決めた。ぱっと見普通だがものは良い、そんな感じのコーデである。

 基地から外に出ると、少し離れたところに車が止まっていた。その前には男が1人佇んでいる。こちらに気づいたようで、手をあげながら近づいてきた。

 「おはようさん、カフカ。ええ天気やな、絶好のデート日和やん」

 保科がどういった格好でやって来るか、昨日キコルたちと予想していた。キコル曰く、シックな装いで派手な色合いはあまり好まない。いつもの色味とさして変わらない全身黒ずくめ。カフカもそのイメージだったが、その端正な顔が眼鏡やアクセサリーで彩られているのを見た瞬間予想を覆されることとなった。
 服の全体的な色味としては予想に近く落ち着いた感じで、モスグリーンのジャケットに中は黒のタートルネック。下はベーシックなベージュのパンツである。ただ想定していなかったのは、身につけている小物だ。揺れるピアスに黄色系の色付き丸眼鏡。
 なんかめちゃくちゃお洒落なのでは?と目の前の保科を見た瞬間膝から崩れ落ちた。頑張って洒落込んできたつもりだったが、彼には到底太刀打ちできないーー何より、驚くほどかっこいいのだ。
 しゃがみ込んだカフカを見て、『大丈夫か、腹でも痛いんか』と彼が声をかけながら覗き込んでくる。顔が赤くなっているかもしれないと思い両手で覆っていたが、その指の隙間から紅い瞳とかちあった。

 「······副隊長、今日すごいお洒落じゃないですか?」

 「そらそうやろ、デートやで? 気合い入れるやろ」

 大丈夫ですと言って立ち上がろうとすると、優しく手を差し伸べてくれる。その手には手袋がつけられていた。

 「その······すごく素敵です」

 「ありがとうなあ、嬉しいわ。でも、もう一声ほしいところやな」

 そう言って、保科は感想を次々と求めてくる。
 お似合いです、センスが良いですね、皆見惚れるんじゃないですか?
 自分の語彙力を試されているようで、少し恥ずかしさを感じつつも色んな角度から褒めちぎってみた。だが、どういうわけか納得していないようで。

 「お前わざとやないやろな。なんでかっこいいって言ってくれんねん」

 「あれ? 俺、最初に言いませんでしたっけ?」

 言うてへんと保科が少しむくれた顔をしている。なんだか今日の彼は子どもっぽいな、と思いながら笑顔で告げる。

 「すげぇかっこいいです、副隊長」

 「その言葉を待っとった。気張って来たかいがあったわ。惚れ直したやろ?」

 目の前の保科がとてもご満悦そうな様子で、カフカも胸を撫で下ろす。

 「それとな、もう1つ。今日はその役職名で呼ぶのは禁止や。せっかくのデートなんやから、僕のことは名前で呼び」

 「えっと······ほ、保科さん?」

 「嘘やろ!? お前僕の名前知らんのか」

 そう言いながらめそめそと泣き真似をするので、慌てて否定をする。

 「知らないわけないじゃないですか! でも、その······いきなり名前で呼ぶのはハードルが高いと言いますか」

 最後のほうはごにょごにょと言葉を濁したような言い方であったが、保科には伝わったようで。何やら、うーんと唸っている。

 「まあしゃあないわ。今日はそれで勘弁したる」

 そんなやり取りをしながら、2人は車へと乗り込む。エンジンをかけ、ゆっくりと車が発進していく。
 見慣れた基地が少しずつ遠ざかっていくのを眺めながら、今日はどんな1日になるのだろうとカフカは気持ちが高揚していくのを感じていた。
 
 暫く車を走らせていると、邪魔やから持っといてとかけていた眼鏡を渡される。カフカは何となくミラー越しにそれをつけてみるが、笑ってしまうほど似合わなかった。完全に仮装大会だななどと思っていると、信号にひっかかり車が止まる。すると、保科の顔が近づいてきて触れるだけのキスをされる。

 「キスするのにも邪魔やな」

 そう言って、保科はカフカのかけていた眼鏡を取り、その頭に差し込んだ。
 信号が変わり、保科は何事もなかったかのように平然と運転し始める。カフカはというと、突然のことに対応できず呆然としていた。

 「どないした? そんな黙りこくって······お前、キス1つでそんなんやったら、僕とえっちする時はどうなってしまうんやろな」

 「は? ちょっ、ふく······じゃなくて、保科さん。朝から何言ってんすか」

 「何って、付きおうてるんやから、いずれはそうなるやろ? 子どもやないんやし」

 それはそうかもしれないが、朝の話題としてもデートの序盤としても、些か刺激が強すぎるのではとカフカは思ってしまう。

 「でも、安心しいや。今日は手出さへんから。最初からがっついとったら、体目当てと勘違いされるかもしれんからな」

 もうこの人は本当に何を言ってるんだろうと、カフカは頭を抱えるしかない。そんなカフカをよそに、保科は鼻歌交じりでご機嫌のようだ。

 本日の保科の状態を具体的にあげるとするならば、眠さ疲れともに限界値。デートに対するやる気と浮かれは最高値。その全てがない交ぜになって出来上がっている。要は稀に見るハイテンションなのだ。本人としては至って普通だと思っているので、被害に遭うのはカフカ1人なのである。

 「ところで、カフカ。お前その服、誰に選んでもろた?」

 どうしてか自分で選んだと思われないことが少し腑に落ちないが、全くもってその通りなので素直に返事をする。

 「昨日キコルたちに付き合ってもらって買ってきたんですけど、変ですか?」

 「いや、変やない。よぉ似おうとるで? ただ、僕の好みやないけどな」

 デートが始まり、ものの数十分で否定されてしまった。昨日皆と悩んで迷って漸く決まった1着だったのに、頑張りが報われないのは辛いものだとカフカの表情は暗い。

 「そんな落ち込まんでもええやん。かっこいいで、カフカ」

 保科の手が伸びてきて、カフカの頭をよしよしと言いながら優しく撫でている。でも好みではないんですよね、とカフカはそんな彼の発言に恨みがましく付け加える。どんなに見栄えが良かろうとも、保科に気に入ってもらえなければ意味がないのだ。

 「今日はデートやしなぁ······せっかくやったら、僕色に染めたいやん? ちゅうことでーーカフカ、まずはお着替えしよか」

 その服はまた今度着ていけば良い。市川たちも交じえて飯でも奢ってやるから、とカフカは慰めとともに縮こまった背中を軽く叩かれた。
 そして、車から降り立った2人だが、そこから見える店がまたもや途轍もない高級感を放っている。昨日見た光景とそっくりで、カフカの足取りは重い。

 「ふっ保科さん、俺実は昨日この服買ったりしてお金使い過ぎちゃったので······」

 またここで服を買ってしまったら、この後デートで使えるお金が無くなってしまう。どうにか踏み止まってもらおうと、保科に声をかけた。

 「そんなん心配せんでええよ。そもそも今日は、お前に財布出させる気ないからな。全部、僕の奢りや」

 「いやいや、そういうわけにはいきませんよ」

 「うーん、お前は知らんかもわからんけど。実は僕、ええとこのボンボンやねん。金ならある」

 「いや、知ってますけど!? そういう問題じゃなくて······というか、そういう台詞あまり自分で言わないほうが良いのでは!?!」

 訴えも虚しく、保科は予定通りカフカを連れ店へと向かっていく。『ほな、いくで』と手の平を下から掬い上げるようにして恋人繋ぎされたため、カフカはたたらを踏んでそのままついていくこととなった。
 店に入るとすぐに店員が寄ってくる。スタイルが良くモデルのような女性店員が、『今日はどういったものをお探しですか?』とにこやかに尋ねてきた。連れの服を探しにと保科が答えていて、その間も手は繋がれたままだ。大丈夫なんだろうかと心配になって、カフカはその手ばかり見つめてしまう。
 そうこうしていると、昨日と同様にまたたくさんの服と対峙することとなった。2日続けて着せかえ人形はやや疲れるなと思いながらも、言われるがままに袖を通していく。着た服を披露するたびに似合ってるとかかわいいとか褒めちぎられてしまうので、カフカは満更でもない気持ちになった。それに保科が嬉しそうに楽しそうにしているので、それが何よりだと思ってしまう。

 「カフカはどれがええ? 好みのもんあったか?」

 「俺はどれでも······保科さんの気に入ったものが着たいです」

 「お前従順過ぎんか? それやったら何着か買うたるかな」

 そう言って本当にいくつか見繕っているので、1着で十分ですとカフカは慌ててやめさせた。保科は渋々1着に絞り、それを着るように渡してくる。素直に受け取って着替えようとすると、試着室のドアから頭だけ出し覗き込んだ状態で保科が止まっている。どうかしました?と尋ねると別にと言いながら微笑んだ。

 「カフカ、お着替え手伝おうたろか?」

 そう言いながら、保科はしれっと試着室の中に入ってきて扉を閉めた。

 「え? 何してるんですか」

 カフカは手渡された服を握りしめたまま、意味が分からずその場に立ち尽くす。何故かお互い見つめ合い、暫しの沈黙。普段閉じられている紅い瞳が、こちらを捉えてはなさない。

 「何って、なんやろなあ」

 その言葉を皮切りに、追い剥ぎの如く着ている服を脱がせようとしてくる。ついでにあちらこちらとお触りされて。試着室からはカフカの静止する声やあられもない声が漏れ聞こえた。息つく間もなくそんな攻防が一頻り続く。そして、漸くカフカは半泣きになりながら、保科を外へと追いやることに成功した。

 「ちょ、っと······もう! いい加減にしてください、副隊長!!」

 カフカは試着室の扉をバンと勢いよく閉めた。その中からはぜぇはあと息切れしたような荒い呼吸音が聞こえてくる。
 一方試着室からポイッと追い出された保科は、乱れた髪をかきあげながら不満げに呟く。

 「追い出されてしもた······何やケチやな」

 すると、その様子を見ていた女性店員たちが、可笑しそうにくすくすと笑っている。それに気づいた保科は『騒がしくして、えらいすんません』と謝罪を述べた。ご満悦そうな極上の笑みを添えて。
 その色気に魅了されたのか、先程まで笑っていた店員たちから悲鳴のようなどよめきが起こった。
 着替え終えたカフカがその現場を丁度目撃し、何となく面白くないと思ったようで。しゃがみ込んでいる保科の耳元に、後ろからそっと囁いた。

 「着替え終わりましたよ、宗四郎さん」

 すると、保科は弾かれたようにこちらを向き、これでもかと目をかっぴらいている。

 「今僕の名前呼んだか? 呼んだよなあ!?」

 録音したいからもっかい呼んでくれへん?とこれ以上ないくらい喜んでいて、それを見たカフカも心のもやもやとした気持ちも無くなりご満悦である。

 「恥ずかしいんで、もう言いません」

 そう言われても諦めきれないのか保科は食い下がりつつ、お会計を済ませていた。結局お店を出る頃にはとうに昼を過ぎていて、妙な疲れと空腹が急に襲ってくる。

 「すまんなあ、昼過ぎてしもうて······飯にしようか?」

 ところで、最終的にカフカはどんな格好になったかというと、体のラインが出ない厚めの生地の白いパーカーである。首元は少し広めに開いていて、中に着ているタンクトップがちら見えしている。袖口にはファーがついていて洒落てはいるものの、カフカの手持ちにあるものとさして代わり映えしないようにも思える。本当にこれでいいんだろうかと疑問だし、少々腑に落ちないところもある。たかだかパーカーに恐ろしく高い値札がついていたからだ。もったいないなと貧乏くさいことを考えてしまうけれど。保科が自分のために選んでくれたのだから、きっとこれで良いのだろうとカフカは自身を納得させた。

 「カフカ、この店でええか?」

 考えごとをしているうちに、どうやら店についたようだが。これまた小洒落た店だと構えてしまう。こういった店は味はいいかもしれないが、量が少ないんだよなあと浮かない顔だ。お腹が空いているからもっとがっつり食べられるところがいい、とデートであることも忘れてカフカはそんなことを思っていた。
 一方店の中へと入った保科は『奥の席をお願いします』と店員に伝え、そのまま慣れた様子で進んでいく。彼の指定した席は半個室のようになっていて、落ち着いた店内も相まって周りを気にせず食事が出来そうだった。

 「何でも好きなもん頼んでええよ?」
 
 メニューを手渡されて何となしにそれを捲ったカフカだったが、突如その動きが止まる。

 「え? カレーがいっぱいある!? すげえ! しかもどれも旨そう」

 先程までの懸念が嘘のように、カフカは子どもみたいに目を輝かせている。

 「そうやろ? ここのカレー上手いからカフカに食べさせたかってん」

 あとハンバーグセットもあるんやで、と見せられたメニュー表。そこにはこれまた美味しそうなハンバーグの写真が載っていて、その誘惑に負けそうになる。カフカが悩みに悩んで選べずにいる中、保科が店員を呼びつけていた。

 「あ、保科さん、俺まだ決めてなくて」

 「2つとも頼んだらええやろ、1つ僕も食べるし」

 そう言ってハンバーグとカレーの両方を注文してくれる。
 子どものようにわくわくしながら料理が運ばれてくるのを心待ちにしていると、『それにしても、正解やったな』と保科が呟いた。

 「時間かけたかいあったと思うてな、その服。よぉ似合うとるで、カフカ。最高や」

 せっかく着替えたのに、普段着のようなこの服で本当に良かったのだろうかとカフカは少し不安だった。だけれど、恋人がこんなに喜んでくれて最高だと褒めてくれる。それがこれ以上ないくらいの幸福で、漸く胸のつかえが取れた気がした。

 それから程なくして、料理が運ばれてきた。カフカは手を合わせ元気よくいただきますをすると、保科は楽しそうに召し上がれと言ってくれる。

 「うっま! なにこれ、すげぇうまいっすよ」

 保科は、食べてるカフカをにこにこしながら眺めている。そんな彼が箸をつける様子がないことに気づき、首を傾げる。

 「保科さんは食べないんですか?」

 「食べてるカフカ見るのに忙しいから、僕は食べる暇ないなあ······ほら、カフカ。ハンバーグも上手いから食べてみ?」

 ほらあーんと、ハンバーグを1口分フォークにさしてこちらに向けてくる。僕しか見てへんから恥ずかしくないやろ?と言いながら。このための個室だったのかと漸くカフカの中で合点がいく。
 にこやかに笑ってはいるが引き下がるような様子もなくて、仕方なくカフカもあーと大きく口を開けてそのハンバーグを受け入れる。
 咀嚼に合わせて肉汁がじゅわっと口に広がり、柔らかくてとても美味だ。
 
 「ほんまに旨そうに食べるよなあ。かわええな、カフカ。ほらもう1口」

 そう言って楽しそうに次々カフカの口に運び入れてくるので、カフカはもぐもぐしている口元を両手で隠し次が来るのを防いだ。

 「俺ばっかり食べてるじゃないですか! 保科さんの分なくなっちゃいますよ」

 「ほな僕にも食べさせて? そのカレー」

 やはりそうくるか、と思ってしまったカフカだが。自分はやってもらっておきながら、彼にはしてあげないというのもどうかと思い、自身のスプーンで一口分掬う。そして、緊張で微かに震える手で、はいあーんと保科の口元へと持っていく。開かれた唇から赤い舌がのぞいていて、それがやけに扇情的で。
 そんなことを思っていると、緊張が増してしまい少し手元が狂った。そのせいで、彼の口の端を少し汚してしまう。

 「ん、ありがとうな。やっぱりここのカレーはうまいなあ」

 そう言いながら、保科はカレーのついた口の端を舌でゆっくりと舐め取っていた。その様に妙な色気があり、カフカは目が離せなくなる。

 「何や? まだ口についとるんか? お前、ずっと僕の口元見つめとるけど」

 そう指摘されて図星のカフカは、茹で蛸のように瞬時に顔を真っ赤に染めあげた。保科はその様子を頬杖ついて楽しそうに眺めている。

 「カフカ、お前も口元ついとるで? とってやるから、こっちに顔寄せてくれるか?」

 すると、素直に向かいの席に座る保科の方に、身を乗りだすようにして顔を近づけてきた。それを見てふふっと笑みをこぼしながら、カフカとの距離をつめる。そして、その後頭部に手を回し、ぐっと引き寄せ唇を奪った。
 予想した行動と違っていたことに驚いたカフカはそこから逃れようとするが、がっしりと掴まれていて身動きがとれずされるがままだ。
 その唇を十分に堪能した保科は、最後にカフカの口元を舐め上げ離れていった。漸く開放されたカフカは、顔を赤らめながらぶるぶると体を震わせている。恥ずかしくて、居たたまれなくて。
 だから、不意に目の前にある食べかけのカレーを手にし、がつがつと勢いよくかきこんだ。保科と外で食事をする時は、絶対に個室には入らないと誓いながら。

 「ええ食べっぷりやなあ。よお食べる子は好きやで」

 カフカに食べさせて半分ほどに減ったハンバーグを、保科もナイフとフォークを使って上品に口に運んでゆく。
 程なくして2人とも食事を終え、店を後にした。 
 そして彼らは、その後もぶらぶらと歩きながら街を散策し、時折目についた店を巡りながら2人の時を楽しく過ごしたのだった。


 「休みなんてあっちゅう間やな」

 「そうですね」

 あまり遅くなると寮の門限に間に合わなくなるので、頃合いを見てお開きとなっていた。帰りも有明基地まで送ってくれるらしく、今彼らは基地を目指して車を走らせている。そして、有明の外壁が遠目に見えてくるといつもの踏切りがあり、その音が今日という日の終了を告げていた。
 もっと一緒にいたかったな、カフカは見慣れた光景がどんどん近づいてくる中そっと心のうちで呟く。
 基地の少し手前で車が止まり、カフカはゆっくりと降り立った。そして、運転席の方へ回ると、保科がその小窓を開けてくれる。

 「今日は本当にありがとうございました。すげぇ楽しかったです!」

 「それは良かったわ。僕も楽しかったし、それにお前のおかげでええ誕生日になったわ」

 「そうですか············ん? 今なんて言いました?」

 「楽しかったし、ええ誕生日なった」

 「は······? はあ!? まさか今日、副隊長お誕生日なんですか!?!」

 お前、声でかすぎるねん、と保科は耳をおさえて後ろに仰け反っている。カフカはそんなことお構いなしに、保科の肩を掴み大きく揺すってくる。

 「なんで! どうして、もっと早く教えてくれなかったんですか」

 「そやかて、今日誕生日やなんて自分からよお言わんわ。この年になったら誕生日なんて1つ年取るだけで、何もめでたい事なんてない。それはお前もよお分かっとることやろ?」
 
 「それは、そうかもしれないですけど······でもやっぱりす、好きな人の誕生日は祝いたいし、プレゼントだってあげたかったです。ていうか、よく考えたら俺。副隊長に服買ってもらって、飯まで奢ってもらって······もうどっちが誕生日か分かんないじゃないですかぁ」

 カフカは自分のあまりの情けなさに落ち込み、車の窓に手をつきそのままへなへなとへたり込むようにしゃがんだ。そんなカフカの頭を窓から手を伸ばし優しく撫ででやる。

 「何言うとるん。好きな子の休日独り占めして、僕のしたいこと全部させてくれて······これ以上ないくらいのプレゼントやろ。ケチなんかつけたら、バチが当たってまう」

 だから落ち込んどらんと、かわいい顔見せてやと俯いているカフカに声をかける。暫くゔーーと唸っていたカフカだが、突然がばっと勢いよく立ち上がり真剣な眼差しで保科を捉える。

 「それでも俺は、ちゃんと貴方の誕生日祝いたかったです······だから、約束してください。来年は一緒にケーキ食べてプレゼント受け取って、俺に貴方の誕生日を全力で祝わせてくれるって!」

 保科の目の前には、差し出されたカフカの小指があった。指切りなんて本当にする奴がいたのかと、保科は物珍しそうにその指を眺める。そして何より、当然のように来年の約束を取り付けてくる目の前の恋人に感動していた。
 たっぷりと時間をかけ、幸せを噛み締めながら保科はその指に自身の指を絡める。

 「指切りなんて初めてしたわ。やっぱ自分、おもろいなあ」

 「俺だって初めてしましたよ? それより、約束破ったら針······何本だったかな、あれ?」

 カフカは絡めた小指を上下にぶんぶんと振りながら、考え込んでいる。

 「ふはっ、やるんやったらちゃんと覚えとかな。締まらんなぁ」

 夕闇が迫り、辺りは静まり返っている。
 目の前のかわいい恋人を、もう解放しなければいけない時間なのだろう。だがせめて、あともう少しだけこのままで······そんな願いを込めて、保科は絡めた指をきつくした。

 「ちょっと、ど忘れしただけじゃないっすか、もう! それに副隊長って、約束は絶対守ってくれる人でしょ?」

 当然のようにそう言ってくれるのだから、この男には敵わない。
 それ程までに自分を信用してくれているのだと思うと、顔がにやけてしまって仕方がなかった。そんな顔を隠すように保科は口元に手をやりながら、そうやなと答える。

 「俺今、副隊長って言っちゃいましたよね、保科さん」

 そう笑う彼の姿が美しい夕紅に染まっていく。
 自分はこの光景をきっと一生憶えているのだろう、保科は刻々と色を濃くしていく夕焼け空を眺めながらそう思った。


 「ほんまに、今までで1番ええ誕生日やった」



  終


 happy birthday! 11.21  hoshina soshiro

 

 
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