保カフ (怪獣8号) ふたりは新婚さんシリーズ
保カフ ふたりは新婚さんシリーズ 『脱兎キャプチャー』
「カフカ帰ったでー」
深夜1時過ぎ、陽気な声が玄関から響いてくる。
育ちの良さなのか、普段はとてもお行儀の良い人なのでこれは滅多にない光景だ。連続勤務で休みがなくさらにお偉いさんとの接待ともなれば、こういう状態で帰ってきたとしても仕方がないだろう。
いつも彼は『遅くなるときは待たんでええから、先寝とき』と言ってくれる。優しくてとても良い旦那様だなぁと思うけれど、一緒に暮らしていて会えない日が続くと少し寂しいとも思う。
だから、今日の朝珍しく『起きて待っといて』と言われた時は思わずガッツポーズしたし、夜はずっとその帰りを嬉々として待っていたのだ。
「お帰りなさい、宗四郎さん」
そう笑顔で迎えると、今日も僕のカフカがかわいいと言いながら抱きついてくる。だから、その背中をお疲れさまと優しく撫でてあげた。
「そういえば、宗四郎さん宛に荷物届いてましたよ」
抱きついて離れない力強い旦那様を、なんとかリビングまで連れていく。忘れないうちにと、テーブルの上に置いていた箱について尋ねてみた。
今日の最終便で届いたそれは、宗四郎さん宛の荷物である。中身が分からなかったのでそのまま放置していた。クール便ではなかったので腐るものではなさそうだが、もし食べ物なら早めに取り出したほうがいいかもしれない。そう思い疲れていてしかも酔っている彼に、わざわざお伺いを立てたのだ。
「ああ、届いとったか······それ。お前へのプレゼントやから、開けてみて」
「え、プレゼントって······俺、誕生日はもう終わりましたよ?」
「ええから、はよ開けてみて」
特に何の日でもないのに、プレゼントなんて貰ってしまっていいんだろうか。そんなことを考えながら、箱を丁寧に開いていく。すると、中から黒い袋に包まれたものが出てきた。中身は何だろうと手を突っ込んで取り出してみると、兎耳のついたカチューシャが出てきた。
「え、何これ?」
訳がわからず彼のほうを振り向くと、満面の笑みでこちらを見ていた。だが、何も言ってくれない。
面白いことが好きな彼の、ある種のユーモアみたいなことなのだろうか。なんだか腑に落ちないが、中身はこれだけではないだろうとさらにその中身を探っていく。すると、テカテカと黒光りしているベストとショートパンツが出てきたんだが······本当に、何これ?
「うーん、思うてたんよりちゃっちいなあ。まあ、ええわ······カフカ、せっかく起きて待っててくれたんやから、それ着て見せてくれへん?」
「いや、いやいやいや······え? これ着るんですか? 俺が、今? こんな夜中に!?」
そもそも、これ何!?! と眠りかけた頭では答えを導けるはずもなく、また彼の心理も到底理解できなかった。意味が分からず困惑していると、僕、明日も仕事やねんとさらに混迷を極めるような答えが返ってきた。
「······明日······休み、じゃ?」
「それが、なくなってん! もう僕はだめや······明日大っ事な会議が入ってもうたけど、もう行く気力ないねん。そやから、僕を助けると思って着てくれ、カフカ」
カフカがそれ着てくれたら疲れも吹っ飛ぶわとか、カフカのかわいい姿見れたら明日も頑張れそうやわとか、尤もらしい理由をつらつらと述べ連ねていく。そうなってくると、着ないわけにはいかないような気がしてきてしまうわけで。上手いこと操られているなとも思うが、必死に訴えているので良しとしておく。
「あーもう、わかりました! 着替えてくるので、ちょっと待っててください」
とりあえず姿見のある脱衣所に行って、着替えてみることにした。
宗四郎さんの帰りを待っていたと言ったが、実は待ちきれずうたた寝していたのである。そのため、頭がまだ働いていなかったのだが、漸く覚醒してきたのだろう。
プレゼントされたこの謎の服が、俗に言うバニーガールというやつなのだと漸く気づくことができた。だが、気づいたところで一体なんだ、という話だ。なぜこれを着なければいけないのか、どうして彼はあんなにこれに固執するのか。わからないことだらけである。
そうこう言いつつ着替えてみたものの、これはヤバい。
何がヤバいって似合ってないこともさることながら、この服のサイズがおかしいのだ。ワンサイズくらい小さめなのだろうか、生地とかボタンとか悲鳴をあげている。ぱっつぱつのピッチピチなのだ。たぶんだけどこれ、弾け飛ぶと思う。
「カフカーまだぁ? 着方分からんやったら、僕も手伝うでー」
待ちきれないのか彼は脱衣所の扉をコンコンと叩きながら、声をかけてきた。
着方が分からないということは決してない。実に単純な作りで、ボタンとファスナーしかないのだから。不安要素があるとするならば、箱の底に見えた網目だろう。あんなに網あみの靴下を履くのは人生初なので上手く履けるかどうか······
箱の底に残っていた靴下らしきものを引っ張り上げてみると、一緒に何やら絡まってついてきた紐状のもの。
え、何これ? 本日2度目の台詞である。
「ああ、それ······パンツやな」
疑問に答えるように耳元に直接話しかけられ、思わず肩が飛び上がる。扉の開く音も足音もしなかったのだが、いつの間にか宗四郎さんが中へ入ってきていたようだ。
「パン······ツ? これが? この紐が!?」
「紐ちゃうよ、ほら······前隠すところあるやん」
ほらと見せられた布面積のまあ、小さいこと。それで何が隠せるというのだろう。そもそも後ろは丸出し前提なんですか?
「あれ? カフカ。パンツ履かんと服着てしもうたん? もう1回着替え直しやなあ」
「あの······宗四郎さん、何してるんですか?」
「えー? 何って、豊満な胸に顔埋めて頬ずりしてるだけやけど」
さも当然とばかりに、彼が抱きついてきて顔をぐりぐりと擦りつけている。服がぴちぴちなのでいつもよりも、胸が寄せて上げて状態になってはいるが。
「なんかスケベおやじみたいになってますけど」
「男なんて皆そんなもんやろ。それよりも、カフカ······さっそく、これにお着替えしよか?」
彼は紐パンを手に微笑みを湛えている。
やはりこの人には休日が必要だと思う、切実に。
「いや、もういいでしょ? 言われた通り着たんだから。明日も仕事なんだし、もう寝ましょう、ね?」
「何言うとんねん! これを着けたカフカを見るまでは僕絶対寝らんで。見られへんかったら、死んでも死にきれん。そやから――」
彼は床に転がっていてまだつけていなかった兎耳のカチューシャを拾い、俺の頭にのせた。それはもう、極上の笑みを浮かべながら。
「大人しく言う通りにしてや? かわいい、かわいい僕のウサギさん」
それからも擦った揉んだ、着る着ないの攻防は続き無情にも時は過ぎていった。スケベおやじもとい旦那様のセクハラまがいに耐えかねて少し手が出たりもしたが、それでも諦めないので観念し最終的には言われるがまま着ることになった。だが、1度脱いでから着て、また脱がされる羽目になったのが、正直いちばん腑に落ちない。
「せっかく着たのになんで脱がせようとしてるんですか!? 元気ありあまってるじゃねえか、もう寝ろよ!」
「カフカ帰ったでー」
深夜1時過ぎ、陽気な声が玄関から響いてくる。
育ちの良さなのか、普段はとてもお行儀の良い人なのでこれは滅多にない光景だ。連続勤務で休みがなくさらにお偉いさんとの接待ともなれば、こういう状態で帰ってきたとしても仕方がないだろう。
いつも彼は『遅くなるときは待たんでええから、先寝とき』と言ってくれる。優しくてとても良い旦那様だなぁと思うけれど、一緒に暮らしていて会えない日が続くと少し寂しいとも思う。
だから、今日の朝珍しく『起きて待っといて』と言われた時は思わずガッツポーズしたし、夜はずっとその帰りを嬉々として待っていたのだ。
「お帰りなさい、宗四郎さん」
そう笑顔で迎えると、今日も僕のカフカがかわいいと言いながら抱きついてくる。だから、その背中をお疲れさまと優しく撫でてあげた。
「そういえば、宗四郎さん宛に荷物届いてましたよ」
抱きついて離れない力強い旦那様を、なんとかリビングまで連れていく。忘れないうちにと、テーブルの上に置いていた箱について尋ねてみた。
今日の最終便で届いたそれは、宗四郎さん宛の荷物である。中身が分からなかったのでそのまま放置していた。クール便ではなかったので腐るものではなさそうだが、もし食べ物なら早めに取り出したほうがいいかもしれない。そう思い疲れていてしかも酔っている彼に、わざわざお伺いを立てたのだ。
「ああ、届いとったか······それ。お前へのプレゼントやから、開けてみて」
「え、プレゼントって······俺、誕生日はもう終わりましたよ?」
「ええから、はよ開けてみて」
特に何の日でもないのに、プレゼントなんて貰ってしまっていいんだろうか。そんなことを考えながら、箱を丁寧に開いていく。すると、中から黒い袋に包まれたものが出てきた。中身は何だろうと手を突っ込んで取り出してみると、兎耳のついたカチューシャが出てきた。
「え、何これ?」
訳がわからず彼のほうを振り向くと、満面の笑みでこちらを見ていた。だが、何も言ってくれない。
面白いことが好きな彼の、ある種のユーモアみたいなことなのだろうか。なんだか腑に落ちないが、中身はこれだけではないだろうとさらにその中身を探っていく。すると、テカテカと黒光りしているベストとショートパンツが出てきたんだが······本当に、何これ?
「うーん、思うてたんよりちゃっちいなあ。まあ、ええわ······カフカ、せっかく起きて待っててくれたんやから、それ着て見せてくれへん?」
「いや、いやいやいや······え? これ着るんですか? 俺が、今? こんな夜中に!?」
そもそも、これ何!?! と眠りかけた頭では答えを導けるはずもなく、また彼の心理も到底理解できなかった。意味が分からず困惑していると、僕、明日も仕事やねんとさらに混迷を極めるような答えが返ってきた。
「······明日······休み、じゃ?」
「それが、なくなってん! もう僕はだめや······明日大っ事な会議が入ってもうたけど、もう行く気力ないねん。そやから、僕を助けると思って着てくれ、カフカ」
カフカがそれ着てくれたら疲れも吹っ飛ぶわとか、カフカのかわいい姿見れたら明日も頑張れそうやわとか、尤もらしい理由をつらつらと述べ連ねていく。そうなってくると、着ないわけにはいかないような気がしてきてしまうわけで。上手いこと操られているなとも思うが、必死に訴えているので良しとしておく。
「あーもう、わかりました! 着替えてくるので、ちょっと待っててください」
とりあえず姿見のある脱衣所に行って、着替えてみることにした。
宗四郎さんの帰りを待っていたと言ったが、実は待ちきれずうたた寝していたのである。そのため、頭がまだ働いていなかったのだが、漸く覚醒してきたのだろう。
プレゼントされたこの謎の服が、俗に言うバニーガールというやつなのだと漸く気づくことができた。だが、気づいたところで一体なんだ、という話だ。なぜこれを着なければいけないのか、どうして彼はあんなにこれに固執するのか。わからないことだらけである。
そうこう言いつつ着替えてみたものの、これはヤバい。
何がヤバいって似合ってないこともさることながら、この服のサイズがおかしいのだ。ワンサイズくらい小さめなのだろうか、生地とかボタンとか悲鳴をあげている。ぱっつぱつのピッチピチなのだ。たぶんだけどこれ、弾け飛ぶと思う。
「カフカーまだぁ? 着方分からんやったら、僕も手伝うでー」
待ちきれないのか彼は脱衣所の扉をコンコンと叩きながら、声をかけてきた。
着方が分からないということは決してない。実に単純な作りで、ボタンとファスナーしかないのだから。不安要素があるとするならば、箱の底に見えた網目だろう。あんなに網あみの靴下を履くのは人生初なので上手く履けるかどうか······
箱の底に残っていた靴下らしきものを引っ張り上げてみると、一緒に何やら絡まってついてきた紐状のもの。
え、何これ? 本日2度目の台詞である。
「ああ、それ······パンツやな」
疑問に答えるように耳元に直接話しかけられ、思わず肩が飛び上がる。扉の開く音も足音もしなかったのだが、いつの間にか宗四郎さんが中へ入ってきていたようだ。
「パン······ツ? これが? この紐が!?」
「紐ちゃうよ、ほら······前隠すところあるやん」
ほらと見せられた布面積のまあ、小さいこと。それで何が隠せるというのだろう。そもそも後ろは丸出し前提なんですか?
「あれ? カフカ。パンツ履かんと服着てしもうたん? もう1回着替え直しやなあ」
「あの······宗四郎さん、何してるんですか?」
「えー? 何って、豊満な胸に顔埋めて頬ずりしてるだけやけど」
さも当然とばかりに、彼が抱きついてきて顔をぐりぐりと擦りつけている。服がぴちぴちなのでいつもよりも、胸が寄せて上げて状態になってはいるが。
「なんかスケベおやじみたいになってますけど」
「男なんて皆そんなもんやろ。それよりも、カフカ······さっそく、これにお着替えしよか?」
彼は紐パンを手に微笑みを湛えている。
やはりこの人には休日が必要だと思う、切実に。
「いや、もういいでしょ? 言われた通り着たんだから。明日も仕事なんだし、もう寝ましょう、ね?」
「何言うとんねん! これを着けたカフカを見るまでは僕絶対寝らんで。見られへんかったら、死んでも死にきれん。そやから――」
彼は床に転がっていてまだつけていなかった兎耳のカチューシャを拾い、俺の頭にのせた。それはもう、極上の笑みを浮かべながら。
「大人しく言う通りにしてや? かわいい、かわいい僕のウサギさん」
それからも擦った揉んだ、着る着ないの攻防は続き無情にも時は過ぎていった。スケベおやじもとい旦那様のセクハラまがいに耐えかねて少し手が出たりもしたが、それでも諦めないので観念し最終的には言われるがまま着ることになった。だが、1度脱いでから着て、また脱がされる羽目になったのが、正直いちばん腑に落ちない。
「せっかく着たのになんで脱がせようとしてるんですか!? 元気ありあまってるじゃねえか、もう寝ろよ!」
15/15ページ