保カフ (怪獣8号) ふたりは新婚さんシリーズ
保カフ 『シェアするふたり』
「お帰りなさいませ、ご主人様」
ただいま、と控えめに呟きながら靴を脱いでいると、待ち構えていたかのように彼が出迎えてくれた。だが、その姿に唖然とする。
黒い長めのワンピースに、フリルのあしらわれた白いエプロン。そして、見慣れぬサラサラと美しい長い黒髪。
疲れすぎて幻覚を見ているのか、はたまた間違えて別の見知らぬ家の玄関をくぐってしまったのか。これはややもすると住居侵入とかの罪になるのではないか、と考えて胸が早鐘を打つ。
「なんで、だんまりやねん。これ、似合わへんか?」
目の前の人物から聞き慣れた愛しい人の声が聞こえてきた。そこで漸く間違えていなかったのだと、ほっと胸を撫で下ろすことができた。
「どうしたんですか、それ? 宗四郎さん、美人だから似合ってるとは思いますけど」
「今日······いや、もう日付かわってしもうたから、昨日やねんけど。メイドの日、やって。こんな遅くに帰ってくる、お疲れのお前を癒やしたろかなあと思うて」
なんだか、少し言い方にとげがある気がする。
だが、悪いのは俺だから致し方ない。遅くなったにもかかわらず、連絡の1つもしなかったのだから。怒って当然ではあるが、厳密に言えば、しなかったではなくできなかったが正しい。
先日討伐した怪獣についての報告書を持っていったら、別の怪獣についての議論と遭遇してしまいお前の見解を聞かせろと捕まってしまったからである。知識と知識のぶつかり合いで、白熱してしまい気づけば帰り時間などとうに過ぎていて。慌てて宗四郎さんに連絡を入れようとしたが、俺のスマホは電池残量ゼロ%の表示。まさか、防衛隊支給の端末で、『今から帰ります。遅くなってすみません、宗四郎さん』なんて、私用の連絡をするのは憚られて、大人しくそのまま帰路に就いたのだ。
だから、不機嫌で当たり前なのだが、どうもその方向性がいつもと違うようでどう対処すべきか分からない。
「ふーん、そうかあ。こういうの好きか······お前も男やなあ」
気に入ったなら次はまた違うの着てやるでなどと楽しそうに話しながら、俺の手を引いて中に招き入れてくれる。だが、引く力が強すぎて俺はたたらを踏み、壁にぶつかりながらもその後を追う。
後ろから見た姿がもはや誰なのか分からなくて、着くや否や堪らずカツラをはずしてくれるように頼んだ。
「さあて、ご主人様お着替えしよか」
リビングを通り過ぎ、寝室へと直行したかと思ったら服を脱がされていく。それにしてもこのメイド、ボディータッチが多すぎるんじゃないか。
服を脱がせるだけなのに、不必要に体を触ってきてなでなでもみもみ。煩悩にまみれ過ぎだろう。
あと、もう1つ分かったことがある。格好が衝撃的すぎて気がつかなかったが、話すたびにアルコール臭がするのだ。
「宗四郎さん、酔ってるんですか?」
「酒は呑んだけど、酔ってへんで〜」
酔っている人は大抵そう言うものだ。
彼はとても酒に強く酔うということがほとんどない。それなのに、こんな奇行に走るなど、よほど痛飲したんだろう。俺の帰りが遅くてやけ酒でもしていたんだろうか。
そんなことを考えているうちに、あれよあれよという間に脱がされて今パンツ1枚のほぼ裸の状態となっている。脱がせた服を持っていき洗濯機を回し始めた音はしてきたが、今から着せてくれるだろう新たな服がやってくる気配が全くない。
「あの、俺いつまでこの状態なんでしょうか?」
「なんや、ご主人様えろい······いや、えらい格好になっとるなあ」
あんたのせいだろ! という文句は飲み込んで、服を着せてくれるように酔っぱらいメイドへとお願いする。
「しゃあないなあ〜ほな、僕のこの服、貸したるわ」
「いや、宗四郎さんにピッタリサイズだと、俺には少し小さいと思うんですけど」
どうしてその服なんだという問いは無意味だろう。だが、着るとなると実際問題無理があるというもの。
「ええやん、はいらんくてもええやん。寧ろええやん」
何が良いのか分からないが、服を脱ごうとし始めてその動きがとまる。どうしたのかと思っていると、楽しいそうにこちらに微笑みかけてくる。
「カフカ、脱がせて?」
ご主人様の手を煩わせるなんて、駄目なメイドだなあと思いながらエプロンの紐を解きはずす。そして、ワンピースの背中のファスナーをおろし上半身を脱がせると、そのまますとんと服が落ち均整の取れた美しい体が露わになった。
男ふたり、ともにパンツ1枚という姿になってしまったわけだが、どうしたものか。とりあえず先に、彼に服を着てもらおう。それが良い。
宗四郎さんの箪笥から手頃な服をとろうとした。したのだが、如何せん空なのだ。
「宗四郎さん、これ······どうしたんですか? 服1枚もないですよ」
「あ~そうやった。全部今、洗濯ちゅうやねん。暇やったから洗濯したろと思うて」
一緒に住むようになって知ったことの1つだが、箪笥の服を定期的に一掃しようとする癖が宗四郎さんにはあるのだ。彼曰く、着ていなくても箪笥に入れっぱなしにしておくと、湿気を吸い汚れているのと何ら変わらないから、とのこと。
「しょうがないっすね。俺の服貸すんでとりあえず着ておいてください」
今度は俺自身の箪笥を開けたのだが、まさかのこちらも空で。
元々仕事が忙しく私服を着る機会もそれほどないので、手持ちの服はお互い少なめだ。だからといって、これはないんじゃないか。1枚くらい残しておいても良さそうなのに。
「俺のもないんですけど」
「ついでにお前の分も洗ってやったわ」
そりゃあ、どうもと半ばやけくそに返事をしながら、頭を悩ませる。先程回し始めたばかりのはずだ。洗濯、乾燥するには時間がかかるだろう。その間、ずっとこのままというわけにはいかない。
今、ここに残された唯一の服は、ベッドの上に置かれた黒のワンピースと白のエプロンというメイド一式だ。さて、ここで問題。これらをふたりで着るならどう分ける?
まあ、結果こうなるわけだが――
「おま、お前······それやと、はっ······裸エプロンやないか!」
黒のワンピースを着た宗四郎さんは、足をばたつかせてスカートの裾をひらひらさせながら大爆笑している。
「しょうがないでしょ!? あんたにこれ着せるわけにいかないんだから。これが最適解っすよ」
「それ、着てるんか? 服着てることになるんか?」
酔っぱらいは笑い上戸のようだ。いつもよりも子どもみたいにごろごろと転がりながら笑っている。
今この人に何を言っても無駄だなと諦めて、疲れた体をベッドに横たえた。すると、宗四郎さんも俺の隣に寝転び、俺の頬をつついたり摘んだりし始める。
「せっかく今日な、早う帰れたのにお前が全然帰ってこうへんから。暇持て余して、読書してみたりしたけど集中できんくて。それやったら、なんか家事でもしたろと思うて」
そう言われてみれば、帰ってきた時にちらりと見えたキッチンが光り輝やいていたような気がする。早く帰れたのだから、体を休めておけばいいものを。
「もしかして、俺がいなくて寂しかったんですか?」
「······そう、かもしれん」
帰りを待つのはほぼいつも俺の役目みたいなものだから、彼は待ち慣れていないのだろうと思う。
「遅くなって、すみませんでした。俺に、何かして欲しいこととかありますか」
「それやったら、洗濯終わるまででええから······お前といちゃいちゃしたい」
今日は随分と言い方が可愛らしいなと思いながら、どうぞ、お好きにと唇を突き出す。すると、こんなところにかわいらしい唇あるやんとか言いながら、啄んでくる。
「今日はなんや脱がしやすい格好しとるな」
「そっちは脱がしにくいの着てるっすね」
そんなことを言い合いながら、洗濯時間を楽しんだ。
寂しい気持ちも楽しさも、服でさえも彼がいるから笑って分け合うことができる。いちばんそばにいて、一緒に暮らしているからこそできることなのだろう。
だがしかし、興が乗りすぎて洗濯終了の合図に気が付かず、結果洗濯物が外気に触れたのは早朝であったのというのは正直いただけないと思う。

「お帰りなさいませ、ご主人様」
ただいま、と控えめに呟きながら靴を脱いでいると、待ち構えていたかのように彼が出迎えてくれた。だが、その姿に唖然とする。
黒い長めのワンピースに、フリルのあしらわれた白いエプロン。そして、見慣れぬサラサラと美しい長い黒髪。
疲れすぎて幻覚を見ているのか、はたまた間違えて別の見知らぬ家の玄関をくぐってしまったのか。これはややもすると住居侵入とかの罪になるのではないか、と考えて胸が早鐘を打つ。
「なんで、だんまりやねん。これ、似合わへんか?」
目の前の人物から聞き慣れた愛しい人の声が聞こえてきた。そこで漸く間違えていなかったのだと、ほっと胸を撫で下ろすことができた。
「どうしたんですか、それ? 宗四郎さん、美人だから似合ってるとは思いますけど」
「今日······いや、もう日付かわってしもうたから、昨日やねんけど。メイドの日、やって。こんな遅くに帰ってくる、お疲れのお前を癒やしたろかなあと思うて」
なんだか、少し言い方にとげがある気がする。
だが、悪いのは俺だから致し方ない。遅くなったにもかかわらず、連絡の1つもしなかったのだから。怒って当然ではあるが、厳密に言えば、しなかったではなくできなかったが正しい。
先日討伐した怪獣についての報告書を持っていったら、別の怪獣についての議論と遭遇してしまいお前の見解を聞かせろと捕まってしまったからである。知識と知識のぶつかり合いで、白熱してしまい気づけば帰り時間などとうに過ぎていて。慌てて宗四郎さんに連絡を入れようとしたが、俺のスマホは電池残量ゼロ%の表示。まさか、防衛隊支給の端末で、『今から帰ります。遅くなってすみません、宗四郎さん』なんて、私用の連絡をするのは憚られて、大人しくそのまま帰路に就いたのだ。
だから、不機嫌で当たり前なのだが、どうもその方向性がいつもと違うようでどう対処すべきか分からない。
「ふーん、そうかあ。こういうの好きか······お前も男やなあ」
気に入ったなら次はまた違うの着てやるでなどと楽しそうに話しながら、俺の手を引いて中に招き入れてくれる。だが、引く力が強すぎて俺はたたらを踏み、壁にぶつかりながらもその後を追う。
後ろから見た姿がもはや誰なのか分からなくて、着くや否や堪らずカツラをはずしてくれるように頼んだ。
「さあて、ご主人様お着替えしよか」
リビングを通り過ぎ、寝室へと直行したかと思ったら服を脱がされていく。それにしてもこのメイド、ボディータッチが多すぎるんじゃないか。
服を脱がせるだけなのに、不必要に体を触ってきてなでなでもみもみ。煩悩にまみれ過ぎだろう。
あと、もう1つ分かったことがある。格好が衝撃的すぎて気がつかなかったが、話すたびにアルコール臭がするのだ。
「宗四郎さん、酔ってるんですか?」
「酒は呑んだけど、酔ってへんで〜」
酔っている人は大抵そう言うものだ。
彼はとても酒に強く酔うということがほとんどない。それなのに、こんな奇行に走るなど、よほど痛飲したんだろう。俺の帰りが遅くてやけ酒でもしていたんだろうか。
そんなことを考えているうちに、あれよあれよという間に脱がされて今パンツ1枚のほぼ裸の状態となっている。脱がせた服を持っていき洗濯機を回し始めた音はしてきたが、今から着せてくれるだろう新たな服がやってくる気配が全くない。
「あの、俺いつまでこの状態なんでしょうか?」
「なんや、ご主人様えろい······いや、えらい格好になっとるなあ」
あんたのせいだろ! という文句は飲み込んで、服を着せてくれるように酔っぱらいメイドへとお願いする。
「しゃあないなあ〜ほな、僕のこの服、貸したるわ」
「いや、宗四郎さんにピッタリサイズだと、俺には少し小さいと思うんですけど」
どうしてその服なんだという問いは無意味だろう。だが、着るとなると実際問題無理があるというもの。
「ええやん、はいらんくてもええやん。寧ろええやん」
何が良いのか分からないが、服を脱ごうとし始めてその動きがとまる。どうしたのかと思っていると、楽しいそうにこちらに微笑みかけてくる。
「カフカ、脱がせて?」
ご主人様の手を煩わせるなんて、駄目なメイドだなあと思いながらエプロンの紐を解きはずす。そして、ワンピースの背中のファスナーをおろし上半身を脱がせると、そのまますとんと服が落ち均整の取れた美しい体が露わになった。
男ふたり、ともにパンツ1枚という姿になってしまったわけだが、どうしたものか。とりあえず先に、彼に服を着てもらおう。それが良い。
宗四郎さんの箪笥から手頃な服をとろうとした。したのだが、如何せん空なのだ。
「宗四郎さん、これ······どうしたんですか? 服1枚もないですよ」
「あ~そうやった。全部今、洗濯ちゅうやねん。暇やったから洗濯したろと思うて」
一緒に住むようになって知ったことの1つだが、箪笥の服を定期的に一掃しようとする癖が宗四郎さんにはあるのだ。彼曰く、着ていなくても箪笥に入れっぱなしにしておくと、湿気を吸い汚れているのと何ら変わらないから、とのこと。
「しょうがないっすね。俺の服貸すんでとりあえず着ておいてください」
今度は俺自身の箪笥を開けたのだが、まさかのこちらも空で。
元々仕事が忙しく私服を着る機会もそれほどないので、手持ちの服はお互い少なめだ。だからといって、これはないんじゃないか。1枚くらい残しておいても良さそうなのに。
「俺のもないんですけど」
「ついでにお前の分も洗ってやったわ」
そりゃあ、どうもと半ばやけくそに返事をしながら、頭を悩ませる。先程回し始めたばかりのはずだ。洗濯、乾燥するには時間がかかるだろう。その間、ずっとこのままというわけにはいかない。
今、ここに残された唯一の服は、ベッドの上に置かれた黒のワンピースと白のエプロンというメイド一式だ。さて、ここで問題。これらをふたりで着るならどう分ける?
まあ、結果こうなるわけだが――
「おま、お前······それやと、はっ······裸エプロンやないか!」
黒のワンピースを着た宗四郎さんは、足をばたつかせてスカートの裾をひらひらさせながら大爆笑している。
「しょうがないでしょ!? あんたにこれ着せるわけにいかないんだから。これが最適解っすよ」
「それ、着てるんか? 服着てることになるんか?」
酔っぱらいは笑い上戸のようだ。いつもよりも子どもみたいにごろごろと転がりながら笑っている。
今この人に何を言っても無駄だなと諦めて、疲れた体をベッドに横たえた。すると、宗四郎さんも俺の隣に寝転び、俺の頬をつついたり摘んだりし始める。
「せっかく今日な、早う帰れたのにお前が全然帰ってこうへんから。暇持て余して、読書してみたりしたけど集中できんくて。それやったら、なんか家事でもしたろと思うて」
そう言われてみれば、帰ってきた時にちらりと見えたキッチンが光り輝やいていたような気がする。早く帰れたのだから、体を休めておけばいいものを。
「もしかして、俺がいなくて寂しかったんですか?」
「······そう、かもしれん」
帰りを待つのはほぼいつも俺の役目みたいなものだから、彼は待ち慣れていないのだろうと思う。
「遅くなって、すみませんでした。俺に、何かして欲しいこととかありますか」
「それやったら、洗濯終わるまででええから······お前といちゃいちゃしたい」
今日は随分と言い方が可愛らしいなと思いながら、どうぞ、お好きにと唇を突き出す。すると、こんなところにかわいらしい唇あるやんとか言いながら、啄んでくる。
「今日はなんや脱がしやすい格好しとるな」
「そっちは脱がしにくいの着てるっすね」
そんなことを言い合いながら、洗濯時間を楽しんだ。
寂しい気持ちも楽しさも、服でさえも彼がいるから笑って分け合うことができる。いちばんそばにいて、一緒に暮らしているからこそできることなのだろう。
だがしかし、興が乗りすぎて洗濯終了の合図に気が付かず、結果洗濯物が外気に触れたのは早朝であったのというのは正直いただけないと思う。
