保カフ (怪獣8号) ふたりは新婚さんシリーズ 

 保カフ ふたりは新婚さんシリーズ1 『いただきます!』



 「カフカ、一緒にならへん?」

 こんなかっこいい人が俺の前に跪いて、指輪の入った小箱をこちらへ向けている。そんなことが俺の人生であるなんて、これっぽっちも思っていなかった。

 「僕のお嫁さんになってください」

 抱えきれないほどの幸せをこんな俺が享受していいのか、今でもわからない。だけれど、この人が俺で良いと言ってくれるのならば······

 「ふつつか者ですが、よろしくお願いします」

 その日、俺は人生最大の幸せを手に入れた。その証に俺の左手薬指には彼とお揃いの指輪がはまっている。
 だけれどその事実が今でも信じられなくて、時折指輪をまじまじとみてしまうのだが······

 そんなこんなで、俺は上司で年下の旦那様 保科宗四郎さんと新婚生活を送っている。


 「カフカぁ、もう僕出かけるけど」

 「あ、ちょっと待って! 宗四郎さん、これ······」
 
 お互い仕事に出かけようとしている早朝。
 彼がシャワーを浴びているうちに、慌てて箱に詰めて用意した。上段がご飯で、下段がおかずというごく一般的なものだ。中身自体は昨日のうちに作り置きしておいたので、味は保証できる、たぶん。

 早よせな遅刻してまうで、と言っている彼の目の前におずおずとその包みを掲げて見せた。

 「え、なに? まさかそれ、僕の弁当? カフカが作ってくれたん?」

 俺がこくりと頷くと、彼はその包みをひょいと俺の手ごと持ち上げそのまま俺を抱きよせた。
 
 「嬉しいわ、ありがとな。でもなんで、急に弁当なん? そんなん言うとらんかったやろ」

 おかずなんやろ、昼が待ち遠しいなあと言いながら弁当を持つ俺の手や顔に感謝と愛のこもったキスを降らせてくれる。

 「······いや、あの、最近忙しくて宗四郎さんと一緒にご飯食べられないこと多いから、せめて同じご飯たべたいなあって思って」

 「もうーそないかわいいことされたら、仕事いきたなくなるわ」

 今日はもう休もうかなっと言い始めた彼を宥めて、それぞれの仕事場へと向かった。俺は第1、彼は第3部隊所属なのは今でも変わらずで。仕事中顔をあわせることもないから、せめてこのお弁当を食べているときだけは俺のことを思い出してほしい。これはそう、ささやかな俺のわがままだ。
 
 午前中は事務処理と鳴海隊長の部屋の整理と地味だが慌ただしく過ぎていった。
 そして、漸くお昼になり俺は自分で作った弁当の包みをひろげる。宗四郎さんも食べてくれてるかなぁと、弁当を前にして喜ぶ彼の姿を想像しているとこちらも自然と笑みが溢れる。

 だが、弁当の上段と下段を横並びにし蓋をあけたところで、目の前に広がる光景に俺は唖然とした。


 ま、間違えたあぁあぁぁーー!

 本来ならば、ご飯とおかずがそろうはずなのだが、これはどう見てもご飯とご飯、ダブルご飯である。慌てて包んだので組み合わせを間違えてしまったのだろう。
 ということは、愛しの旦那様のもとにある弁当はダブルおかずの組み合わせで間違いない。
 所属する部隊も違うし、全く同じ、お揃いの弁当箱でいいやと色まで同じものにしたのが仇となった。色さえ違っていれば、こんなことにはならなかったはずだ。

 やっちまったと、弁当を前に項垂れていると、第1の人たちが集まってきた。

 「何そのお弁当、どうやって食べる気なのよ」

 そう言いながら、向かいの席に座ったキコルは自分のおかずを1つ俺のご飯の上にのっけてくれる。

 「貧相なお弁当ねぇ、見るに堪えないから恵んであげるわ」

 東雲小隊長も自分のおかずを1つカフカのご飯の上においた。その後も他の隊員が1つまた1つとおかずを置いていき、気づけばなんとも豪勢なお弁当へと変貌していた。

 「あ! 宗四郎さんに電話して謝らないと」

 伏せていた頭をあげ、思いついたことをそのまま口に出すと、いつの間にやら隊員に囲まれていて。
 そうしろうさーん?と皆が楽しそうに復唱するので、恥ずかしくなり誤魔化すために大声で副隊長と訂正する。

 「保科副隊長に連絡してきます!!」

 端末を持ち、人だかりになっている食堂を走り抜けた。

 人気のないところに辿り着いて、端末から電話をかける。
忙しいかなと心配したが、すぐに出てくれた。

 「カフカどないした? ん? 何、きこえへん······なんや、お前泣いとるんか?」

 電話越しに聞こえてくる声にほっとして、思わず泣きが入ってしまう。

 「宗四郎さん······ごめんなさい。俺お弁当······間違っちゃって」

 「弁当? 美味かったでー······ああ、おかず2段、あれわざとやなかったんか」

 「わざとなわけないでしょ! それ嫌がらせじゃないっすか」

 米が無うておかず2段にしてくれたんやと思っとったーと全然気にしていなさそうなのんびりとした声が返ってくる

 「ちゅーことは、お前のほうはご飯2段やったってことか······もっと早う気づいてやればよかったなぁ。味気なかったやろ」

 「それがそんなこともなくて······皆優しくておかず分けてくれてたみたいなんで、むしろ豪華な感じになってると思います」

 「思いますって、まさかまだ食べてへんのか? 早うせんともう時間なくなるでーこっちのことは気にせんでええからはよ戻り」

 ここは、わかりましたと言ってすぐに電話をきるべきなんだろうと思う。だけどもう少し彼の声を聞いていたくて、この通話をどうにか引き延ばせないだろうか。そう考えてしまって俺は返事ができず、ほんの少しの無言。それを、そんな俺の気持ちを優しい彼が汲み取ってくれる

 「カフカ、今日は早めに帰るから······一緒にご飯食べような、約束や。だから、もう戻り」

 「······はい! ご飯いっぱい炊いて待ってますね」

 通話がきれ、暗くなった端末を何となく見つめる。
 お腹はきっと空いているのだろう。だけれど、胸いっぱいに幸せを吸い込んで、すごく満たされた気分だった。

 それから、走って食堂に戻るとキコルと鳴海隊長が揉めていた。
 俺のためにと集められたおかずたちを鳴海隊長がつまみ食いしてしまったらしい。結局俺の弁当は白いご飯が大半を占めていたが、そんなことどうでもよくなるくらい今日の晩ごはんのことで頭がいっぱいだった。

 ちなみに美味しいと言ってご飯をおかずにご飯を食べる俺が、後から来た長谷川副隊長の目にとても哀れに映ったようで······
 翌日、宗四郎さんのもとに長谷川副隊長から『もし金に困っているなら相談にのるぞ』というメッセージがきたらしい。


 終




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